第88話 もふもふ

 無常さんに部屋に案内された後、あーちゃん達が街に繰り出すのを見送る。…大丈夫だよな?変な物買って来たりしないよな?一応釘は刺してるから大丈夫だと思いたいが…一抹の不安を抱えつつも、俺に出来る事は何もない。小雪ちゃんに到着報告をする為、無常さんに案内してもらい天国の間へ向かう事にした。


 襲撃した時はゾロゾロ湧いてきた黒巫女さん達だが、何故か全く出くわさない。どこかで集会でもしてるのかな?と思い無常さんに聞いたところ、手の空いていた人達はみんな街に出かけているとの事。どこかに集まってるなら、黒巫女さん達には面倒なお願いを聞いて貰ったから、お礼の一つも言っておこうと思ったんだが。無常さんにその事を伝えると、後日正式な場を用意しますので是非ともお願いしますと言われた。ありがとうって言うだけだから、朝食前とかに少しだけ時間くれたら十分なんだが…とはいえ、天獄殿がどういったサイクルで回ってるか俺は知らないからな。段取りをつけてくれるというなら丸投げしてしまっていいだろう。

 天国の間に到着し、入り口前で無常さんと別れ、中に入る。


「よう来たの。待っておったぞ」


 コタツでゴロゴロしている小雪ちゃんが俺を出迎えてくれた。うーむ、こうしてみると普通のけもっ娘にしか見えんな。


「久しぶり、小雪ちゃん。今日からお世話になるよ」


「うむ。自宅と思って寛ぐと良い。ほれ、ここに座れい」


 起き上がってポンポン隣を叩くので、そのままコタツに入る。


「煎餅食べるかの?」


 ずいっと煎餅を差し出してくる。


「貰おうかな」


「ほれ、お茶もあるぞ」


 入れたお茶の入った湯呑をコトンと置かれる。


「ありがと」


 流れるような世話焼きムーブ。長年連れ添った熟練の夫婦の如く自然な動作に違和感が全く感じられないぜ。


「ふぅ…」


 特に話す事もなく、お互いお茶を啜りながら煎餅を食べる。ぽりぽり煎餅を食べてる小雪ちゃんを見てると癒されるな。これがアニマルセラピーってやつか。動物が食べてる所見るの楽しいもんなぁ。ちゅ〇るが大ヒットするのも頷けるぜ。


「なんじゃ?煎餅食べさせて欲しいのか?」


 食べている煎餅をこちらにすっと向けてくる。いきなり何してんだこの駄狐。いらねえよ。そういうのはなっちゃん達でお腹一杯だよ…


「いやいらないから。癒されるってこういう事なのかなって思ってただけだよ」


「そうかそうか。癒されるか。なら癒されついでに早速もふもふしてみるかの?」 


 小雪ちゃんの狐耳がピコピコと誘う様に動く。くっ…悔しいが思わず目で追ってしまう。猫じゃらしを一心不乱に追いかける猫はこんな気持ちなのか?お預けがこんなに辛いとは…これで尻尾がフリフリ動いたら俺は一体どうなってしまうんだ…


「ほれほれ。さらさらのもふもふじゃぞ」


 ピコピコと動く狐耳。ぐぬぬぬぬ…この合法けもっ娘のじゃロリ婆め…メスガキ属性まで身に付けたのか!?なんてこった…なっちゃんみたいな量産型多属性と違い、小雪ちゃんは既に属性過多。いわばなっちゃんの完全上位互換。近年概念化されたメスガキ属性すら取り込み進化し続けるというのなら、いずれ宇宙の法則が乱れてしまうかもしれない。こうなったら滅茶苦茶もふもふしてわからせて…!?


 なん…だと…今俺は何を考えていた?メスガキ属性だけでは飽き足らず、分からせ属性まで完備だと!?小雪ちゃん…恐ろしい子…!あーちゃん達のけも耳メイドで耐性がついてなければ危うくもふもふして責任取らされるところだったぜ!!


「危ない危ない…中々恐ろしい事を考えるね小雪ちゃん。誘い受けかな?危うくもふもふする所だったよ。だが俺を甘く見て貰っては困る。その程度の挑発じゃ俺は動じないぜ。普段から鍛えられてるからね」


 まさかあーちゃん達のポンコツっぷりに救われるとは。人生何が役に立つか分かったもんじゃないな。


「ふむ。流石にこの程度では動じんか。まあよい、時間はたっぷりあるからの。儂と一緒に生活していつまでその理性が持つのか、お手並み拝見といこうかの」


「一緒に生活?そんな大袈裟な」


「そうじゃ。天獄郷に滞在中、お主が住むのはここじゃからの。お主の部屋はちゃんと用意してあるから安心せい。ちゃんと引き籠り出来るように作ってあるぞ」


「それは親切設計だね…じゃなくて!なんで!?天獄殿には幾らでも部屋あるじゃん!」


「儂なりにお主に配慮してやったんじゃがの。ありす達と一緒の部屋がいいのかの?」


「いやいや、なんでそうなるんだよ。適当に空き部屋貸してくれればいいだけでしょ」


「お主が一人で泊まりたいなら止めはせんが、どうなっても知らんぞ?天獄殿で暮らしている黒巫女達は、ここ以外は立ち入り禁止の場所はないからの。ありす達と一緒の部屋なら皆も自重するとは思うが、お主一人だけだと目が覚めたら隣に黒巫女達ががいたなんてことになりかねんが、それでもいいかの?」


 なんだそれ…気づいたら知らない女の人が横で寝てるとか、ここだけ貞操逆転世界かよ。しかも複数前提とか万生教信者の倫理観はどうなってるんだ。


「これは昔からなのじゃが、黒巫女達は中々良い出会いがないのじゃよ。自分より強くて万生教に理解がある男というのは存外少なくての。当人たちは表に出す事はないが、内心憧れておるのじゃろうな。お主も身に覚えはあるじゃろ?」


 ぽりぽり煎餅を食べながら万生教の恋愛事情を語られても…だけどそれなら確かに納得がいくな。いくら万魔至上主義とはいえ、赤の他人の俺を万魔の後継者ってだけで至れり尽くせりなのは変だと思ってたんだよ。え?万魔の後継者ってそっち方面の後継者って意味なの?俺はお婆ちゃんの家にほいほいお見舞いに行って狼さんに食べられた赤ずきんちゃんの立ち位置なのでは?


「小雪ちゃんから


「儂からは何も言わんからな。お主が来ると知った時の皆の喜びようは、それはもう凄かったからの。水を差すのは忍びないじゃろ。それでどうするんじゃ?一人部屋で寝泊まりしたいなら今すぐ用意させるぞ」


 選択肢に見せかけた強制一択やめてくれないかな?これが因果応報ってやつか…

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