幕間 また逢う日まで

「それじゃ、優勝したら頼むの忘れずに頼むぜ」


「うん。聞くだけならすぐだし、分かったら教えようか?」


「すぐってこの場でか?」


「ううん。帰ってからだよ。れーくんはスマホ持ってないからね」


「マジかよ…今時そんな奴いんのか?俺でも持ってるっつうのによ」


「所持してるけど携帯してないんだよね。天獄郷にも持ってきてないし」


「それスマホの意味ねえじゃん。何の為に持ってんだよ」


「あははは、まあれーくんだからね。というわけで、私から連絡するから。ここあちゃん、連絡先交換しようよ」


「い、良いんですか!?その、こんなわたしなんかと…」


「全然大丈夫だよ。ここあちゃんはどれくらい天獄郷にいるの?天獄杯終わっても居る様なら遊びに行こうよ!パンデモランドとか」


「パンデモランド!?わたし行きたいです!!」


「だよね。ほら奈っちゃん。やっぱりパンデモランドはド定番だよ」


「パンデモランドがド定番なのはわたしも知っている。でもれーくんにとって論外なら意味がない」


「あー、それなんだがな。俺らは天獄杯が終わったらすぐ帰る予定だ。万魔央と会えりゃ話は別だがな」


「そうなの?ここあちゃんはパンデモ仲間だし、れーくん説得できるかなぁ」


「あと申し訳ないんだがな、ココはホテルに帰ったら今後外出禁止だ。…そんな恨みがましい目で見んなよ。お前だって分かってんだろ。俺だって出歩かないんだから我慢しろ」


「…うん」


「え!?なんでここあちゃん外出禁止なの?何か悪い事でもしたの?」


「児童監禁は立派な犯罪」


「ちげぇよ!あんま言えないけどココの体調の件でちょっとな。こっちに来た時は大丈夫だったから俺も油断してたんだよ。本来ならこうして出歩くのも止めた方が良いんだが」


「ここあちゃん病気なの?見た所元気そうだけど無理してたのかな?だとしたらごめんね…」


「命に係わるとかそういう類のもんじゃねぇから安心しろ。人がいない所とか毛利なら大丈夫なんだけどな。まあそういうわけでパンデモランドは諦めてくれ。誘ってくれたのは嬉しいけどな」


「…ごめんなさいアリスさん」


「そういう事なら仕方ないかな。あ!それならもし優勝したら万魔様に頼んでみたら?パンデモランドを1日貸し切らせてくださいって」


「あのなぁ。今は夏休みだぞ?天獄郷にどれだけ人が来てるか知ってんのか?パンデモランドを楽しみにしてる餓鬼も大勢いるだろうし、そいつらが悲しむようなマネ出来るわけねえだろ」


「顔に似合わず良識がある」


「ツネにぃは顔と口は悪いけど、子どもには優しいんです!」


「余計な事言ってんじゃねえよ。ま、そんなわけでココは外出出来ないけどお前らが遊びに来てくれる分には大歓迎だからよ」


「そっかぁ。私たちも天獄杯出るから一緒に遊ぶとしても終わってからになるね」


「あ、あの。無理はしないでくださいね。ツネにぃのお願いなんて気にする必要ありませんので。それと天獄杯頑張ってください。TVで応援してますから」


「ここあちゃん…!これはれーくんに俄然お願いする気が出てきたよ!絶対一緒に遊びに行こうね!!」


「は、はい!そ、その…楽しみにしてますので!」


「じゃあな。ココの件で世話になったが、天獄杯で当たっても手加減はしねえからな」


「私も全力で頑張るから、負けても恨みっこなしだよ」


「言ってろ。それでは北条紗夜さん、これで失礼します。またお会いできるのを楽しみしています。お前らもまたな。縁があったまらまた会おうぜ」


「そ、それじゃ皆さん、失礼します。今日はありがとうございました」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ここあちゃん可愛かったね~。私たちのファンだってさ。なんか嬉しいね」


「それよりもあの兄、中々見る目がある」


「確かに。ここあちゃんが可愛いから甘々になっちゃうんだろうね。私もここあちゃんみたいな妹がいたら、滅茶苦茶甘やかしちゃうよ」


「そうじゃない。紗夜ちゃんにだけ態度が露骨に違った。非常に分かりやすい」


「あ!もちろん紗夜ちゃんも可愛い妹だからね!妹は別腹だから何人いても問題ないよ!!」


「有難うございます、ありす御義姉様」


「れーくんもあのくらい素直なら…いえ、あんな風になられると対処しきれないでしょうから、今のままの方がいいですね」


「何の話?れーくんは素直だと思うけど」


「心愛ちゃんの兄の話。間違いなく紗夜ちゃんに気がある。おそらく一目惚れ」


「一目惚れ!?確かに紗夜ちゃん可愛いからね。メロメロになるのも分かるよ」


「私としては好意を持たれても困るのですが。中学でもそうなのですが、はっきりと私には主様が居りますと言っているにも関わらず、告白してくる方がいますので」


「分かるよ紗夜ちゃん。でも誰かを好きになるのは自分でも止められないからね。一方的に突っぱねると拗れるから、相手の言い分を聞いた上できっぱり断るのが大事だよ」


「流石はありす。千人斬りの女」


「なんかその言い方嫌なんだけど」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「良い奴らだったな」


「うん。最初ツネにぃが喧嘩腰だったのには冷や冷やしたけどね」


「もういいだろその話は。で、実際どうだったんだ?」


「みんな私のこと気遣ってくれてた。特にありすさんは凄くぽかぽかしてたよ。紗夜さんだけはずっと警戒してたけど、わたしが名乗る時に毛利って言わなかったからかも。紗夜さんは知ってたみたいだし」


「北条紗夜さんか。まあ俺もちょっと頭に血が上ってたからな」


 あれがちょっと?


「なあココ、やっぱ乱暴な男ってのは嫌われるよな?」


「そりゃそうだよ。乱暴な人を好きになる人なんていないと思うよ」


「だよなぁ…でも最初はともかくその後は良い感じだったよな?まだ挽回は十分可能だと思うんだが、どう思う?」


 …露骨すぎて何か変な事考えてるんじゃないかと思ってたけど、やっぱり紗夜さんの事…もしかして一目惚れ?あのツネにぃが?刀を振り回す事しか頭にないツネにぃが!?でもなんでわたしにそんな事聞くの…わたしまだ小学生なんだけど。恋とか言われても良く分かんないよ。そもそもこんな体質で恋なんて出来るのかな?


「みんな良い人だったし、大丈夫じゃない?というか意外だったよ。ツネにぃが年下が好みだったなんて」


「は!?そんなんじゃねえよ!」


「だって、紗夜さんってツネにぃより年下だよね?同い年のアリスさんが紗夜ちゃんって言ってたし。そんな歳は離れてないだろうけど」


「だから違うって言ってんだろ。紗夜さんとは同じ禁忌領域守護の出だからな。北条とは親父同士も仲良いんだし、俺たちが懇意にしてもおかしな所なんてないだろ。それに万魔央とも関わりあるみたいだしな」


「万魔央さんかぁ…わたしは会うのがちょっと怖いな」


「別にココが会う必要はねえよ。そもそも会えるか分からねぇんだし」


「でもツネにぃだけで会ったら何するかわからないし」


「せっかく話を付けてくれた奴の顔を潰すような真似はしねぇよ。今回は会って話をするだけだ。向こうから手を出して来たら話は別だがな」


「なら安心だね。アリスさんたちも手を出さない限りは大丈夫だよって言ってたし」


「…お前にしちゃあ珍しいな。あいつらとは初対面だろ」


「そうだけど。配信追っかけてるから親近感沸くんだよね。初めて会った気がしないって言うか。アリスさん達凄く良い人だったし、会ってますますファンになっちゃったよ」


「ま、お前がそう言うんなら良いけどよ」


「ツネにぃも頑張って優勝してよね!そしたら紗夜さんも見直すかもよ?乱暴なだけの人かと思いましたが、本当に有言実行で優勝するなんて見直しましたってね」


「そうか!?まあ強いだけじゃなく頼れる男だってのをアピールするには絶好の機会だからな」


「逆に出来なきゃ口だけの暴力男と思われて嫌われちゃうかもね」


「安心しろって。言っちゃ悪いが将来有望つっても所詮は学生の大会だぜ?俺が負ける要素なんて万に一つもありゃしねえよ。いざとなったらアレもあるしな」

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