幕間 私だけのもの
最初はわたしに声を掛けられたとは思わなかったから、反応しなかった。気分が悪いというのもあったし、何より視線を合わせたくなかったから。
「大丈夫?声も出せないくらい辛いのかな?お父さんやお母さんは一緒じゃないの?」
女の人の声に反応する人は誰もいなくて、そこでようやくこの人はわたしに声を掛けてるんだなと気づいた。うう…このまま黙ってたら放っておいてくれないかな…
「ありす、その子話しかけられたくないみたいだから行こう」
「薄情だね奈っちゃんは。苦しくて喋れないだけかもしれないじゃん」
「ありすが話しかけた時、その子は反応してた。にもかかわらずジッとしてるのは一人にして欲しいから。ありすの今やってるのは余計なお世話な類」
「そんな事ないよ。レナちゃんもそう思うよね?」
「時間はありますし私はどちらでも良いと思いますが。そんなに心配なら奈月の言った通り離れて見守っていればいいのでは?」
アリス?レナ?ナツキ?え…今わたしに話しかけてるのって…いやまさかそんな。でも声は確かに聞き覚えがあるような…でも天獄杯に出場するって言ってたし…でもそんな偶然…
「あ、あの…」
ちょっと顔を確認するくらいならいいよね?わたしみたいな子どもを心配して話しかけてくるような女の人なら、変な感情持ってないだろうし。それにもし本物ならこんな機会を不意にするなんてとんでもないし!
「あ、ちゃんと聞こえてたんだね。大丈夫?どこか調子が悪いの?」
恐る恐る顔を上げたわたしと女の人の目が合う。ああ…本物だ。本物のアリスさんだ!それにこの感情、純粋に私を心配しているのが伝わってくる。
「あ、あの。わたしは大丈夫です。ちょっと具合が悪くて座ってただけですので」
「それ全然大丈夫じゃないと思うんだけど。お父さんやお母さんは?一緒じゃないのかな?」
「兄が今、飲み物買いにいってくれてますから」
「そっか。お兄さんがいるなら安心だね」
「はい。ですからわたしの事は放っておいてもらって大丈夫ですから」
「うーん、お兄さんすぐ戻ってくるんだよね?私たち暇だし戻ってくるまでお話してようよ。気が紛れると思うしさ。調子悪い時に一人でいると余計に気が滅入っちゃうからね。奈っちゃん達もいいよね?」
「その子が良いならわたしは構わない」
「私もいいですよ」
「ありす御義姉様がそうされたいのでしたら、私も構いません」
「みんなありがと!私はね、天月ありすって言うんだ。あなたのお名前は?」
「わ、わたしはも…心愛って言います。心に愛情の愛って書いて心愛です」
あ、危なかった。苗字も名乗っちゃう所だったよ。本物のアリスさんなら、私が毛利って言わない方がいいよね?弟さんが万魔様の後継者様だし。禁忌領域に良い感情持ってなさそうだし。
「ここあちゃんって言うんだ。可愛い名前だね!」
隠し事をしてるようで若干後ろめたいけど、変に気を遣わせるのも違うと思うし…アリスさんは特に疑問に思ってないようだし、大丈夫だよね。
「わたしは日向奈月」
ほえぇ…ナツキさんって本当にちっちゃいんだ。小動物みたいでとっても可愛い!わたしがそう思うの失礼かな。でも可愛いんだから仕方ないよね!
「私は星上レナです。よろしくお願いしますね」
ふえぇ…レナさんはとっても綺麗だし、凄く落ち着いてる感じがする。しかもC級探索者なんだよね?私お姉ちゃんいないし、思わずお姉さまって呼びたくなってきちゃう!
「私は北条紗夜と言います。よろしくお願いしますね、心愛さん」
見かけない女の人がいたから誰なんだろうと思ってたけど、北条?今北条って言った?え、なんで北条の人がアリスさん達と一緒にいるの?お姉さまって呼ぶくらいだから仲が良いんだろうけど…それにこの感情、私を警戒してる?私が毛利って名乗らなかったから?うぅ…隠さなきゃよかったのかな。でも今更言うのも…
「…大丈夫ですよ。御義姉様達はとても優しいですから。恥知らずにも押しかけた私にすら、よくして下さっているくらいですので」
これ絶対に毛利ってバレてるよね…こんな事なら他の禁忌領域の人たちの事、しっかり勉強しておくんだったよ…テルにぃならすぐ分かったんだろうな。
「紗夜ちゃん、そういう自分を卑下するような事言っちゃ駄目だよ。経緯はどうあれ今は私たちの可愛い妹なんだから!!」
「ありすの言う通り。私とレナがお姉さん。妹のポンコツありすの面倒をしっかり見てくれてるからとても感謝してる」
「奈っちゃん、今の私のどこにポンコツ要素があるの!どこからどうみても頼れるお姉さんでしょ!」
「それを自分で言わなければ頼れるお姉さんだった。わざわざ指摘するのは自分がポンコツだと内心認めている証」
ふ、ふふふ。配信の時と似たような掛け合いに思わず笑い声が漏れてしまう。
「あ、やっと笑ったね。ここあちゃんは可愛いんだから笑った方がいいよ」
「アリスさん達と比べたら私なんて…見ての通りちんちくりんですし」
「そんな事ないよ。ここあちゃんはまだ小学生くらいだよね?それなら全然普通だし。なんならなっちゃんと違って伸び代あるから将来有望だよ」
「ありす、嫉妬は良くない。人は大きくはなれても小さくはなれない。大は小を兼ねるなんてのは大嘘。私はこの姿で良かったと思っている。ありすの出来る事はわたしでも出来るけど、わたしが出来る事をありすは出来ない」
「は?奈っちゃんが出来る事なら私だって出来るんだけど?」
「れーくんの膝の上に乗ってフーフー出来るのは小さい私だからこそ出来る特権。その事を忘れたとは言わせない」
「それは?!…それを言うなられーくんとい、い、一緒に寝れるのは私だけの特権だよ!!」
「そんな特権は数年も経てばみんなやってる事。何の自慢にもならない」
「な!?ぐぬぬぬ…奈っちゃんのくせに生意気だよ!」
「先に喧嘩を売って来たのはありす」
「ありす、奈月。あなた達、こんな場所で何を言ってるんですか。れーくんに知られたら怒られるどころじゃ済みませんよ?」
「それは困る」
「私は大丈夫だよ!あーちゃんは仕方ないなぁって許してくれるもん」
「ありす御義姉様、それです。それがありす御義姉様だけに許された特権なのではないでしょうか」
「!?確かに!何をやってもあーちゃんだからで許してくれるこの特権は、誰にも真似出来ないよ!」
「そんなものは頼まれたって真似しない」
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