第59話 今後の予定

「主様、お茶をどうぞ」


「ありがと、紗夜ちゃん」


 北条当主との面談後、紗夜ちゃんは父親と一緒に実家に帰り、そして日曜の夕方に帰って来た。もっとゆっくりしてきて全然かまわなかったんだが…改めてよろしくお願いします、御義姉様方。と言われた三人娘は、紗夜ちゃんが私たちの妹になった歓迎会だよ!と意気揚々と買い物をしに街へと繰り出していった。事ある毎に歓迎会とかどこの海賊だよ。


「それで紗夜ちゃん。中学校ってここから通うんだよね?」


「はい。今週の水曜から通う予定となっております」


「そっか~。ここから結構遠いけど大丈夫?」


「はい。千代が送り迎えしてくれるそうですので、問題ありません」


 千代だと…やつがこの街に来るのか!?


「…言っておくけど、その人はうちに永久出入り禁止だから」


 家に来られたら、あーちゃんに間違いなく悪い影響を与えるだろう。そんな奴を招くわけにはいかない。


「はい。千代にも探学前までと伝えておりますので。主様に一言どうしても挨拶したいと申しておりましたが…」


 俺に会って何を言うつもりなんだ…やはり会うわけにはいかないな。


「必要ないから!あと部活とか入って全然大丈夫だからね。友達もバンバン作って遊んで帰ってくると良い。なんなら門限もないから千代さんの家や友達の家にお泊りするのも良いと思うよ。ここは北条じゃないからね、紗夜ちゃんの立場を気にする人はいないだろうし、羽を伸ばしていっその事、彼氏とか作…られたら困るからね、紗夜ちゃん可愛いから男の子には気を付けてね」


「はい。部活は元々入っておりませんでしたし、お友達は、出来ると嬉しいですね」


「そっかー、それじゃ俺は部屋に戻ろうかな」


「はい。何か御用があればお気兼ねなくお呼びくださいませ」


 こ、怖え……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「そういえば今日ね、新しい先生が来たよ!!」


 晩御飯中、あーちゃんが今日あった事を楽しそうに話し出す。いつの間にやら毎日みんなで晩御飯を食べるのが当たり前になっていた。

 

「新しい先生?こんな時期に?」


「真田先生が退職したから」


「誰それ」


「私たちの担任だった先生です。ダンジョン実習で…」


「ああ、その代わりに新しく先生が来たって事?」


「そうそう、ちなみに誰だと思う?」


「そんなの分かるわけないじゃん…でも俺に聞くって事は知ってる人って事?」


 おい…まさか千代とかいう名前じゃねえだろうな!!ふざけんなよ。もしそうなら特権濫用して即解雇してやるからな。


「俺の知ってる人で先生になれそうな人とか全く思い浮かばないんだけど」


 そもそも知り合いなんていないし。


「正解はね…無常鏡花さんでーす!!」


「は?まじで?無常鏡花さんてレナちゃんの師匠やってくれてる無常鏡花さん?」


「はい。私もビックリしました。朝のHRにいきなり現れましたので」


「男子が五月蠅かった」


 ああ、確かに無常さん若いし美人だからな。スタイルも良いし。キリッとしてるから女の子にもモテそうだし。


「ああそうか。本格的に引っ越すってそれが理由か」


「れーくんの隣のお家に住むって先生が言ったら、男子が泣き喚いてた」


「師匠が隣に住まわれるのでしたら、稽古の時間もより多く取れそうですね」


 レナちゃんのそのモチベはどこから来るんだろうか。稽古をこっそり見た事があるけど、俺なら5分で逃げ出すくらいにはヤバかったからな。


「レナちゃんの師匠だけじゃなくて学校の教師までしてくれるのか…何かお礼しないと駄目だな、これは」


 教師になったのって俺が原因みたいなもんだしなぁ。といってもお礼なんて思い浮かばんぞ。万生教信者が喜びそうなもの…小雪ちゃん1日抱っこ券とか?…殺されそうだな。


「夕食にお誘いするのはどうでしょうか?学校の先生でしたら色々大変でしょうから。幸いすぐ近くですから、食べてから戻るのも大した手間ではないと思います。一人増えても大した手間ではないですし、食事の準備は私もお手伝いしますので」


 夕食を一緒にか。確かに歳を取って耄碌してる奴はともかく、若いと部活顧問やら何やらで毎日遅くまで残業してる印象があるから良いかもしれないな。


「俺は良い案だと思うけど、あーちゃん達はどうなのかな?学校の先生と学校終わった後、しかも夕食を一緒にとか正直俺は御免だけど」


「私は良いと思うよ!鏡花さん恰好良いしね!」


「私も問題ありません」


「私も大丈夫」


 そういやこの子達学業成績も優秀だったし、同性だから苦手意識とかないのかな。まあ知らない仲でもないしな。


「じゃあそういう事で。明日学校行った時に無常さんに伝えといてよ。夜7時頃でいいのかな?俺も大体起きてるしね」


「分かりました。師匠には私から伝えておきますね」


 すんなり自分の提案が通ったからか、紗夜ちゃんも嬉しそうだ。狸の耳もピコピコ動いている。…メイド服と動物耳カチューシャは外しておくよう言っておかねば…


「後ね、校長先生に、れーくんにどうするか聞いておいてくれって頼まれた事があるんだけど」


「校長先生に?」


  直接俺に聞くほど喫緊じゃないけどあーちゃん経由って事はそれなりに重要な事か?北条の件で多少はお世話になったし、自宅で出来る事なら検討してあげよう。


「うん。2週間後にね、天獄杯の校内予選があるんだけど、れーくんは出場するのか教えて欲しいんだって」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 天獄杯、正式名称は全国探索者養成高等学校総合技能実演大会。探索者の甲子園みたいなもの。探索者協会が運営している探学は、北海道・東北・関東・中部・関西・中国・四国・九州の8地域に一校ずつ存在しており、年に一度、各校代表選手による対人戦が天獄郷にて行われる。万魔のお膝元で行われ、将来の探索者業界を背負うであろう若きエリート達の戦いという事もあって、世間の注目度も高く、そのフレッシュながらも真剣な熱闘は夏の風物詩となっている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「俺が出たらそれこそ勝負にすらならないと思うんだけど。なんでわざわざ確認取るような真似を?」


「れーくんは形式上は関東探学の生徒ですから。もし参加する場合、色々と調整も必要になるでしょうし、その為では?」


「なるほど。選考会やった後に俺が参加するなんて言い出したら、選ばれた人が可哀そうだし当然の配慮ってやつか。ま、俺は参加するつもりはないけどね。みんなはどうなの?」


「私たちはPT戦に出るよ!」


「個人戦は基本的には全員参加ですね。拒否も可能ですけど」


「わたしはPT戦だけ。個人戦は無理」


「なっちゃんは戦えないからなぁ」


「その分PT戦で頑張りたい」


 ダンジョンのモンスター相手ならともかく、支援オンリーのなっちゃんは対人戦きつい気もするけど…いい経験になるか。本人もやる気だしな。


「負けた所で死ぬわけじゃないんだから、気楽にやればいいと思うよ」


「私たちが代表に選ばれたら応援に来てね」


「どっちみち、夏休みは万魔に呼ばれてるから天獄杯に合わせて向こうに行く予定なんだけど」


「そうなの?」


「うん。みんなも連れて来ていいって言われてるから、代表落ちしたら観光気分で行こうか」


「私もご一緒してよろしいのでしょうか」


「もちろん良いよ。そういやPT戦って事は4人だよね?後一人誰か入れるの?」


「最初は三人でやってみようと話していたのですが、矢車さんから一緒に参加させて欲しいと頼まれまして」


「ダンジョン実習で私たちが三人PTだから、風音ちゃんだけソロだったんだよね。あの時お世話になったし、選考会で一緒に組むことにしたんだよ。矢車さんはクラス委員長だし、ソロでやれる位強いんだよ!PT戦は学年別だし、頑張れば代表になれるかも」


 まあ強いだろうな。あの子万生教徒だし。


「そうなんだ。暇だから選考会の日は応援に行こうかな。その方があーちゃん達も気合入るでしょ」

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