第82話 優しい世界
全く。レナちゃんには冷や冷やさせられるぜ。あーちゃんやなっちゃんみたいにポンコツ推理で見当違いな答えを出してくれれば良いものを…自爆で最強仮面だとばらした時もそうだが、やはり名探偵力はレナちゃんが一番か。あーちゃんは基本的に疑ったりしないし、なっちゃんは着眼点はともかく推理する方向が致命的だからな。
それにしてもこんな嘘くさい話をよく信じられるな…矢車さんにぶん投げた以上俺も神妙な顔して話は合わせるけれども。そもそも万魔の後継者になったのは探学入学前だし、ここが万生教と関係ある場所なんて知らなかったし、何なら万生教とは天獄殿襲撃まで一切関わりなかったからな。実際はズブズブだったわけだが。
どれだけ荒唐無稽な事でも万生教だからでみんなが納得してしまうのは正直どうかと思うが、これも紡いできた歴史の重みってやつなんだろう…どれだけ無茶苦茶やってきたのかが良く分かるぜ。万生教は信者の勧誘をしないし、小雪ちゃんの悪口言わなきゃ大人しいのが救いか。仮に信者の勧誘をしていれば、日本国民総万生教になっていたかもしれない。小雪ちゃんが関わったらあらゆる面で非常識になるからな…矢車さんも嘘だと分かって誤魔化す為に言ってるんだよね?今語ってるストーリーは全部即興だよね?万生教で流布されたりしてないよね?語りに熱が籠ってて怖いんだけど?
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「そういうわけですので、皆さんの懸念は全くの見当違いなのです。万王様が望まれればその限りではございませんが、そういった方でない事は皆さんの方がご存じかと思います」
最後の一言は余計だが、みんなの様子を見る限り矢車さんの熱弁により一先ず納得したようだ。問題があるとすれば俺が皆の為に嫌われ役を買って出て、独り重い物を背負って巨悪に立ち向かう孤高のヒーローみたいな扱いをされていた事くらいだろうか。万生教での俺の扱いは一体どうなっているんだろう。無条件で勝手に好感度がMAXになってるのはホラーなんだよなぁ。それだけ小雪ちゃんが絶対的な存在であるという事なんだろうが…とりあえずこの場を乗り切れたから結果オーライだな。未来の事は未来の俺が何とかするだろ。
「良かったぁ。猫耳メイドさんは関係なかったんだね。それならそうと言ってくれれば後をつけたりしなかったのに。黙って一人で行くからこんな事になるんだよ!」
なぜ俺が悪い事になっているのか。解せぬ。
「公にして良い事でもないからね。秘密というのは知らない人が少なければ少ないほど良い。あーちゃん達を信じてないわけじゃないけど、そこに信頼や信用は関係ないから」
「安心してよ、れーくん。ここで知った事は誰にも言わないからね!」
「わたしも誰にも言わない。れーくんの想いを無碍にはしない」
「勿論私も誰にも言いませんよ。ここにいる人たちだけの秘密ですね」
「主様。私も墓場まで持っていきますので」
よし!これで俺がメイド喫茶に出入りした事実は闇に葬られたな。ついでにあーちゃんもシマちゃんの事を持ち出してきたりはしないだろう。
「メイド喫茶に改装したのは我々の判断であり、万王様が関わっていないのは万魔様に誓って保障致します。ですが切っ掛けを与えて下さったのは万王様です」
おい!円満に解決した矢先に爆弾のスイッチ押さないでくれるか!?何でそんな事言うの?それ言わなきゃいけない事かな!?
「…え?どういうこと風音ちゃん。れーくんは関わってないんだよね?説明してくれるかな?」
「勿論です。万王様が表に出て来られて以来、我々万生教徒は皆悩んでおりました。万魔様の後継者として正式に名乗りを上げられた万王様にどうお仕えすべきなのかと」
色々お世話になってて言うのもアレだが、そっとしておいてくれるのが一番助かるんだが。
「北条との決闘でその実力を満天下に知らしめ、名実ともに確固たる地位を築き上げられた万王様に相応しくあるべく、我々万生教も万王様親衛隊を新たに作るべきではとの結論に至ったのですが」
何か最近聞いた事ある単語が出てきたんだが…
「え?でもそれって…」
「はい。我々万生教は万魔様を頂点とする組織です。例え万王様が万魔様と並ぶ存在であってもそこは変わりません。そんな我々が万王様の親衛隊を名乗るなど不敬の極みではないかとの意見が出まして。確かに親衛隊である以上、隊員が一番に思うべき相手は万王様であるべきです。我々ではそれに相応しくないと皆が納得しましたので結成はお蔵入りとなりました。それに相応しいのが誰なのか、皆さんならもうお分かりかと思います」
え、あのPT名ってそんな重い感情で付けられてたの?俺はてっきり新手の嫌がらせかと…むしろその方が良かったな。
「ですが、我々が万魔様と並び立つ御方として万王様を敬っているのも事実なのです。半端な対応をしては我々の沽券に関わります。どうするべきか皆が悩んでいた時、救世主が現れました。そう、北条沙耶さん。貴女が我々の進むべき道を教えてくれたのです」
「私が…ですか?」
「そうです。貴女が猫耳メイド姿で現れた時、私は衝撃を受けると同時に、答えを得ました。これだと。これこそが万王様に仕えるべき者のあるべき姿だと」
…くそ、言ってる意味が全く分からない。何がどうなったらそんな答えにたどり着くんだ。
「皆さんご存じの通り、万魔様は神々しくも非常に愛くるしいお姿をしていらっしゃいます。特徴的なのはやはり狐耳と尻尾でしょう。我ら常人と一線を画すその御姿は見るだけで心が洗われ、癒されます」
確かにあの姿は可愛い。耳と尻尾をもふもふしたくなるもんな。今にして思えば初対面の時、無知を装ってもふもふしておくべきだったかもしれん。子どもの悪戯なら笑って許されたかもしれないし。
「神々しくも愛くるしい狐耳の万魔様に仕えるのは、我ら人耳とでも言うべき者達です。ならば人耳である万王様に仕える者は、けも耳であるべきという確信を得たのです」
それは持っちゃいけない確信ですね。なんで誰も止めなかったの?おかしいって思うよね?
「万魔様と違い、紛い物のけも耳であるのは申し訳ないとは思っておりますが、本物は万魔様お一人のみです。その神聖不可侵な部分に踏み入るわけにはいきません。ですが紛い物であるが故に、バリエーションは豊富です。ただ狐耳は万魔様のみの特権ですので、その点のみご容赦ください」
けも耳付けてお世話するなんて風俗店かな?そんなサービス求めてないんだが?
「加えて万魔様に仕える黒巫女に対して、万王様に仕える白メイド。これほど相応しい対比がありましょうか」
俺の頭が真っ白になりそうだよ…
「もちろん満場一致で可決したのは言うまでもありません」
くそ、常識人が一人もいねぇ…!どうなってやがる万生教信者はよぉ!!
「手始めに万王様と所縁の深いこの場所を、急遽メイド喫茶として改装した次第でございます。来店前に改装が終わり私も安堵いたしました。いかがでしょうか万王様。このメイド喫茶にいる者全て、今この時ばかりは万王様だけの忠実なメイドで御座います。いかようにもご命令なさってください。勿論私もで御座います」
とりあえずこの店今すぐ終わってくれないかな。
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