第65話 傍観者
『万さんは、1年E組に関してはどう見られますか?』
『そうですね…1年E組、チーム名は漢組でしたか。個人的には非常に好感の持てるチームです』
『そうなんですか?』
『はい。PTに女性が一人いるだけで、その女性を巡って殺し合いになる確率は跳ね上がります。いわゆるPTクラッシャーってやつですね。男四人でPTを組んでいる限り、その心配はまずないでしょう。きっと恋人を作った奴は殺すといった鉄の掟がある筈です。彼らの本気度が伺える良いPT名だと思います』
『そんな事はないと思いますが、これまでの彼らの戦いは鬼気迫るものがあったのは確かです』
『心の持ちようで戦い方というのはガラリと変わります。女に
『言いたい事は分かりますが、彼らは万さんにだけは言われたくないと思いますよ』
『見解の相違ですね。さて、戦闘スタイルに関してですが、漢組は前衛4人で相手を力押しで圧倒するスタイル、1年A組はあーちゃんを中心にレナちゃんと矢車さんが穴を埋める変則的なバランスタイプです』
『いずれの試合も漢組の積極攻勢に耐えられず、翻弄されていた印象があります』
『仕方ない部分はありますけどね。彼らはまだ入学したての1年生です。人同士の殺し合いや、命を懸けた真剣勝負などした事はないでしょう。剥き出しの敵意というものに慣れていない現状、精神面で後れを取ったわけです。まあ妥当な結果でしょう』
『そうなりますと、女性4人PTである万王様親衛隊が心配ですね。中には試合後に泣いている女子生徒もいましたから』
『覚悟が足りないんですよ、覚悟が。女だからといって甘えてもらっては困ります。何が何でも勝ちに行くという信念が足りないんです。天獄杯に懸ける想いが違っていたという事です』
『今回に限っては、天獄杯というよりは豪華旅行への執念の様な気もします。学年問わず、皆さんやる気に満ちていますので』
『そうなんですか。まあこんなチャンスは滅多にないですからね。PT戦といえど代表PTには黒巫女さんが専属で一人ついてくれますし。黒巫女さんは可愛らしい女性が多いですからね。漢組が代表になった暁には、特別に彼ら好みの女性にそれぞれ個別に専属について貰える様、この僕、万魔央がお願いする事を確約しましょう』
『一つ疑問なのですが、なぜ万さんはそこまで彼らを優遇するのでしょうか。お知り合いか何かでしょうか?』
『全く知り合いではありませんね、赤の他人です。ですが同じモテない者同士、彼らにも夢を見る権利はあるはずです。旅行は僕主催のイベントですので、グレードを上げる分には問題ありませんし、誰にも文句は言わせません』
『…それは本気で言ってるんですか?』
『?はい。そうですが何か』
『…いえ。何でもありません。そろそろ時間も押して来ましたので、最終戦に入りたいと思います。まず登場したのは1年E組・漢組の皆さんです。こちらは質実剛健と言った感じでしょうか。非常にやる気に満ち溢れています。気合は十分といった所でしょうか』
『是非とも彼らには優勝して欲しいですね。虚仮の一念岩をも通す。努力と根性は才能の壁を凌駕すると証明して欲しいものです』
『続いて登場したのは1年A組・万王様親衛隊の皆さんです。漢組の皆さんと対照的で非常に華やかなPTですね。男と女、剛と柔、全てが対照的なPT同士の対決となりました』
『おや、漢組があーちゃん達に近寄っていきますね。一体どうしたんでしょうか』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「天月ありすさん」
「はい?あ、対戦相手の人かな?お互い全勝同士だから、これに勝った方が優勝だね。よろしくね!」
「はい!1-Eの代表PT・漢組の組長、持田源五郎と言います。貴女とこうして会える日を、心待ちにしていました。…もしこの戦いに勝てたのなら、どうか僕と付き合ってもらえないでしょうか!」
『おおっとぉおおお!持田君、実質決勝戦前に、まさかの告白だぁぁああ!!』
『いきなり何ですか?なんでここにいるんですか。実況席から追放しましたよね?』
『ふふん。この鴨下美紀を侮ってもらっては困ります!こんな美味しいイベントを実況せずして何が放送部部長か!!』
『鴨下さん、邪魔ですから出て行ってもらって良いでしょうか』
『何を言ってるんですか生徒会長!誰のお陰で彼氏が出来たと思ってるんですか?恩を仇で返すつもりですか!!』
『な、ななな何をいきなり言ってるんですか!?』
『何って、生徒会長の彼氏の話ですよ!ダンジョン実習後の掲示板で悩み相談してた時の
『あわわわ!!それ以上はダメです!万さん、私は急用を思い出しました!鴨下さんが代役で進行役をして下さるそうです!それでは失礼します!!』
『えぇ…行っちゃったし。部長さん、大丈夫ですか?また変な実況する様なら始末しますけど』
『大丈夫です!私、長いものには巻かれるタイプですので!!ところで万君も気になるんじゃないですか?持田君の事』
『そうですね。こんな衆人環視の前で堂々と告白できるとは…肝っ玉が据わってますね』
『持田君はアレナちゃんねるで天月さんを見た時から一目惚れだそうですよ。いわゆるガチ恋勢ってやつですね!そして同じ関東探学で見かけた時は神様に感謝したそうです。ちなみにチームメイトの手嶋君は星上さんのガチ恋勢です』
『ちなみに残り二人はどうなんですか?』
『井上くんは日向さんを見守り隊に入ってるみたいですね』
『なんですかそれ』
『日向さんのあらゆる行動を応援する、ガチ恋勢とは少し違ってほっこり見守る老人会みたいなものです』
『はぁ…色々あるんですね』
『そうです、色々あるんです。ちなみに苗木君は学校に突然現れた、謎の猫耳メイドさん推しだそうです』
『…そうですか。とりあえず僕は関与しないので、頑張ってくださいとしか言いようがありませんが』
『俺の女に手を出すなとか言うかと思いましたが、意外とドライですね。万君は釣った魚に餌を上げないタイプなんでしょうか』
『恋とは落ちるものと言いますからね。誰かを好きになる気持ちは止められません。余程酷ければ対処しますが、基本放置です。そもそも付き合ってないわけですから、他人の恋愛事情に口を出すのもおかしな話ですし』
『これは皆さん前途多難なようですね。心中お察し致します!』
『好いた惚れたで盛り上がれるのは学生時代くらいでしょうし、わざわざ目くじら立てるようなものでもないでしょう』
『万君は情緒が枯れ果てた疲れたおじさんメンタルしてますよね。猫耳メイドさんはともかく、あの三人は知らない仲ではないでしょうに…まさか薔薇の人ですか!?』
『寝言は寝て言ってください。まぁ恋人や夫婦なら口出しするでしょうが…』
『私なら恋人に他の女がちょっかい掛けてたら速攻排除を画策しますが!そんな人いませんけど!というわけで彼氏募集中です!豪華天獄郷旅行に連れて行ってくれるような素敵な方を募集しています!!私はこう見えても尽くすタイプなのでお得ですよ!!』
『部長さんはその性格直さなきゃ無理でしょうね。四六時中こっそり監視されたりスマホも覗き見されそうですし』
『おや、そうこうしてる間に手嶋君もどうやら星上さんにアタックしている模様です!いや~、青春ですね。他人事ながら他人の告白シーンは見ていてドキドキしてしまします!』
『盛りのついた犬じゃないんですから、TPOを弁えた方がいいとは思いますが。なんでわざわざこんな場所でしてるんでしょうか』
『あれ、万君はご存じない?同じクラスならともかく、違うクラスだと天月さん達と接触するのは非常に難しいんですよ。登校中を狙おうにもすでに学内にいますし、まず一人でいる事がありません。校内では互いが牽制しあって話しかけるのも難しいですし、かといって下校中を狙おうとしても、彼女たちは部活に入ってないので直帰してしまいますし、そもそも家はすぐそこですからね』
『あー、確かにそうですね。毎日3時過ぎには一度帰って来てるような?でもその後お出かけしたりしてますよ』
『そこはバカ殿の末路を見て皆さん自重しているんじゃないですか?天月さんのプライベートに介入して虎の尻尾を踏みたくないんでしょうね。そんなわけで、こういった機会でもないと天月さん達に単独での接触は難しいと思います。こんな場所で告白しても万君の御咎めがないわけですから、これは個人戦は俄然盛り上がりそうですね!!』
『僕ならガン無視案件ですが、あーちゃん達なら門前払いはしないでしょうね。まあ迷惑にならない程度に青春して下さい』
『そんな天月さん達ですが、終始和やかに会話してますね。これは好感触と言っていいのではないですか?周囲からは抜け駆けした持田君たちに対して怨念の籠った眼差しが向けられています!!』
『あーちゃんは告白されるのが日常の一部といっても過言ではないくらいモテまくってましたからね。対応も慣れたものです。ダンジョンソロ配信者であり、お友達のレナちゃんも同様でしょう』
『おっと!?天月さんも星上さんもごめんなさいをしたようです。人目も憚らず泣き崩れるかと思いましたが、持田君も手嶋君も何やら満足げです』
『男というのは可愛い女の子に優しくされたり気安く接されると、もしかして俺に気があるのかもと勘違いしてしまう悲しい生き物です。そして思い余って告白し、冷たくあしらわれてしまった場合、男はやり場のない悲しみと怒りをその子に向けてしまう可能性があります』
『勝手に好きだと勘違いして告白した挙句、そんなつもりじゃなかったと振られて逆恨みですか。女の子にとっては非常にはた迷惑ですね』
『自分に都合良く相手を美化し、妄想しているわけですから。そんな相手の目を醒ますなら、直接話して現実を分からせるのが一番でしょう』
『しかしそれだと危険を伴うのでは?こんなの僕の好きなありすちゃんじゃないと凶行に及んでしまう可能性があるのではないでしょうか』
『TVの向こうのアイドルに恋してるようなものですからね。相手を見てちゃんと話してあげれば大抵は満足します。推しに認知されたアイドルオタみたいなものです』
『なるほど。ちなみに満足しなかった場合はどうなるんでしょうか?』
『それは想像にお任せします』
『あ、はい』
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