第76話 致命探偵ナツキちゃん・承

 わたしの発言に、信じられないといった顔で固まるありす達。むべなるかな。わたしも信じたくはなかった。だが全ての事象がれーくんが女を囲っていることを示唆している。


「みんなが信じられないのも無理はない。順を追って説明する。そもそも何でれーくんは関東探学に来たと思う?」


「え?それは私が居たからじゃないの?」


「そう。ありすが居たから入学したからと考えるのが普通。でもそう考えるとおかしな事がある」


「中学に通っていなかった事ですね?」


「その通り。ありすがいるから入学したのだとしたら、中学も一緒に通っていたはず。なのに中学の間、放置していたのはおかしい」


「中学と探学の違い…ダンジョンですか」


「ダンジョンでは何が起きても自己責任。れーくんの過保護っぷりからして、ありすが心配で近くで見守りたいと思っても不思議ではない」


「それが今回の件とどんな関係が?むしろ他の女が近づける隙など無い様に思えますが」


「探学に来る前、れーくんがやった事を思い出して欲しい」


「やった事、ですか…私を助けてくれた事と、天獄殿の襲撃…!?」


「そう。れーくんが今まで学校に通わなかった理由は、おそらく万魔様が関係している」


「そんな…万魔様が?いえ、万魔の後継者である事を隠す為、世間と関りを持たせない為にれーくんに引き籠る様命令をした…?」


「そうかな?れーくんは昔はともかく今は好きで引き籠ってると思うんだけど」


「ありすは黙ってて。あの天獄殿の襲撃はれーくんの万魔様に対する反抗だった。自分の実力を知らしめることで庇護されるだけの存在ではないと証明し、自由を勝ち取るための」


「その結果、万魔様はれーくんが万魔の後継者として独り立ちを認め、超特特待生としての地位を与えて関東探学に送り出したというわけですか」


「だが万魔の後継者として認められた以上、避けては通れないものがある」


「避けては通れない?…なるほど。万生教との関係ですね。万魔の後継者として正式に認められた以上、万生教徒の信仰の対象になるのは当然でしょうから」


「それだけであれば問題はない。しかし後継者として絶対に求められるものがある」


「求められるもの?万生教徒の皆さんは万魔様に何も求めていませんよ?それはれーくんに対してもでしょう。そんなものがあるとは思えませんが」


「わたし達では理解しづらいかもしれないけど、紗夜ちゃんなら分かると思う」


「…後継者、ですね。万魔様が御独りなのは周知の事実ですが、主様は長い歴史の中で唯一後継者と認められた特別な御方。万魔様の身内と言っても過言ではないでしょう。であるならば、主様の御子様も万魔様の特別な存在となれる可能性は高いのではないでしょうか」


「紗夜さん…貴女はこう言いたいのですか?万生教が万魔様の為にれーくんとの子供を作りたがっていると」


「北条にとって、次代に想いと血を繋ぐことは何よりも大事な事でした。それは他の禁忌領域や、形は違えど万生教も同じでしょう。禁忌領域守護職が禁忌領域解放に全てを捧げるように、万生教は万魔様の幸せに全てを捧げます」


「れーくんが天獄殿を襲撃した後で、何らかの話し合いが持たれたのは間違いない。おそらくその時に条件として出されたんだと思う。天獄殿襲撃を不問とし、万生教が全面的にバックアップする事と引き換えに、れーくんにお妾さんとして万生教徒から何人か選ぶように、と」


「それはいくら何でも…いえ、そういえば矢車さんはあの時…そんな…まさか本当に?」


「万生教徒は万魔様を第一に考える。れーくんも万生教徒にとっては万魔様より一段劣る扱いになる。万魔様の為になるのなら、万生教徒は万魔様の迷惑にならない範囲で手段を選ばない」


「それって風音ちゃんがれーくんのお嫁さんになるって事?う~ん、風音ちゃんは何か違うんだよね…」


「委員長だけじゃない。むしろ委員長は安牌。一番危険なのは無常先生」


「師匠がですか!?いえ、師匠に魅力がないというわけではないですよ?」


「私は常々疑問に思っていた。れーくんと一緒に暮らしているのは客観的に見ても美少女しかいない。しかも属性が被っていない美少女ばかりが一緒に暮らしている。そんな美少女がこれでもかと好意をアピールしているにも関わらず、一向に手を出さない処か興味を持っていない。これはおかしい。れーくんに問題があるとしか思えない」


「据え膳食わぬは男の恥と言いますし、主様の趣味嗜好が私たちと外れているのでしょうか?」


「そう考えた方がいい。わたし達にはない属性、れーくんはツンデレかロリ巨乳か褐色僕っ子か年上趣味の可能性が高い」


「ふふん。奈っちゃんの言ってる事は正しいよ。れーくんは間違いなく年上趣味だからね!だって私がお姉さんだから!!」


「ポンコツの戯言は置いといて、無常先生は私たちになってないものを全て持っている。もし無常先生が囲われていたなら私たちに打つ手はなかった。けれど不幸中の幸いと言うべきか、先生は致命的な失敗を一つ犯してしまった」


「致命的?…成程、れーくんの隣に引っ越した事ですね?」


「そう。確かに隣の家に住めばれーくんと接近する上で最高なポジションなのは間違いない。実際晩御飯にお呼ばれする仲にもなっている。しかしそれは同時にわたし達の眼が常にあるという事。抜け駆けしてどうこうなる事は残念ながら非常に難しい。夜這いなどもっての外。部屋に侵入する事すら出来ない始末」


「…奈月。貴女まさか」


「前の家でこっそり会って逢引きという可能性もあったけど、それはレナが先生に外出許可を取った時に消えた。だから敵は別にいるという事になる」


「奈月、後でみんなと話し合いです」


「…とにかく。れーくんの前の家に住んでいる人は他にいる。そしてそれに該当する人物はわたしたちの知っている範囲で一人しかいない」


「矢車風音さん、ですね」


「そう。委員長こそが逢引きの相手。天獄杯代表を勝ち取り自然な形で天獄郷に行くことができ、わたしたちと一緒の代表PTだかられーくんと一緒にいても違和感を持たれない。そして万生教信者でもある」


「風音ちゃん、風音ちゃんかぁ…う~ん」


「だけどまだ負けたわけじゃない。れーくんは夕方には帰ってくると言っていた。つまりお泊りはしないという事。委員長とは一線を越えていない!今ならまだ間に合う。いや、今しか間に合わない!!」


「奈月のいう事が正しいのなら、確かにまだ勝ち目はありますね。矢車さんは同年代ですし、属性というのも私たちと被っているのでしょう?」


「そこは問題ない。委員長はただの美少女。だからこそれーくんも健全なお付き合いでお茶を濁しているんだと思う。だが委員長は虎視眈々と隙を伺っている筈。油断は出来ない」


「奈っちゃん、そろそろれーくんが住んでた家に着くよ」


「分かった。レナ、紗夜ちゃん、覚悟はいい?あそこがあの女のハウス。わたしたちかられーくんを盗ろうとする泥棒猫を全力で排除する!!」

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