第75話 致命探偵ナツキちゃん・起
「一人で大丈夫?今日はダンジョン探索休みだから一緒に行くよ?」
「私も修行は午後からにしてもらいますので付き合えますよ」
「迷子になったら大変だから私も一緒に行く」
「主様、お出かけでしょうか?すぐに準備を致します」
「君たちは俺を一体何だと思てるの?…いや、言わなくて良いから」
休日の日中にちょっと出かけてくると言ったらこの反応である。確かに休日の日中なんて人が多いから出かけたくはないが、用があるなら出かけるくらいは普通にするぞ。
「出かけるっていっても夕方には戻ってくるし、ついてくる必要なんてないから。今日はダンジョン探索ないんでしょ。4人でどっか遊びにでも行ったら?俺は一人で大丈夫だからさ。それじゃ行ってきます」
全く…あーちゃん達にも困ったもんだな。介護が必要な老人でもあるまいし、一人で出かけるくらいで大袈裟なんだよ。
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「行っちゃったね」
私たちの同行を拒否して、一人でれーくんが出かけた後。
「…怪しい」
奈っちゃんがポツリと呟く。
「出不精のれーくんがわざわざ休日の、しかも日中に一人で出かけるなんておかしい。これはなにかある」
「一緒に行けないのは残念ですが、れーくんも一人で出かけたい時もあるのでは?」
「やましい事がないならわたしたちの同行を拒否する理由にはならない。考えられる可能性としては…デート」
「「「デート!!??」」」
「そう。外出で私たちが邪魔になるなんて、デートしか考えられない」
「それは奈月の考えすぎでは…」
「…奈っちゃんの言う通りかもしれないね」
「ありす?」
「何時もなら私が一緒に行くって言ったら待っててくれるからね。今日はわざわざついてこなくていいって言ってたし、4人で遊びに行けばなんて誘導もしてたね…」
「流石はありす。れーくんとずっと一緒にいたのは伊達じゃない。ありすの感じた違和感はきっと正しい」
「由々しき事態だよ奈っちゃん!れーくんが誰かとデートなんて!!」
「そう。このままだとぽっとでの雌猫に盗られてしまう。早急に対策を講じる必要がある」
「流石に貴女たちの考えすぎでは?そもそもれーくんは引き籠りですよ?出会いなどないとは思いませんか?」
「勘違いならそれでいい。一番駄目なのは動かずに静観する事」
「どうすればいいの奈っちゃん!」
「問い詰めるのは悪手。わたしたちの心証が悪くなる上に誤魔化されてうやむやにされてしまう。証拠を押さえるのが肝心」
「流石は恋愛マスター!でもれーくんのパソコンやスマホを勝手に弄るのは怒られるから私はヤだよ。やるなら奈っちゃんが一人でやってね」
「私はありすみたいに束縛したがる重い女じゃない。一緒にしないで。こういう時にやる事は一つしかない」
「私は束縛しないよ!?」
「尾行ですね?奈月御義姉様。幸い主様が外出してから時間は経っていません。今なら容易に捕捉出来るでしょう」
「ふっ…流石は紗夜ちゃん。わたしのライバルだけはある」
「奈月御義姉様。私はライバルなどではありません。同じ御方に恋焦がれる同志でありたいと思っております」
「私もそう思っている。こういう時、紗夜ちゃんは頼りになる」
「ちょっと奈っちゃん!訂正してよ!」
「五月蠅いポンコツ。急がないとれーくんを見失ってしまう。紗夜ちゃん急ごう」
「本気ですか?バレたらどうなるか分かりませんよ?」
「大丈夫。偶々わたしたちが今から遊びに行く先が、偶々れーくんの向かう方向と一緒だっただけ。れーくんが行った先に偶々私たちも用事があって、偶々一緒のお店に入ったりするだけ。これは尾行ではない」
「さっき尾行と言ったじゃないですか…というかもしかして私も行くんですか?」
「当たり前。れーくんは4人で遊びに行けと言っていた。ならレナもいなきゃ誤魔化せない。それともレナは気にならない?れーくんがわざわざ一人で外出した理由が何なのか」
「それは…気にはなりますけど」
「ほら、ありすも怒ってないで早く。れーくんを見失っちゃう。40秒で支度する」
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「本当に大丈夫なんでしょうか…」
「レナ、もう賽は投げられている。わたしたちは一蓮托生」
「大丈夫ですレナ御義姉様。主様は自分が周囲にどう見られるか無頓着ですので、こちらから声を掛けでもしない限りバレる事はないかと」
「それにしてもれーくんどこ行くんだろうね」
「探恊のある方向とは違いますよね?」
「方向的には前に住んでた家がある方に向かってるけど、何か忘れ物でもあったのかな?」
「!?ありす!それは本当?」
「うん。どうしたの奈っちゃん?そんな深刻そうな顔して」
「これは…本格的に不味いかもしれない」
「不味い?何が?」
「本当にれーくんは女に会いに行ってるのかもしれない」
「どういうこと!?奈っちゃんの妄想だったんじゃないの!?」
「ありすは探学に住みだしてかられーくんの家に行ったことはある?」
「引っ越す前に必要な物は全部回収して移動させたから行ってないよ。れーくん居ないしね」
「家電品なんかは?」
「れーくんが処分してないならそのままじゃないかな?」
「やっぱり…謎は全て解けた。ありす、わたしたちは覚悟しなければならない」
「か…覚悟?」
「そう。…れーくんに既に付き合っている女がいる事を認める覚悟を。いや、むしろれーくんが女を囲っているという現実を」
「な…そんなことあるわけないよ!れーくんは何処にも出せない立派な引き籠りだよ!?女の人とまともに接触した事なんて、私以外じゃそれこそ奈っちゃん達くらいだよ!!私以外の他人なんて基本どうでも良いと思ってるれーくんが付き合う?ましてや女性を囲う!?あり得ない。それはあり得ない事だよ奈っちゃん!!」
「ありす。現実は何時だって残酷。わたしの存在によってありすの立場が脅かされているように、れーくんの一番が何時までもありすとは限らない」
「う…うぅ…そんな…れーくんに女が…私に紹介すらせずに…そんな事って…」
「だけど安心して欲しい。わたしとありすはずっ友だから。それにわたしは二番でも構わない。わたしたちはずっと一緒、そうだよね?」
「奈っちゃん…奈っちゃーーーん!!」
「奈月。茶番は良いのでどういうことか説明してください」
「茶番…レナちゃん酷いよ!!」
「大丈夫ですよ、ありす御義姉様。主様がありす御義姉様を見捨てる事などある訳がありません。きっと何かの間違いです」
「紗夜ちゃん…そうだよね。れーくんが私を見捨てるわけないよね!!よーし!こうなったら今すぐれーくんを捕まえて尋問を
「ありす少し黙って。レナ、わたしはそもそも疑問に思っていた。なぜ探学の生徒達に天獄郷旅行プレゼントなんて大盤振る舞いするのかと」
「それは私も思いましたが、一応私たちの学園生活を思っての事では?探学の皆さんも、選考会以降明るくなったように思えますし」
「そういった面があるのは否定しない。だけど本命は違った」
「それ以外に何の意図が?」
「おそらく、天獄郷旅行にかこつけて、自宅に住まわせている女を連れて行っても違和感を持たれないようにする為。そう考えると全てのピースが嵌まる」
「まさか…奈月、貴女は何を言っているか理解しているのですか?」
「勿論。れーくんの囲っている女は…関東探学の生徒の中にいる」
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