第80話 判決

 あまりに五月蠅かったので場所を変え、現在メイド喫茶ぱんでもにうむの貴賓室。なんでこんな部屋があるんだよ…豪華な椅子に座らされた俺と、その背後に立っている矢車さんの前で仲良く正座しているのはポンコツ4人娘。俺から視線を逸らして気まずそうにしている。いやほんと何でいるんだよ。ぎゃーぎゃー騒いでうっせぇなと思ったら見知った顔で唖然としたわ。


「お店であんなに騒いだら駄目でしょ。他のお客さんやスタッフさんの迷惑になるし。何やってんの?」


「だって…奈っちゃんが私の事ポンコツって言うんだよ!酷いよね?私はポンコツじゃないのに」


 ふむ。確かに普段のあーちゃんはまともだが、たまにポンコツ化するから間違ってはいないんだよな。まあ俺から言わせると全員ポンコツなんだが。


「ありすが私の事を幼児体形でお腹をポンポンすると言った。許せない」


 ふむ。なっちゃんは確かに幼児体形だから間違ってないな。お腹をポンポンするのはどうかと思うが、ポンポンしたくなる気持ちは分かる。


「私はありすと奈月を止めようとしました」


「ずるいよレナちゃん!自分だけ良い子ぶろうとしてもそうは問屋が卸さないよ!」


「レナ。自分だけ助かるなんてそんな事は許さない。わたしたちは呉越同舟、一蓮托生」


 呉越同舟で一蓮托生とか地獄かよ…でもこの場にいて止められなかった時点でレナちゃんも同罪なんだよなぁ。そもそも無罪を叫べるのはここに居ない場合のみだ。


「私が主様の性癖を歪めてしまった事、大変申し訳なく思っております。実家に帰れ以外の如何様な処罰も御受けいたします」


 手の平を上に向け、土下座をする紗夜ちゃん。ちなみにこれは手の平を上にする事で、私は害を為す気はなく、二心を持っておらず、反抗する気もなく、いかなる処罰もお受けしますという、お腹を自ら曝け出す絶対服従わんこ並の上級土下座である。まあ今更実家に帰れとは言わないけどさ。というか性癖を歪めたってどういうことだよ…別に歪んでないよ。


「とりあえず、この場にいる時点で四人とも有罪だよ。たまたま目に付いたからこのお店に入りましたみたいな場所じゃないでしょここ。で、そもそもの話、何でここにいるの?」


「それは…」


「れーくんが悪いんだよ。一人でどこかに行こうとするから!私は久々にダンジョン探索がない休日なのに!一緒にいてくれても良いじゃない!」


 別に俺が一人で休日に行動するくらいあるだろ…あるよな?そもそも同じ家に居るんだから毎日顔合わせてるし御飯も一緒に食べてるじゃん。


「一人で出かけるのは女の所に行くつもりだって奈っちゃんが言うから。心配になって後をつけるのも仕方ないよね?」


 なんでそんな発想になるんだ。そもそも家に引き籠ってる俺に赤の他人との出会いなんてあるわけない事はあーちゃんが一番知ってるだろ。


「後をつけたら前の家の方向だったからさ。忘れ物でも取りに来たのかなと思ったら奈っちゃんが女を囲ってるとか言い出して滅茶苦茶焦ったんだよ!?」


 …発想が飛躍しすぎだろう。ちょっと妄想逞しすぎじゃないですかね。


「そしたら家の前を素通りしたから、お家じゃなくてどこかでデートの待ち合わせかなって、近くの喫茶店に当たりを付けて先回りしてみたら、何時の間にかメイド喫茶になっててビックリしたよ」


 それは俺もビックリしたよ。


「お店に入って待機してたられーくんが本当に来るしね。会話を盗み聞きしてたら知的美人の薬丸さんなんて女の人の名前が出てくるし!」


 名前を知ったのは俺も今日が初めてなんだが…ちなみにそいつは男だぞ。


「薬丸さんがいないと知って一安心したら、猫耳メイドの風音ちゃんが登場するし!」


 まあ居るとは思わないよね。俺も思わなかったし。


「なんで猫耳メイドが好きって言ってくれないの!?私とれーくんの間でも、言ってくれなきゃ分からない事はあるんだよ!私たちに黙ってこんなメイド喫茶までオープンして!!そんなに猫耳メイドに囲まれたいなら私たちがお家でしてあげるから正気に戻ってよ!!」


 あーちゃんこそ正気に戻るべきだと思うんだが!?しかもなんで俺がこの店をオープンした事になってんだよ!!


「…俺はこの店とは全く無関係だよ。いや無関係じゃないけどメイド喫茶に改装したりしてないから」


「そうなの?じゃあ猫耳メイドさんも好きじゃないんだね?」


 それは聞いたら駄目だよあーちゃん…居るのか?嫌いな男が?それに紗夜ちゃんもしょんぼりした顔でこっち見てるじゃん。


「そもそもの話、何で尾行なんてする事になったのさ。尾行してまで行き先知りたいとか流石にドン引きなんだけど」


「だって…れーくんが一人で休日にお出かけなんて異常事態だし…奈っちゃんの言う事も一理あるかなって…でも私は信じてたよ!?信じてたけど、やっぱり気になるし…」


「あーちゃんの言い分は分かったよ。さて…なっちゃん、君の言い分を聞こうか」


「日頃から、わたしはれーくんにアピールしている」


 そうだね。ど真ん中ストレートだね。


「わたしのアピールに一切靡かない引き籠りのれーくんが、急に一人で出かけるなんて言い出した。私たち四人で遊びに行けば良いなんて誘導してまで」


 そう言われてもな…なっちゃんはなんというかマスコットだよね。膝の上に乗せてナデナデしたい系の。した事はないけども。


「何かあると思った。男が女に隠れてコソコソ動く時は大抵別の女がいる時と相場が決まっている」


 どこの相場だよ…ラノベやアニメの見すぎでは?


「私の灰色の脳細胞が警報を鳴らした。これはれーくんに、わたしたちに後ろめたい所があるから一人でどこかに行こうとしていると」


 灰色ってさ。俺はカビの色だと思うんだよ。


「別にれーくんが余所で女を作っていようと構わない。相手の女性をどうこうするつもりもなかった。でも順番は大事。まずはわたしたちの相手をするのが筋だと思う」


 なっちゃんのこの見た目と真逆な肉食はむすたあっぷりはどうにかならないだろうか。


「れーくんは引き籠りだから変な女に引っかかった可能性も考慮して、どういった人物かを見定める必要があると思った。委員長と会うなら会うで、別に止めたりしないから正直に話して欲しかった。尾行したのは素直に謝る。ごめんなさい」


 別に矢車さんに会いに来たわけじゃないんだが…ふむ。好意を抱いている普段引き籠ってる奴が、急に休日一人で出かけると言い出した。気になって尾行してみたら、行き先がメイド喫茶でそこには同級生の猫耳メイドさんがいたと。成程、上っ面だけ見れば真っ黒だな。全部偶然なんだが。さてどうするべきか…

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