幕間 一つの出会い

「れーくんと一緒にお出かけしたかったなぁ」


「急いては事を仕損じる。時間はたっぷりあるんだから焦る必要はない」


「奈月の言う通りです。それにあの様子だと、天獄杯が終わるまではれーくんは大っぴらに出歩けないのではないでしょうか」


「そうなの?無常先生の口ぶりだと明日からは問題なさそうだったけど」


「天獄殿で黒巫女の方達を見かけなかったでしょう?」


「そういえばそうだね」


「おそらくですが、皆さん天獄郷で警備をされているのではないでしょうか」


「警備?天獄郷って凄く治安良いよね?わざわざ非番の人まで警備をしてるって事?」


「そうです。そもそも私たちが天獄殿に何事もなく到着出来たこと自体がおかしいとは思いませんか?」


「それって、問題が起きないように黒巫女さん達がこっそり警備してたって事?」


「れーくんは天獄郷では万魔様とほぼ同格の存在です。そんな人が変装もせずに天獄郷をぶらぶら歩いてたら、声を掛けて来る人の一人や二人は居ると思うんです」


「確かにそうかも。私もれーくんが居たらすぐ見つける自信があるよ!」


「ありす程ではないにせよ、天獄郷に住んでいる人たちなられーくんの顔は知っているでしょうから、見かけたら騒ぎになると思うんですよね」


「万魔様の後継者なら、天獄郷に住んでて知ってない方がおかしい」


「ですので、私たちの到着に合わせて、事前に警備体制を敷いていたのではないかなと」


「そうなんだ。それが本当なら後でお礼を言わないとね」


「私たちもれーくん程ではないにせよ、多少は顔が知られていますから注意してください。私たちならばれてもそこまで騒ぎにならないと師匠が仰っていたので大丈夫だと思いますが」


「裏を返せばれーくんはばれたら大騒ぎになるという事。れーくんは天獄郷の人たちが落ち着くまで外出は控えた方がいいかもしれない」


「そういう事なら仕方ないね。天獄杯が終わるまでお出かけはお預けか~」


「むしろ天獄杯が終わるまでは準備期間だと思えばいい。わたしたちが事前に調べた情報も、実際に見たら違う筈。この機会に差異を埋めてより完璧なデートプランを構築する」


「だったら私、パンデモランドに行きたい!」


「寝言は寝て言って。アトラクション一つに数時間待つなんて時間の無駄。そんな事するくらいなら適当に街を散策した方がいい」


「私も同感です。行きたいならありす一人でどうぞ。そもそもパンデモランドは、れーくんなら待つのが面倒ですぐ帰ると言ったのはありすでしょう」


「確かにれーくんはすぐ帰ると思うよ。でもせっかく天獄郷に来たんだからパンデモランドに行きたいじゃん」


「ありす御義姉様。私でよければ何時でもお付き合いしますので」


「ありがとう紗夜ちゃん!私の味方は紗夜ちゃんだけだよ~」


「全く…紗夜ちゃんもありすを甘やかしちゃ駄目。これじゃどっちがお姉さんか分からない」


「私がお姉さんだよ!…あれ?あの子一人でどうしたんだろ」


「どの子ですか?」


「ほら、あそこ。お店の間に座ってる小さい女の子だよ」


「良く気付きましたね。誰か待っているのではないですか?」


「でもあの子小学生くらいだよ。そんな子一人にするかな?暗そうな顔してるし、もしかしたら迷子かも。いい機会だし私のお姉さんっぷりを奈っちゃんに教えてあげるよ」


「その必要はない。変にちょっかい掛けて面倒な事になる予感しかしない。気になるなら黒巫女さんを探して連れて来るから、ありすは遠くからあの子を見守ってて」


「大丈夫だって。ちょっと声掛けるだけだからさ。家族の人が近くにいるなら問題ないし」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「大丈夫か?ココ。適当な店に入って休憩するか?」


「そこまでしなくても大丈夫だから。ちょっと休めばよくなると思うし」


「だからホテルで休んでろって言ったんだよ。無理してついて来なくても良かったのによ」


「ツネにぃのお目付け役で一緒に来てるんだから、一人で行動させられないよ。それにせっかく天獄郷に来たんだから色々見たいじゃん。次いつ来れるか分からないんだし」


「それで体調崩してりゃ世話ねえよ。とりあえず飲み物買ってくるからここで待ってろ」


「ごめんねツネにぃ」


「気にすんな。初日が大丈夫だったからって油断してた俺が悪い。すぐ戻ってくるからじっとしてろよ」


「うん。いってらっしゃい」


 ツネにぃを見送った後、お店とお店の間に移動してちょこんと座る。ここならじっとしてれば多分誰も気づかないだろうし、ツネにぃが戻って来るまでここにいよう。


 はぁ…初日は問題なかったから大丈夫だと思ったんだけどなぁ。テンションが上がりすぎて気にならなかっただけなのかな。天獄杯が終わったらパンデモランドに連れて行ってもらおうと思ってたけど、きっと駄目って言うだろうな。今度いつ来れるのか分からないのに…せっかくワガママ言って連れて来てもらったのに、今日の件はツネにぃもテルにぃに報告するだろうから、過保護な兄たちは当分の間、わたしが旅行に行くのは許可しないと思う。


 …仕方ないか。こうなるような気はしてたし。禁忌領域が解放されてる天獄郷なら私の体質に影響しないかもしれないなんて言ってはみたけど、言ったわたしも、聞いたテルにぃもそんな事は信じてない。実際はツネにぃが無茶しない為の足かせと、私が領外に出た時どうなるかを確認する為に行かせてくれたんだと思うし。


 あーあ、パンデモランド行きたかったなぁ。ひゃっこちゃんとせんこちゃんと一緒に写真撮りたかったな…気分が悪いのもあって、考えがネガティブな方向に流れていくのと止められない。はぁ…本当にわたし、みんなの役に立てるのかな?みんな毛利の三矢なんて言って期待してくれてるけど、テルにぃやツネにぃはともかく、こんなわたしじゃ禁忌領域の解放なんて…


「ちょっといいかな?そんな所でどうしたの?」


 そんな時だった。わたしに声を掛ける人が現れたのは。

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