第99話 移動
「それで、この面子で会場まで行くの?」
「うむ。他に連れて行きたい奴がいるなら呼んでもよいぞ」
「そんな人はいないけど、この面子かぁ」
「あ、あの。私たちではご不満でしょうか。今日は北条さんが同伴されるとの事で同年代の私たちが選ばれたんですけど」
「こう見えても奈々ちゃん強いんだよ。お兄ちゃんにはさすがに負けるけどね」
「私もひまわりも、まだ子どもですけど万魔十傑衆です。その辺の探索者に後れを取ったりはしません!」
問題なのは第三者がこの集団見た時にどう思うかだよ。けもっ娘ロリ、メンヘラロリ、ツンデレ少女と捨て猫少女に囲まれてる一般男性は控えめに言ってやばいのでは?これ大丈夫?前世なら間違いなくお巡りさん案件だろう。とはいえこの子たちは小雪ちゃんの護衛として万生教から派遣されてきてるわけだしな…ま、大丈夫だろ。見られなきゃいいんだよ見られなきゃ。
「いや、別に万魔が問題ないなら好きにすればいいと思うよ」
「儂は問題ないぞ。言うても聞かんからの」
万生教信者が小雪ちゃんのいう事を聞かないとは…それだけ大事に思ってるという事なんだろうな。ただ本人が本気で嫌がれば流石にしないだろうけども。
「それじゃ行こうか。万魔の部屋から移動できるんだっけ?」
「正確にはその奥じゃの」
はてさて。小雪ちゃんの部屋の奥には一体なにがあるのか。オラわくわくして来たぞ。勘違いしないで欲しいのは、このわくわくは決してけもっ娘の部屋に入れるからとかじゃないという事だ。
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小雪ちゃんの部屋は失礼だが臨終間近の老人の部屋だなぁという感じで空虚感があった。鹿や熊のはく製とかあると思って期待してたんだが。狩人のトロフィー的な感じで。これだけ簡素だと生前整理してるんじゃとか勘繰りたくなってくるな。数百年は生きてるだろうからすでに物欲がない仙人状態なんだろうか。つまり小雪ちゃんは仙狐ちゃんというわけか。仙狐ちゃんといえばパンデモランドのひゃっこちゃんとせんこちゃんには一度会ってみたいな。奴らはシマちゃんのライバルになり得る逸材だと俺は思っている。人が多すぎていく気もなかったが貸し切りの際に会ってみるのもいいかもしれない。
「ほれ行くぞ。見ても面白いものなどないじゃろ」
確かにあまり他人様の部屋を詮索するものじゃないか。俺もされたら嫌だしな。やましいものはないけども!!
小雪ちゃんの部屋の奥、襖を開けて足を踏み入れれば、そこは何とも場違いな空間だった。なんだここは…広さが定かでない真っ暗な空間に光が星の様に仄かに明滅して幻想的な空間を演出しており、おそらく部屋の中央だろう場所には台座があり、青白く発光している球体が浮かんでいる。小雪ちゃんはそのまま台座のある場所まで移動し、浮かんでいる球体に手を翳す。すると一際強く球体が発光した後、部屋の中におそらく天獄郷だろう様々な場所がスクリーンみたいに投影されて映し出される。
「なんだこれ…」
凄い。凄いんだけどなんか世界観おかしくない?いきなりSFに片足突っ込んでない?魔法があるトンデモ世界といえども、これは少し不思議じゃ済まされないと思うんだが。どうなってんだこれ…とりあえず他の人の反応を見てみれば、紗夜ちゃんは俺と同じくビックリしているけど、他の二人はいつ見ても凄いねーだの綺麗だねーと呑気な事を言っている。反応からして何度か足を踏み入れたことがあるっぽいな。
「では移動する…なんじゃ?そんな間抜けな顔をして。そういえばお主はこの部屋は初めてじゃったか」
「確かに初めてだけど、なんなのこの部屋」
「平たく言えばここは天獄郷の中枢じゃ。天獄郷内限定なら大抵の事はどうにかなる。例えばほれ、今のありす達がどうしておるかも分かるぞ」
スクリーンの一つが拡大され、そこにあーちゃん達が映し出された。
『ねえねえ奈っちゃん。結局大会の服装はどうするの?わたしに任せてって言ってたから用意してきてないんだけど』
『問題ない』
『本当?事前に用意してたれーくん親衛隊のメイド服は着ちゃ駄目って言われてるし、代わりになるもの見つかったの?』
『もうありすも持ってる。黒巫女さんの服、あれで出場する』
『確かにあの服も可愛いけど、大丈夫なのかな?』
『確認は既に取ってあるから問題ない。そもそもあの巫女服は黒巫女さんの仕事着、探学の制服なんかとは比較にならないほど高性能』
『そうなんだ。という事は私たちは期間限定の黒巫女さんだね!』
『そう。今日のわたしたちは万魔神衛隊フィーチャリング万王様親衛隊』
『万魔様とれーくんのコラボだね!!』
『そう。だからこそ私たちに敗北は許されない。黒巫女さんの巫女服を着た私たちは、言わば天獄郷の代表とすら言える。万魔様の前で無様な戦いは見せられない』
『御前試合ってやつだね!頑張って優勝しようね!』
『頑張るのはありすとレナと委員長の仕事。マスコットであるわたしはただ佇むのみ』
おいふざけんな、覗きじゃねえか!いいぞもっとやれ!!いや違う、意味不明で凄そうな技術を下劣な行為に使ってるんじゃない!!
「どうやら着替え中だったようじゃな。まあ見られて困るようなものでもないし大丈夫じゃろ」
いや困るだろ。あーちゃんがこの事を知ったら試合どころじゃなくなるんじゃないか?暴走しやすい割にそっち方面に意外と免疫ないからね。
「とまあ、こんな風に天獄郷での出来事は手に取る様に分かるというわけじゃ」
「とりあえず凄いのは良く分かったけど、どうやって移動すんの?」
「だんじょんの階層転移と似たようなものじゃ。ほれ、儂に掴まれ」
小雪ちゃんの両脇に自称護衛の二人が控えたので紗夜ちゃんを小雪ちゃんの後ろに。あれ、これ俺の場所なくない?
「何をしておる。はようせんか。それともお主だけ徒歩で行くかの?儂はそれでも構わんぞ」
嫌だよ、そんな事するくらいなら天国の間にいるよ。仕方あるまい、これは不可抗力だからな。紗夜ちゃんの後ろに回り、丁度良い所にある小雪ちゃんの頭にぽふっと両手を乗せる。ふわぁ…もふもふだぁ!温かい…これが生きてるって事か。どうやら俺は一つの真理に到達しちまったようだぜ。凄い!この狐耳ぴくぴく動いて暴れてるぞ!!
「これ、人の耳で遊ぶでない。それでは行くぞ」
小雪ちゃんの掛け声と同時、ダンジョンで階層転移する時の様な浮遊感に包まれ、気付いた時にはまったく違う場所に居た。まじか…この世界で転移なんて芸当が出来るのは俺の知ってる範囲ではダンジョン内のみのはず。これの意味するところは即ち…天獄郷はダンジョンという事になるんだが。
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