第100話 疑念 

 おそらく天獄杯の会場に転移したんだろうが、俺は非常にショックを受けていた。いやいやおかしいだろ…ダンジョンならともかく天獄郷だぞここは。ダンジョン外で、しかも任意の場所に転移だと?護衛の子たちの様子を見るにビックリしてる様子もないから普段から使ってるんだろうけど…俺でもあるまいし、こんな気軽に使えるようなもんじゃないだろ。


 何かしらの魔道具という線は…ないな。こんな物流革命起こすような魔道具が存在するなら隠し通すなんてまず無理だろうし。つまりは今しがた起こった出来事は小雪ちゃんが言ってた通り天獄郷限定という事で間違いないだろう。


 可能性として考えられるのは台座の上で浮いてた球体、あれが原因か。小雪ちゃんが触ったらピカッと光って天獄郷の各所が投影されてたけども。天獄郷限定といえども、好きな所が覗けて好きな場所に瞬時に移動できる。そんな夢のようなアイテムが存在すると?そんなものがあるとして可能性として挙げられるのは、ダンジョンもので良くあるダンジョンコアってやつか。


 でもダンジョンコアってあれだろ。ダンジョン入る時のゲートに嵌まってる玉だろ確か。ダンジョンを維持してるだけの代物じゃないのかあれ。こんなことが出来るならあんな人目につくところに置いたりしないだろうし、もっと厳重に管理するだろう。つまり普通のダンジョンコアにそんな機能はないという事だ。禁忌領域は違うのか?比較対象がないから分からんな。わざわざ確認する為に解放とか面倒くさいし…


 いや、天獄郷をダンジョンと見た場合、機能的には変わらないのか。天獄郷の各場所を階層に見立てれば、階層転移がそのまま任意の場所移動になるだけだ。だがそうであるのなら―――天獄郷はダンジョンとして機能しているという事であり、それ即ち恐山天獄門は解放されていないという事になるのでは…


 仮にさっき見た球体をダンジョンコア、他のと区別してマスターコアとでもするか。マスターコアを操作して各種機能が利用できるのなら、それが出来る存在は当然ダンジョンマスターという事になる。それはつまり小雪ちゃんが現在の天獄郷のダンジョンマスターという事になるわけだが、そんな存在がいるなんて俺は全く聞いた事がない。


 だけどそうであるなら納得できる部分も出てくる。小雪ちゃんが禁忌領域を解放して以降、なぜそこに住み着いたのか。なぜ不老なのか。そして小雪ちゃんが天獄郷の外に出たなんて話を俺は聞いた事がない。ダンジョンマスターがダンジョンから離れられないなんてのはよくある設定だしな。


 恐山天獄門を解放した結果、小雪ちゃんが新しく禁忌領域のダンジョンマスターになって、天獄郷という街型ダンジョンを作ったって事か?可能性としてはそれが一番ありそうだが…推論に推論を重ねても意味がねえな。というか仮にそうだった場合、禁忌領域を解放したらダンジョンマスターとしてそこに縛られるって事だよな?なんだその罰ゲームは…


 これは禁忌領域解放なんてするべきじゃないな。少なくとも生贄を用意してそいつに解放させて様子をみなきゃ話にならんぞ。まあいずれ解放する事になったとしても俺は時と場所は指定してないからな。10年後だろうと50年後だろうと問題ない。その間に誰か解放してくれるかもしれないし、いなきゃ強制的にさせればいいだけだ。

守護職の奴らが棚から牡丹餅で美味しいとこ取りするのが許せないから解放したくなかっただけなんだが、その選択は正しかったようだな。



 とりあえず小雪ちゃんに確認…はするべきなんだろうか。ダンジョンマスターである事を隠しているって事は…考え辛いな。もしそうならマスターコアのある部屋に連れて行ったりはしないだろう。ダンジョンコアが破壊されたらダンジョンマスターも死ぬなんてのも良くある話だし。護衛の二人の感じからしてマスターコアで移動ってのも珍しい事じゃないっぽいから、単に便利だから使ってるってのはありそうだ。


 あれ?そうなると探恊にあるダンジョンはどうなってるんだ?壊したら誰か死ぬんだろうか。流石に試すのは不謹慎すぎるな。ダンジョンマスターがいないからダンジョン維持機能だけ働いてるとかか?でもダンジョンのカスタマイズが出来るなら二つ返事でなりたがる奴もいそうだが…いや、禁忌領域が特別なだけかもな。ダンジョンでそんなことが出来るなら農園ダンジョンとか釣り堀ダンジョンとか既にあるだろうし。


 この件は迂闊に踏み込むべきじゃないな。流石にばれたら殺し合いなんて展開にはならないだろうけど、用心するに越した事はない。そもそも俺の考えすぎの可能性も十分あるし。現状覗き放題移動し放題の天獄郷フリーパスというだけだし。そもそも場所が小雪ちゃんの部屋の奥なんだから悪用なんて誰も出来ないだろうし。


 よし!俺はなにも知らなかった、気付かなかった。ほえ~、天獄郷って凄いんだね~ってスタンスで行こう。実際問題、今の俺に出来る事なんてないしな。なにかあったとしても今すぐどうこうはないだろうし。知ってしまえば変わる関係があったとしても、それは知らなければ変わらないのだ。わざわざ火中の栗を拾う必要はない。俺は面倒事はギリギリまで放置するタイプなのだ。



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「ほえ~、本当に一瞬で移動したよ。天獄郷って凄いんだね」


「なにそれお兄ちゃん、ほえ~って。ふふふ、ほえ~!なんか可愛い!ほら奈々ちゃんも、ほえ~♪」


「ほ、ほえ~?」


「あははは!ほえ~だって。なんか間抜けだね!」


「あ…あんたが言わせたんでしょ!」


「…ほえ~」


 きゃっきゃと騒ぐ女の子たちを見てるとほっこりするな。やっぱ可愛いは正義だよ。これがYES!ロリータ・NO!タッチの精神ってやつか。俺はロリコンじゃないけど。平和だな~、やっぱり平和が一番だよ。

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