閑話 裏方
流石は日本最大の観光地、天獄郷。万生教が睨みを利かせているだけあって、観光客も現地の人たちもマナーが良いな。たまに黒巫女さんにしょっ引かれてる奴を見かけるのはご愛敬だろう。黒巫女さんは可愛いし、皆親切だしね。ドモろうがキョドろうが微笑ましく見守ってくれるし、コミュ障だと勘違いしちゃうよね。ちょっかい掛けたくなる気持ちも分かるよ。彼女たちがBランク探索者相当である事を考慮に入れなければだけど。
こうしてあーちゃん達と一緒に歩いてると目立ちそうなものだけど、話しかけられたりしないし目立つかもってのは杞憂だったか。俺が天獄郷に来たなんて知れたら騒ぎになると思ってたけど自意識過剰だったな。人の噂も七十五日って言うし、この分だと俺の顔なんて誰も覚えてないだろう。万魔の後継者と名乗らなきゃ一般人で充分いけるな。有名人にでもなったつもりか?自惚れるにも程がある。恥ずかしすぎて穴があったら入りたいぜ。
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『こちらフォックスツー、クイーンが万魔様人形をキングと一緒に御覧になっておられます。かなりの好感触のようです』
『それを聞けば万魔様もお喜びになるだろう。特大万魔様人形をご帰還されるまでに用意する様手配を掛けておく』
『こちらフォックススリー、シルバープリンセスが木刀コーナーを熱心に御覧になっています。現在筆頭の木刀を真剣に見ておられます』
『土産物の木刀と言えど、低ランクダンジョンならば実戦に耐えるだけの強度はあるからな。十傑衆モデルは実際に十傑衆の方々が訓練に使われている木刀とほぼ同じ。流石は筆頭に認められた御方だ。常在戦場の心構えは我々も見習わなければな』
『こちらフォックスフォー、ハムスタープリンセスが狐耳を付けています!非常に可愛らしいです!ああ!?そんな!!キングが狐耳をもふもふしています!!!』
『なんだと!?フォックスフォー!動画は撮っているな!?』
『勿論です!嗚呼…なんて可愛らしい…私ももふもふしたい…いやされたい…』
『正気に戻れフォックスフォー!我々は現在重要任務についている事を忘れるな!』
『こちらフォックスファイブ、リトルプリンセスが『万魔様に憧れて!これで今日から獣っ子』シリーズを見て大はしゃぎしています。彼女があのように感情を露わにするのは非常に珍しいのでは?』
『彼女は立場が立場だけに普段は己を厳しく律しているからな。初めての旅行で気持ちが高ぶり、年相応な顔が表に出たのだろう。微笑ましい事だ』
『!?フォックスリーダー!不審人物が店内にてキングに接触!!』
『なんだと!?至急状況を送れ!!』
『土産物屋のスタッフが商品について説明しているようですね。どうもキングが狐耳を付けて問題ないかと心配されていたようです』
『なるほど。狐耳は万魔様のチャームポイントでもあるからな。他の者が付けたら不敬極まりないと考えられるのは当然か。万魔様の事を大切に思われているからこそだな』
『こちらフォックスイレブン、今からお店を出られるようです。また来ると仰られているので、一度天獄殿に行かれてから再度出かけられるのかもしれません』
『そうか。司令部聞こえるか。この土産物屋は重要監視対象に指定する。スタッフにはしっかり言い聞かせておいてくれ。キングは来店していない、来店したのは一般観光客だとな』
『こちら司令部、了解しました。近くの黒巫女を事情説明の為に当該店舗に派遣します』
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「ふぅ…これで6人目か。みんな暴走しすぎじゃない?」
「来郷された事は漏れてない筈なのに、どこから聞きつけてきたんだろ」
「万王様を知らない人なんて天獄郷にはいないからね。変装もせずに普通に来郷されたんでしょ?そりゃ見かけたら友達や家族に連絡しちゃうって」
「私たちも直前に知らされた時はビックリしたもんね」
「万王様が何時来るか公表しなくて正解だったね。もし公表してたらヤバい事になってたんじゃない?」
「そだねー。公表してないのにこれだからね。私たちが哨戒してなきゃヤバい事になってたよ」
「万王様だけでも目立つけど、ありす様達も一緒だから余計にね。鴨が土鍋一式セット背負ってお腹空かせた人の前をよちよち歩いてるようなものだよ」
「どうせなら横断幕で盛大にお出迎えしたかったんだけどなぁ。ホームに花束持って並んでさ。垂れ幕も駅前にドドーン!!!って。天獄殿まで私たちで道を作るの。だって記念すべき万王様の初来郷だよ?盛大にお祝いしたいじゃん」
「気持ちは分かるけど、万王様は目立つのあまり好きじゃないっぽいからね」
「北条との決闘であれだけ目立っちゃったんだから、今更目立たない様に立ち回るなんて遅いと思うんだけどなぁ」
「それでも、だよ。余所はともかくここは天獄郷なんだから。万王様の気持ちを汲んで心穏やかに過ごしてもらうだけだよ」
「どれくらい滞在されるんだろ?あ~あ、私も万王様の側付きに選ばれないかなぁ」
「万王様の側付きは日替わりで選ばれるみたいだし、運が良ければ選ばれるんじゃない?」
「みんな希望してるんだから厳しいよ~。関東探学の子達のお世話係にも選ばれなかったし…選ばれた人たちって、万王様とお話しできるんだよね?」
「そうだよ。今から楽しみだなぁ。何話そうかなぁ」
「なんでさっちゃんが選ばれて私が選ばれないの~!」
「ふふん、日頃の行いってやつ?でも個別でお話出来るわけじゃないから。もしみっちゃんが万王様の側付きに選ばれたら個人的にお話出来る機会もあるわけだし。ハイリスクハイリターンってやつだよ」
「それはちょっと違うような…」
「万王様に天獄郷を過ごしやすいと思って頂けたら滞在期間も延びるだろうし、そしたら側付きになれるチャンスも増えるんだから張り切ってお仕事しないとね」
「それもそうだね!成果を上げたら優先的に選ばれるかもしれないし。他の担当エリアの子達よりも成果を上げてアピールしないと!」
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