第67話 第一回れーくん会議

 天獄杯の代表PTはあーちゃん達に決まった。いや、お前ら今までの鬼気迫る勢いはどうしたんだよってくらい、漢組の連中はあっけなく負けた。なんでお前らPT戦でタイマンしてんだよ…負けた後もすっきりした表情をしていたので、試合前に推しとお話できて満足してしまったのだろう。勝者を讃える陰で、クラスメイトにボコボコにされていたが。残当。


 優勝したあーちゃん達におめでとうと言ったら、何であんなことを言うのと怒られた。俺は何もおかしなことは言ってないと反論したら、どうにもあーちゃん達への恋愛支援に不満があるらしい。とは言ってもね…拗らせたら面倒な事になるのは北条の屑が証明してるじゃんと反論したら、告白を断るのも大変なんだよと切々と語り出した。あーちゃんも苦労してるんだなぁと呑気に聞いてたら、もうもうもう!れーくんは本当にもう!!と、ぷんすこ怒って部屋に戻ってしまった。牛さんかな?


 余計なお節介だとは思うが、やはり色恋沙汰は学校生活において一大イベントだからな。なんせギャルゲーや恋愛ゲーの舞台の大半は学校だし!!あーちゃんには是非とも心から学校生活を楽しんで欲しい!! 



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「それではこれより、第一回・唐変木れーくん対策会議を開催したいと思います!」


 パチパチパチと小さな拍手が鳴る。時刻は既に夜、選考会の疲れもなんのその、天月ありすの部屋に、この家に住んでいる女性4人が集結していた。


「ありす。集合と言われたのでとりあえず来ましたが、れーくん対策会議とは一体何を対策するんですか?」


「れーくんへの対策…私は毎日下着には気を配っている。とりあえず今日はいいやで済ませた場合、その時が運命の日になる可能性は高い。いざそうなった時に恥ずかしい思いはしたくない」


「奈月御義姉様、もしそうなるのでしたら、気を配らない方が結果的に最良になるのではないですか?」


「ッ!!…さすがは紗夜ちゃん。その発想はなかった。しかし身だしなみに気を付けないズボラな女と思われたくないので、残念だけどそれは出来ない」


「確かに奈っちゃんの言ってる事も重要だけど、今日の本題はそれじゃないよ。今日の会議の目的は、唐変木なれーくんにどうやって恋愛のいろはを叩き込むかだよ!」


「恋愛のいろは、ですか?」


「そう。紗夜ちゃん以外のみんなは聞いたでしょ?今日のれーくんの実況解説」


「確かに。試合内容そっちのけで、関係ない事ばかり実況してましたね。ですがあれは一緒に実況していた人に問題があったのでは?」


「御義姉様方、差し支えなければ、主様がどのようなお話をされていたのか教えて貰ってもいいでしょうか?」


「いいよ。最初はね…」

「なるほど。つまり主様は自分に敵対しない限りは皆さんの快適な学校生活を保障しますと宣言なされたわけですか」


「内容に関してはそうですね。ありすが言いたい部分はそこではないのでしょうが」


「そうだよ!他のみんなは良いかもしれないけど、私たちの快適な学校生活が台無しなんだよ!!」


「主様の傍にずっといらしたありす様には分かり辛いかもしれませんが、主様の存在は非常に大きなものなのです」


「れーくんが凄いのは知ってるけど、引き籠りだよ?」


「万魔様の後継者という肩書に加えて、北条との決闘でその御力を示されました。今や主様の言動は、些細な事でも大きな影響を社会に与えるでしょう。そしてそれは傍におられる御義姉様方も無関係ではありません」


「確かに。ここに引っ越す時に実家にれーくんと挨拶に行った時も、お父さんは無言でプルプル震えてただけだし、お母さんは赤飯を炊いてお祝いしてくれた」


「何も手を打たないで放置した場合、私たちが学校で腫物扱いされかねないので、わざわざ皆が集まる選考会に出てまで宣言したという事ですか」


「レナちゃん、どういうこと?」


「北条との決闘が起きたのは、ありすに大道寺先輩が絡んで来たからですよね?」


「そうだね。流石にあれは怖かったよ」


「つまり、ありすに手を出したられーくんの逆鱗に触れるという図式が成り立ってしまうわけです」


「別に私はそれでも構わないんだけど」


「当然それは、ありすやれーくんの近くにいる私や奈月にも適応されると周りの人たちは考えます。そうなるとどうなりますか?」


「この学校に入学してから告白されなくなったし、良い事だよね!昨日までは、だけど」


「そう。何が逆鱗に触れるか分からないから、迂闊な行動が出来ない。それ自体は良い事なのですが、そうなると私たちが関わる案件に対して、他の人たちが必要以上に委縮する事になります」


「それって学校行事の事?」


「そうです。大道寺先輩はありすにしつこくつき纏ったのが原因でした。ならもし選考会でありすに傷をつけてしまったら?ありすに勝ってしまったら?いずれもありすにとっては不利益な事ですから、れーくんが介入してくるかもしれません」


「れーくんはそんな事しないよ。残念だったねで済ませると思うけど」


「それはれーくんの事を良く知ってるありすだから分かる事であって、他の人には分かりませんよ。下手に手出しをすると過剰反撃で身を滅ぼす。残念ながらこれが今のれーくんの対外的な評価であり、本人もそれを望んでいる節があります」


「決闘後のコメントもトゲトゲだった」


「現状のまま放置すると、ありすや私たちの意見が無条件で通る事になりかねません。周囲も私たちの顔色を窺いながら学校生活を送ることになるでしょう。ありすもそれは望んでいませんよね」


「手を抜いた結果負けましたなら良いけど、れーくんが怖いのでわざと負けますなんてのは嫌かな」


「そうなる事がない様に事前に手を打ったのでしょう。私たちが他の学生に敬遠されないようにという配慮なのでは?豪華天獄郷旅行もその一環でしょう。目に見えて分かりやすく、しかも豪華なメリットを提示する事で、戦意を煽ってやる気を引き出し、気兼ねなく戦えるようにしたのでは」


「確かに、私たちと戦った人達全員、やる気満々だったね。最後は違ったけど」


「漢組の人たちですか。あの人たちこそ一番れーくんの演説に影響された人たちだと思いますが。あの状況で告白など、普通は二の足を踏むでしょう。しかも大道寺先輩の件もあるのですから」


「でもインパクトは凄かった」


「何事も最初の一人というのは印象に残るものですから。彼らも本気で告白したというよりは、自分を覚えて欲しいといった気持ちが強かったんでしょうね。何にせよ、ありすにも私たちにも学校生活を気兼ねなく送って欲しいというれーくんの配慮だと思いますよ」


「れーくんが他人に配慮できるようになるなんて、私は嬉しいよ。でも問題はそこじゃないの!他人に幾ら配慮できても、私たちの気持ちに配慮できないなら意味がないの!」


「それに関してはどうしようもないのでは?奈月のあからさまで直接的な好意表現すら平気な顔をしてスルーですよ?」


「塵も積もれば山となり、雨垂れ石を穿つ。何があろうと私は諦めない」


「好意に気付かないなら超鈍感で済むけど、れーくんは分かってて放置してるからどうしようもないんだよね」


「かといって本人に直接聞いた場合、私たちの現状では帰ってくる言葉は分かり切っていますし…」


「こういうのは切っ掛けが必要。押して駄目なら引くなんて駆け引きをしたら、れーくんはそのまま離れていく。去る者は追わず、来る者は拒むのが今のれーくん。常に押しつつ、れーくんに一歩踏み出させないと駄目」


「す…凄いよ奈っちゃん!恋愛マスターだね!!」


「恋愛ポンコツのありすと一緒にしないで欲しい」


「そうなると、やはり重要なのは夏休みの天獄郷旅行ですね。旅の恥じは掻き捨てとも言いますし、普段と違う環境は人を大胆にします。天獄郷は温泉が有名でしたか」


「こ、こ、こ、混浴するつもり!?レナちゃん大胆だよ、大胆すぎるよ!!」


「ポンコツありすは一先ず置いておくとして、私が言いたいのは普段しないような恰好や姿でアピールするのが効果的ではという事です。夏なので水着や浴衣など良いのではないでしょうか」


「そう!私もそれを考えてたんだよ!!一年中家に引き籠ってるれーくんも、天獄郷では旅館に引き籠ってばかりじゃないと思うし。お家みたいに引き籠り部屋は用意されてないからね!」


「夏は人を解放し、大胆にさせる。水着姿で誘えば如何なれーくんと言えどもホイホイついてくること間違いない」


「恋愛マスターのお墨付きも貰ったし、勝負は天獄郷旅行だね!とりあえずどんな水着が良いか考えないとね」


「千代は男を悩殺するならスクール水着が最強と言ってましたが」


「えー、流石にそれはれーくんもドン引きするんじゃないかな?そもそもここにいる中で似合うのは奈っちゃんくらいだよ?」


「ありす、嫉妬しなくてもいい。ありすにはありすの良さがある」


「嫉妬なんてしてないんだけど!?」

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