第73話 とばっちり

 天獄杯選考会も無事に終わった。あーちゃん達が代表PTになり、あーちゃんが個人戦代表という結果に終わった。レナちゃんも矢車さんが相手じゃなきゃ行けてたかもしれないが…まぁあれは普通に無理だろう。火だるまになっても怯まないってやばすぎじゃない?もしかしてそういった訓練もしてるのか?生き埋めとか水攻めとか…万生教ならあり得るな…天獄郷襲撃した時に初手帝級を使って正解だったな。下手すりゃ反撃喰らって醜態を晒していた可能性がある。


 しかしレナちゃんがああいった形で欠陥魔法剣を活かすとはね。刀身が燃え尽きて炎が拡散したから矢車さんは火達磨で済んだんだろうが、燃え尽きてなかったらどうなってたんだろう。鍔迫り合いで炙るに留まったのか、バーナーみたいに焼き切ったのか…どっちにしろグロすぎる。新手の拷問かな?


 武器を犠牲にして魔法を叩き込む、ね…ん?おいおい…なんてこった…!レナちゃんの使った技、あれはファイナルストライクなのでは!?本家とはちょっと違うが、武器を犠牲にして放つ必殺技という意味では同じようなものだし。あれはファイナルストライクといっていいだろう!


 素晴らしい!まさかファイナルストライク使いが誕生するとは!正直戦闘中に武器を壊すなんて正気を疑うが、複数持ってれば問題ないだろう。そもそも使い捨て前提な所あるしな。銭投げや投げるは自分じゃ使う気はしないけど、レナちゃんが今後もあの自壊戦法を使うつもりなら俺も一肌脱ごうじゃないか!


 となるとそれなりの武器が必要になるか。あーちゃん用とまではいかなくても、それなりに希少な武器でなければファイナルストライクとして相応しく…いや、俺ならともかく、レナちゃん程度なら相応の武器であれば消滅する事もないのでは?つまりレナちゃんなら、最強のサン〇ガ魔法剣二刀流乱れ打ちが可能…!?


 あーちゃんに感謝だな。レナちゃんが助かっていなければ、この世界で見る事は叶わなかったかもしれない。よし!レナちゃんには二刀流になってもらおう。恩着せがましく二刀プレゼントしたら、空気を読んで二刀流の修行をしてくれるに違いない。無常さんにもお願いしておけば大丈夫だろう。そうと決まれば早速武器の用意をせねば!大鎌使いに魔法剣二刀流か。夢が広がるぜ!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「直則よ。今年の進捗状況はどうなっている?」


「はっ!既に各監視塔周辺の領民の避難は完了しております。定刻10分前を以て最終監視、及び防衛についている者も速やかに撤退する手筈となっております」


「ならばよい。…今年も無事に終わればいいのだが。いや、起きないでくれるのが一番有難いのだがな」


「突然始まったのですから今年止んでもおかしくはないですが、楽観はしない方がよろしいかと。…七年前でしたか。初めて観測されたのは」


「七年前…目を瞑れば今でも思い出せる。あの惨状を。天を焦がす炎を、暁に染まる空を。遂にこの世が終わるのかとあの時は絶望したものだ」


「私も鮮明に覚えております。当時の私は同行する事が出来ませんでしたが、後日現場に赴いた父から話を聞きました。惨憺たる有様だったとか」


「あの時受けた衝撃は未だ忘れられぬ。なにせ禁忌領域が一部といえど燃え尽きていたのだからな」


「返す返すも悔やまれます。年々規模が増す状況を鑑みれば、無理をしてでも不治呪界の奥に行くべきであったのではと」


「私は間違いだったとは思っておらん。あれだけの被害にも関わらず、未だに禁忌領域が一日で元に戻っていることを考えれば、奥に進んだ者は全員戻ることなく死んでいただろう」


「…天皇山に辿り着いたとして、そのまま戻るという選択肢はあり得ませんか」


「そもそも我らの手で成した事ではないのだ。良からぬ存在の思惑が潜んでいる可能性もある。もっともあんな大それたことが出来る存在など、それこそ万魔くらいしか思いつかんが」


「万魔様には確認を取られたのですよね」


「うむ。知らんと言っていたがな。他の禁忌領域にも確認を取ったが、似たような事は起きていないようだ。東海禁忌領域・不治呪界天皇山のみというのが気にかかる。昔から起こっていたならまだ分かるが…何の前触れもなく七年前に始まって以降、毎年同日同刻に起こり続けているのは偶然とは思えん」


「領民たちも最初の内は怯えていましたが、今や屋根に上って見物してお祭り騒ぎですからね」


「あれだけ派手なのだ。被害がないとなれば良い見世物になるのは間違いない。一日とはいえ禁忌領域の脅威に怯えずに済むともなれば、領民達にとっては慶事であるし息抜きにもなるだろう。それ目当てで観光に来る者たちもいる位だからな」


「天皇山におわすとされる天神様が、その御力で禁忌領域を消滅させようとしている等と言っている領民達もおりますが。天神囃子などといって有難がる者も多いです。実際はどうなのか知れたものではありませんが」


「原因が分からぬ以上否定は出来ぬ。だが私はそうではないと思っている。あれは何者かが意図してやっている事だ。人ならざる存在が力を振るっているという点は間違ってはいないだろうがな」


「意図して、ですか?」


「そうだ。でなければ七年前に急に始まった現象が、毎年同日同刻に、規模を増しながら続く筈もなかろう。禁忌領域自体に異変が起きているのは間違いない。そしてその異変について心当たりが出来た。北条には感謝せねばならんな」


「北条に、ですか?ということは…まさか!?」


「そう、そのまさかだ。不治呪界天皇山…我らにとって信仰の対象である天皇山、だがそこに住むのは天神様などではなく、ダンジョンボスだったと考えれば納得もいく。つまり我らも北条同様、不治呪界を突破し、その上で天皇山にてダンジョンボスを討ち果たさねば禁忌領域の解放は不可能という事になる」


「…なんと…それはあまりにも」


「不治呪界を突破し、天皇山におわす神に御助力を願い、解放を成し遂げる。古より我ら徳川に課せられた使命だったが、その神を討滅せねば解放は決して成せぬのだ。しかも毎年規模が増し、今や範囲は禁忌領域全体に広がっている。それを考慮すると最悪の事態も考えねばなるまい」


「最悪の事態…ですか?」


「そうだ。天神囃子の行きつく先…いずれ被害は禁忌領域に留まらず、こちらにまで及ぶのではないのか。そしてそれは天皇山の主がダンジョンから解き放たれる事を意味するのではないか。そうなればもはや禁忌領域の解放など夢物語よ。瞬く間に我ら徳川領を滅ぼし、日本を飲み込むだろう」


「なんと…もしそんな事になれば我々の今までの努力は…当主様。それが起こるのは何時とお考えでしょうか」


「分からん。1年後か10年後か…だがそれほど猶予があるとは思えん。災禍は既に禁忌領域全体に及び、我々も立ち入る事などできないのだからな。今の我々に出来る事は、口惜しいが無事に天神囃子が守護領に被害を齎さず終わる事を祈るのみ」


「7月7日は七夕ですし、短冊に願い事でも書きましょうか。天神囃子が鳴りやみますようにと。我ら総出で願いをすれば叶えて下さるかもしれません」


「ふっ、それこそ無駄な事よ。天神囃子を引き起こしているのがその神なのだ。我らの願いなど聞き届けはすまい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る