第68話 個人戦開始
2年と3年のPT戦代表も恙なく終了したとの事で、今日から個人戦である。代表が誰になったのかは知らない。全く興味がなく見に行ってすらいないからだ。小さい頃ならともかく、今更天獄杯なんて見た所で面白くもなんともないし。若人が真剣に鎬を削るのを見て楽しいと思う人には好評だろうが、俺みたいに捻くれている人間にはおままごとの延長線上にすぎないのだ。この歳で上級魔法使えるのは普通に凄いから世間的には人気あるけどな。
個人戦は約束をしているのでとりあえず行くけど、実況とかはもう面倒だからいいや。なっちゃんと一緒にあーちゃん達をひっそりと応援しておこうかな。
・
・
・
・
個人戦は凄まじく盛り上がっていた。なんなら天獄杯本選以上の熱気ではなかろうか。勝敗が付く度に一喜一憂、勝者の雄叫びと敗者の嘆きが木霊していた。なんだこれ…ちょっと異常だな。毎年こうなのか?いや、天獄郷旅行というカンフル剤が効きすぎたのか?
まあ、真剣なのは不真面目よりは余程いい。頑張って栄光を勝ち取ってくれ。しかし人が多すぎる。やっぱり応援に来るのは選考会本選だけで良かったな。この中から探すのは流石に面倒くさい。よし、帰ろう。あーちゃん達には見つかりませんでしたとでも言って謝ればいいだろう。
家に帰ろうと踵を返した所で、ばったりとなっちゃんと鉢合わせした。
「れーくん見つけた」
「あれ、なっちゃん。こんな所でどうしたの?」
「れーくんを探してた。人が多いから嫌気が差してすぐ帰るかもしれないってありすが言ってたから」
行動を完全に読まれているな。流石はずっと一緒にいるだけはある。
「この中から探すのは流石にちょっとね…ただ、なっちゃん見つけたから帰らずに応援するよ」
「見つけられてよかった。そろそろありすの試合が始まる」
「そうなんだ。それじゃ、なっちゃん案内よろしく」
「はぐれたらいけないから手を繋ぐ」
俺は迷子の子どもかな?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、なっちゃん、れーくん見つけられたんだ」
「ありすの言った通り、人目に付きにくい所に居たから逆に見つけやすかった」
「あーちゃんはそろそろ試合なんでしょ?なっちゃんと応援してるから頑張ってね」
「個人戦代表目指して頑張るよ!」
「武器も防具もほぼ同条件なら、そうそう負けるとは思わないけど。レナちゃんはどうなの?」
「同学年相手に負けるつもりはありませんが、上級生の方相手だとどうでしょうか。少なくとも大道寺先輩の相手は難しいと感じましたので」
大道寺?…ああ、あいつか。アレを引き合いに出されても強さ何て分からないからなぁ。
「ま、負けた所で死ぬわけじゃないんだから気楽にやればいいと思うよ。PT戦の代表にはなってるわけだしさ」
「そういえばれーくん、PT戦の代表の人が個人戦で勝ち残ったら、旅行枠はどうなるの?」
「その分枠が減るだけだよ。ペアの分は好きな人連れていけるから意味がない事はないけど」
「そっか。もし本選に残ったら紗夜ちゃんの分にしようかな」
「ありす。紗夜ちゃんはどのみち天獄郷に行くんだからその必要はない。それよりもっと良い使い道がある」
「ほんと?どんな使い道があるの?」
「転売。ありすと一緒のペアチケットならきっと高額になる」
「嫌だよそんなの!知らない誰かと一緒に旅行なんて!そもそも転売なんてしちゃ駄目でしょ。駄目だよね?」
「その発想はなかったな。でもそうか、その可能性もあるのか…」
こっちが善意で用意した物で金を稼ぐとかけしからんな。しかも俺が金とコネを使って用意した物を転売するとか許される行為ではない。
「転売については最後に忠告しておけば大丈夫でしょ。なっちゃん助かったよ、転売なんて考えもしなかったからね」
「する人はいないと思うけど、しないとは言い切れない」
「確かにそうかも。もし売ったら幾らになるんだろうね?2週間豪華天獄郷旅行でしょ?」
「学生の身で出せる金額は限られるでしょうが…そうでなければ六桁は余裕でいくのでは?」
「ろ、六桁!?そんなにするの!?れ、れーくん…大丈夫なの?」
「あーちゃんが心配する必要はないよ。禁忌領域の素材を売っ払えばどうとでもなるし」
「本当?私にできる事があったら手伝うから何でも言ってね!」
「私は手伝う事がなくても何でもする。準備は出来てる」
女の子がそういうことを言うんじゃありません。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『一発勝負の天獄杯個人戦代表選考会!ここまで白熱した選考会を私は見た事がありません!皆さんやる気に満ち溢れています!それもそのはず、組み合わせ次第ではありますが4回、4回勝ち抜けば晴れて豪華天獄郷二週間旅行のペア宿泊チケットが手に入るのです!!誰もが殺してでも奪い取りたいでしょう。私を誘ってくれる王子様は随時募集しております!!おっと、次のAブロックの試合は注目の一戦になりそうです。皆さんも記憶に新しいでしょう。1年生の代表PTとなった万王様親衛隊のメンバー、天月ありすさんの登場です!』
あの部長、今日も実況してんのか…それにしても何でペア宿泊チケットになってるんだ?いや、ペアで招待ってことは当然そうなるのか?二人きりで旅行なんてした事ないから分かんないよ…それぞれ適当にチケット渡してお終いだったんだけどな。まあいいか、その方が向こうの手間も減るだろ。そりゃあーちゃんも転売嫌がるわけだよ。俺だって知らない奴と旅行行って同じ部屋に泊まるとか嫌だし。
あーちゃんが試合会場に出てくる。あ、俺たちに気付いてこっちに手を振って来たな。俺たちも手を振り返す。一斉に周りの野郎どもも手を振ってるんだが?
「私もここにいて良いんですか?お邪魔な気もしますけど」
ふんすとやる気を出しているあーちゃんをみんなで眺めながていると、矢車さんが聞いてきた。周りの席が空いていたので丁度いいかとお邪魔したのだ。
「良いんじゃない?天獄杯で同じチームだし、そもそもそっちが先にこの場所に居たんだから。誰かと一緒に見る予定だったなら、邪魔になるから他の席に行くけど」
「とんでもない!仮にそんな予定があったとしても、奈落の底に蹴落としますので!」
そこは予定を優先しようよ…
「ちなみに矢車さんも個人戦出るんだよね?」
「はい。個人戦代表になって、故郷に錦を飾りたいと思います!!ちなみに私はDブロック、星上さんはCブロックですね」
「代表PTメンバー同士はバラけて配置されてるって事?」
「代表PT優先ですが、チームメンバーは可能な限り全員別ブロックに配置されてます。同じPTメンバー同士が戦うとしたら選考会本選からです。かといって学年ごちゃまぜですから油断は禁物です」
「てことは、勝ち抜けばあーちゃんとは決勝、レナちゃんと矢車さんは準決勝で当たるってこと?」
「いえ。明日の本選は抽選で先生方が決めるので、誰と当たるかは分かりません」
「なるほど。まあ矢車さんは大丈夫だろうけど、レナちゃんも頑張ってね」
「勿論です!万王様と万魔様の顔に泥を塗るような真似は致しません!!」
「私も全力を尽くしますので、れーくんも応援よろしくお願いしますね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます