第69話 個人戦予選

『代表PT選考会では大鎌使いであるにも拘らず、可憐で苛烈な槍捌きを披露してくれた天月ありすさん。蝶の様に舞、蜂の様に刺すその姿に見惚れた方も多いでしょう!そんな天月さんの相手は、2年C組、有田弘樹君です』


 あーちゃんと対戦相手の紹介の差よ。現実とはかくも残酷なものなのか。


『さあ、時間もありませんので両者揃った所で試合開始で…おっと?有田君、開始線を越えて天月さんに近寄っていきます。何かあったのでしょうか?』


『よく似た光景を、私は決勝戦で見た事があるのですが』


『奇遇ですね生徒会長!私も覚えがあります!!一体どうしたのか有田君!一体何をしようというのは有田君!!』


 実況席の悪乗りに、みんなの視線がAブロックに注がれる。おいおい、周りの野郎どもの眼が血走ってるんだが?


「初めまして、天月さん。2年C組の有田弘樹と言います」


「えっと、はい。初めまして先輩。天月ありすです」


「不躾で申し訳ないが、時間がないので手短に言わせてもらう。もし俺が個人戦代表になった暁には、俺からのペアチケットを受け取って欲しい」


『おおっとぉぉお!!!やはり有田君、天月さんに告白だったぁあああ!!しかも本選出場のペアチケットをダシにした、とらたぬ告白だぁぁあああ!!』


『これは流石にどうなんでしょうか。でもここで負けたらどの道目はありませんのでありといえばありなのでしょうか』


『行動しなければ勝算はゼロです!そういう意味で行動を起こすのは間違ってはいません!しかもチップはタダで手に入る豪華天獄郷旅行です!!オールインするのはある意味正しい判断でしょう!!』


「私はもう代表PTで貰えてますので。ごめんなさい。誰か他の人に渡してあげて下さい」


「だろうね。良いんだよ、これは僕が勝手にやる事だ。受け取ったチケットは好きにしてくれていい」


『なんと有田君!ペアチケットの対価も求めず贈呈すると宣言しました!!まさかなんの特徴もない有田君の漢気に私、鴨下美紀は感動しています!!見事代表になった暁には是非ともこの鴨下美紀を!放送部部長、鴨下美紀をお願いいたします!!』


 なんであんな私欲に塗れた奴が部長やってんだよ…他の奴らも、その手があったか!なんて羨ましそうな目で見てんじゃねえよ。そもそもあーちゃんに負けた時点でピエロになるじゃねえか。


『さあ、有田君の宣言も終わった所で早速始まりますAブロック1次予選。果たして勝利はどちらの手に!?』


『自分を追い込んでやる気を奮い立たせる有田君には、私も少し感じるものがありました。奮闘に期待したいですね』


 あーちゃんがこちらを見る。笑って手を振る。途端、機嫌がムスッと悪くなった。


「れーくん、それは流石に…」


 他にどうしろと。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「天月さん!僕と…」


 ズガッ!


「ありすさん。僕が勝ったら」


 ボコッ!


「天月、いや、ありす。これに勝ったら俺のものに…」


 ドカッ!バキッ!!メキョッ!!!


『天月選手、この試合も圧勝!これで個人戦での本選出場を決めました!!ついでに天獄郷ペアチケットもゲットです!!』


『対戦相手の諸星君は大丈夫でしょうか。気絶したまま運ばれて行きますが』


『調子に乗って名前呼びしたからでしょう。自業自得です。それにしても圧巻でしたね、天月さん。諸星君も3年の中では決して弱いというわけではないのですが』


『そうですね。全員1分掛からず倒しているのは驚きという他ありません。相当な実力差があったということでしょう』


『流石は万君の双子のお姉さんといった所でしょうか。才能も確かなものがあったということですね。可愛くて強くて優しい!なんだこの完璧美少女は!!失礼ですが私と同じ人間とは思えません!!』


『鴨下さんは人以前の問題です』


『それにしても今年の1年は凄いですね。天月さん以外にもBブロックの草薙君、Cブロックの星上さん、Dブロックの矢車さんが最終戦まで駒を進めています!草薙君以外は全員代表PTというのも特筆すべき部分でしょう』


『天獄杯本選では使用武具の制限が撤廃されますから一概には言えませんが、これは天獄杯の1年PT戦、期待できるのではないでしょうか』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 天獄杯個人戦予選も無事に終わり、みんな揃って晩御飯である。


「それにしても全員が予選通過するとはね。みんなおめでとう」


「ありがとうございます。ですが代表になれるかは明日次第ですので」


「そうだな。風音は問題ない。ありす様も風音か生徒会長と当たらなければまず代表になれるでしょう。レナに関しては五分五分だろうな」


「分かっています師匠。今の私ではまだ上級生の方々に対して不利でしょうから。ですが相手が誰であっても全力で当たるのみです」


「後半年あれば可能性は十分あったろうがな。こればかりは仕方がない。レナ、くじ運に自信はあるか?」


「私はワンダラーエンカウントとその後で、運を全部使い切ってしまったような気がしますので。運ではなく実力で勝ち取りたいと思います」


「ふっ…その意気だ。気楽にやると良い。天獄杯の個人戦も良い経験にはなるだろうがな。如何せんお前が毎日相手にしているのはこの私だ。それに勝る経験を積める事はまずないだろう。無論、魔央様が出ていなければの話ですが」


「いやいや、俺は出ないからね。なっちゃんと一緒に応援する係だから」


「そうですか。ならばそういう事にしておきましょう」


 いや、本当に出ないからね?止めて?変なフラグ立てないで?

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