第58話 家出娘の処方箋
「私としては起こした方が良いと思ったのだがね、娘が主様は途中で起こされる事を嫌っていますので、起きるまでお待ちください、と」
つれぇわ…なんで父親の前で主様なんて呼ばれなきゃいけないんだ?これなら魔央様呼びの方が何ぼかマシだったわ…
「娘が無事受け入れられたようで良かったよ。私としては有無を言わさず追い返すだろうと思っていたのだがね」
そうしようと思ったんですが、全部裏目に出たんです。
「なんにせよ。君と娘が決めた事に私が口を挟むことはない。好きにしてくれ」
ええ…そこは父親として激おこして連れ帰ってくれませんか?可愛い娘ですよね?
「…少々みっともない所を見せてしまいましたね。まさかこんなに早く来られるとは思っていなかったので」
時間は今12時半。北条で当主やってるんだから、時間ギリギリかちょっと遅れてくるくらいの大物感出してくれよ!30分前行動なんて下っ端の動き方だよ!!
「北条としては君を待たせるような事があってはならないからな。それに娘の事で話があるというのだから、多少気が急いても仕方あるまい」
「…そうですか、そうですね。御覧の通り娘さんは心身ともに無事ですので。その点はご安心ください」
「そうか。それで主様というのは」
「これから一緒に暮らすことになるかもしれないですからね。家の中まで魔央様なんて呼ばれたら気が滅入るでしょう?そもそも本名じゃないですし。だから妥協点としてそう呼んでもらう事にしました」
「そうか」
「そうなんです」
やましい事など何一つしてませんので、どうか速やかにお引き取りをお願いします。
「まあいい。時間にはまだ早いが要件を済まそう。娘の件で話し合いたいという事だが、どういった内容かな」
よし、仕切り直しだ仕切り直し!シリアスモードだ!
「そうですね。娘さんの今後についてです。まずこれをはっきりさせときたいんですが…この子、北条紗夜をうちに送り込んで来たのは貴方の指示ですか?分かっていると思いますが…」
「こちらが虚言を弄する意味などない。紗夜がそちらに行ったのは、紗夜自身の意思だ。むしろ私は止めたぞ。だが言っても聞かなくてな。結果として北条にも利がある事だから好きにさせた」
「そうですか…ですが紗夜さんはまだ子供です、義務教育も終わっていない。親元を離れて暮らすのは心細いでしょうし、親としてもまだ放ってはおけないでしょう?独り立ちするには早いと思いませんか?こちらに来るとしても中学、いえ高校を卒業してからでも遅くはないでしょう」
思うよな?思うって言え!!
「確かに紗夜はまだ子供だが、北条に生まれた者として、幼き頃より北条はどうあるべきかを話して聞かせてきた。どこに出してもおかしくないよう、花嫁修業も怠っておらん。親としての贔屓目なしでも非常によくできた自慢の娘だ。不安があるとすれば、嫁ぎ先の相手がどのような人物かくらいだったが…まあそれも問題あるまい」
こ…この頭戦国時代がぁぁああ!!!
「いやいやいや…落ち着いて考えてくださいよ。紗夜ちゃんが居るのは貴方方と敵対した人物のお膝元ですよ?不安でしょう?それに…あの決闘で貴方は、弟と息子を失ったでしょう。僕の手で。そのような人物の元に可愛い娘さんを預けると?」
「私とて、あの決闘に思う所がないわけではない。なぜ大道寺満に直接確認をしなかったのか、とな。万魔に直接警告されたにも関わらず、私は君をどこかで軽く見ていた。それがあの結果だ。悔やむというなら、恨むというならそれは己自身の見識の甘さと不甲斐なさをだ」
人間出来すぎじゃない?聖人かな?
「わざわざ娘を戻す為に私と話をしたいと言ったのだろう?本来ならそんな必要はない。有無を言わさず突き返せば良いだけの話だ。娘も君からはっきりと言われれば頷く他あるまい。それをせずに本人の意思を尊重してくれるのだから、普段の君ならある程度の信頼は出来ると思えたよ」
ぬぅ…道理を説いても駄目、情に訴えるのも駄目、ならば最早打つ手は一つか…
「一つ言っておくが。仮に君が、真皇を倒す代わりに娘を北条で引き取れと言ったとしても、断る。真皇兵原羅将門は、我ら北条が自らの意思で解放することを望み、だからこそこれまで守護職としてあり続けてきた。それはこれからも変わらないと私は信じている。それを娘を売って助けを請うたなどと思われるのは…許しがたい侮辱だ。それこそ命を擲ってでも訂正を求める位にはな。最も、君から進んで協力したいと言ってくれるなら話は別だ。喜んで北条は君に助けを求めよう」
…駄目だなこれは。俺程度では説得できん。相手にこれといった非がない以上、ごり押しも出来ないし。むしろこっちに非があるからな…俺はなんであんなことを言ってしまったのか…
「…分かりました。娘さんの気の済むまではお預かりしておきます。ま、すぐ飽きるか幻滅してそちらに戻るでしょう。しばらくは少し早い娘の反抗期と思って見守ってあげて下さい」
「それは要らぬ心配だな。君も娘と話して良く分かっていると思うが。そして紗夜、万魔央君が傍に居る事を認めてくれたのだ、意地を張る必要もないだろう、好きな時に家に帰ってきなさい。妻も、千代も心配していたぞ」
「親を嫌ってるわけじゃないんだから、そこそこ近いんだし気軽に帰りなよ。…帰ったら二度と戻ってくるなとか言わないからさ」
「…はい。それではお父様。近い内に一度戻ろうと思います。千代にもお陰で上手くいきましたとお礼を言わなければ」
「言っておきますけど、これ以上人が増えたら有無を言わさず追い返しますので」
特に千代とかいう奴はな!
「君からの話は以上かな?娘がそちらに世話になるのだから、色々と物入りでもあるだろうし、そちらは当然だが北条から用立てするが」
「いえ、とりあえず紗夜さんの転校手続きとか―――――――」
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