第51話 銭湯

【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


「良かったぁ。れーくん無事だったよ」


「無事で良かった」


「本当に良かったです。ですが…えぇ…」


《レナちゃんの常識的な反応に癒される俺はまともなはず》

《残り二人がもうポンコツ過ぎてやばい》

《いや、アリスちゃんはれーくんめっちゃ強いって言ってたから信じてただけだろ》

《めっちゃ強いって表現で思い浮かべる強さを超越する程強いんだよなぁ》

《あれを見て無事でよかっただけで済ませるメンタル強者二人、普段からレナちゃん苦労してそう》

《なんかもう万さんだけで禁忌領域まじで解放出来るんじゃね?》

《かわりに禁忌領域守護領の人たちは300年間全員奴隷ですがよろしいか?》

《むしろもっと吹っ掛けられてもおかしくないぞ。北条は実力分かってない状態であの内容だったからな》

《あれだけ力持ってて今まで何もしてないんだぞ?自分から動くとは思えんし、やれって言われたらお前がやれって言われて終わりそう》



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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―あれほどの、あれほどの攻撃を受けて無傷!無傷です!!さすがは万王様!!


―これで北条一門は残り一人、いえ、まだ生きている人はいますがそちらは戦力外でしょうし、実質一人ですね


―決闘もいよいよクライマックス!!果たしてどのような結果を万王様は選択されるのでしょうか!!それともここから奇跡の逆転があるのでしょうか!?目が離せません!!


『しかし、これだけやらかしたら後が大変じゃの』



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「最後は本命同士の一騎打ちか、北条の終焉を飾るにはお誂え向きだな。降参するかは…まぁ、今更聞くのも野暮な話か」


「…皆、北条の未来の為に散っていった。私に後事を託して。それを蔑ろにする事など、投げ出す事など、北条の当主…いや、一人の男として出来ん!貴様を倒す!それが皆にできる唯一の餞よ。北条の勝利、それがこの決闘の結末とする為に!!」


「良い気概だ。それじゃ最後の決着を付けようじゃないか。その前に…」


 1、2、…5か。パチンと指を鳴らす。ろくに動きもしない計5名、ダンジョンから退場して貰おう。


「貴様…何をした!!」


「そう怒鳴るな。戦えないやつらを放置してても邪魔なだけだろ。ダンジョン外に飛ばしただけだ。でもそうだな、勝敗条件がどちらかの全滅だからな。後で降参してないなんて言われたら面倒だし、始末した方が良かったか?」


「いや…それでいい。私とお前、この決闘で勝った方が、勝者だ」


「それじゃ始めようか。近接戦闘はサッパリなんだがな。最後だし付き合ってやるよ」


「結局、貴様の傲慢、いや自信か。陰らすことすら出来なかったな。…極光まで使った以上…出し惜しみは不要か」


 すらりと抜き放たれる太刀。光を反射して鈍く輝くその刀身。いや、刀身自体が輝いている。


「お前は言ったな。なぜ真皇を直接狙わないのかと。北条がそれを考えなかったと思うか?4度だ。今まで4度真皇を狙い、そして敗北した。故に我らは真皇平原羅将門を完全封鎖する道を選んだ。何時か必ず、真皇を倒す者が現れると信じて」


 正眼の構え。切っ先が俺を向く。


「この小鴉丸は、その4度の戦いの中で手に入れた刀だ。真皇が持っていた一本を、鍛えに鍛え、いずれ討つ為に研ぎ澄まし続けた刀だ。極光もそう。いずれ来る真皇討滅の為に…笑いたければ笑うが良い。真皇への牙を、何の関係もないお前に向けている我ら北条をな」


「滑稽といえば滑稽だが、この決闘はルール無用だからな。勝つために何でも使うのは当然で、この決闘の勝利にはそれだけの価値があった、それだけの事だろう。でもそうだな…」


 ごり押しで終わらそうと思ったんだが…丁度いい余興だろう。


「真皇の持っていた剣を、鍛えに鍛えて造り上げた討滅の刃か」


 刀で戦うなら、せめてそれっぽく見えなきゃダサすぎるな。チャンバラごっこくらいには見えなきゃ。


「時を刻み、自らに克つべし。帝魔・心技体トライフォース


 武器を扱うには怜悧な判断力が必要で、卓越した技術が必要で、十全に取り廻せる身体能力が必要で、心技体の三要素はそれぞれが密接に絡み合っている。それっぽい事を言っただけだが、誰が投げたボールだろうと、止まったボールならどんな運動音痴でも拾える。これはその為の魔法だ。


「俺も面白い刀を持っていてな。丁度いい、刀比べといこうじゃないか」


 マジッグバックから取り出すのは当然、宝刀・小烏丸。


「その刀…」


「似ているだろ?お前の持ってる刀とさ。偶然だと思うか?」


 適当にだらりと構える。しかしこれ、打ち負けたらくっそ笑えるんだが。門番の持ってた刀だから鈍らの可能性すらある。


「それじゃやろうか。最終決戦だ」



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【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


「いけー!れーくんそこだー!!」


「うおー!れーくん最強!れーくん最強!!」


「近接戦闘が苦手というのは、本人から聞きましたが…これで苦手?なら私は一体なんなのでしょうか…どうすれば…」


《天は二物を与えずって言った奴、ちょっと出て来い。ぶっ殺してやる》

《魔法がやばい、刀術もやばい、周りにいる女の子のレベルもやばい、自宅で引き籠り生活、一体何物与えてんだよ!!どうせもっと与えてんだろ!?》

《男に忖度するような奴はこのちゃんねるには要らねえんだよ!お前ら!万魔央をぶっころ…ぶっころがせ!!》

《アリスちゃんとナツキちゃんの言語野が崩壊してる件について》

《なんか目からハート出てない?気のせい?》

《もうナツキちゃんもれーくん呼びが定着しちゃったな。公私を弁えた出来る女は何処へ?》

《ナツキちゃんが出来る女だと何時から錯覚していた?》

《というかレナちゃん病んでない?大丈夫?さっきからブツブツ言ってるけど》

《レナちゃんがヤンデレなら、他の二人もヤンデレの可能性があるぞ。これをポンコツ感染の法則と呼ぶ》

《ポンコツがポンコツを呼ぶなら、ヤンデレもヤンデレを呼ぶというわけか》

《北条には是非とも勝っていただきたい!奇跡の百個くらい起きて逆転しねえかな》

《ミラーは北条の応援ばっかだな。本家はもう雑談枠と化してるが》

《決闘もそろそろクライマックス。果たして決着はどうなるのか》




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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―今日は驚いてばかりですね。もう10年分驚いたんじゃないかってくらい驚いてますね


―魔法の才能だけでも万魔様レベルなのに、刀術すらも一流以上ですか


『あやつは近接戦闘全般ダメダメじゃぞ。同年代なら下から数えた方が圧倒的に早い位にはの』


―あれでですか?北条の当主は間違いなく凄腕の手練れです。実際万生教でもアレだけの腕となると…


『大人と赤子で喧嘩をしたら、そこ知識や技術、体力なんかは関係せんじゃろ。何をやっても大人の圧勝じゃ。魔法でそれと似たような事をしているだけじゃの』


―一体どういった発想と才能があれば、それほどの常軌を逸した魔法が使えるのでしょうか。さすがは万王様です!!凡人である私には理解できません!!


『あれを理解できるものなど、この世界にはおらんじゃろ』



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「さて、そろそろ終いか?自分の全てを出し尽くせたか?」


 お互い無傷だが、こちらは息一つ乱していないのに比べ、北条当主は肩で息をしている程度には目に見えて差がついている。うーんこのクソゲー感。


「ここまで手も足も出ないとはな…自分の今までの研鑽を否定などしたくはないが、少々自信が無くなったよ」


「この強さは魔法で底上げしてるだけだから。打ち合う為にはこうするしかなかっただけだし。言ったろ、手加減が苦手だって」


「…その刀、小鴉丸とよく似ているが…なぜこうも打ち合える?これは真皇から手に入れた一振りだ。門外不出の神刀だ。たまさか手に入るようなものではない」


「そんなものが神刀ねぇ…こいつをどこで手に入れたかだけど、もう自分で答え言ってるじゃん。偶然手に入らないなら、入手方法なんて限られてるだろ」


「馬鹿な…ありえん!あり得るわけがない!!手に入れたというのか!?貴様一人で!真皇相手に!!」


「そこそこ強かったと思うよ。ちなみにこいつは初回討伐ドロップ品みたいなもんだな。二回目以降は手に入らなかったし」


「倒したと…いうのか…ありえん…ならば何故…真皇兵原羅将門は解放されていない!?」


「あー、やっぱ知らなかったのか。ま、俺も初めて倒した時に気付いたんだけど」


「どういうことだ?真皇を倒せば解放されるのではないのか!!ではなぜ…真皇兵原羅将門…!?羅将門…」


「お、気付いた?自分で気づいちゃった?まあここまで言われれば分かるか。そう、お前らが真皇って呼んでる奴って、羅将門の門番なんだよね。あれ倒すと羅将門が出てくるんだよ。流石に中に入るのは止めたけど」


「何故!?禁忌領域を解放する絶好のチャンスだろう!!」


「は?何で俺がそこまでしなくちゃいけないんだ?解放するのはお前らの役目だろうが。そもそも中に入ってダンジョンボスを倒さなきゃ出られないとかだったらどうするんだよ」


「…ならば、我々になぜ…」


「言わなかったのかって?勝手に禁忌領域に入ってるのがバレたら五月蠅そうだったからってのと、お前らを助ける義理なんて欠片もなかったから。後は放っとけば勝手に見つけて調べるだろうなって思ってたし」


「…そのような報告は受けておらん」


「ふーん。大方、普段から真皇が居る辺りは避けて行動してるんだろ?あいつ門番だから近づかない限り動かないし。周りは真皇兵も多いからな。数百年動かないって実績があるんだ。警戒心なんてあってないようなもんだろ。倒す用でもなけりゃ、安全マージン十分取って、普段は放置しててもおかしくないわな」


「確かに、真皇のいる中心エリアは避けて行動しているが…」


「ま、そういうわけで、お前らの怠慢を俺のせいにするなよ。少なくとも数回は確認するチャンスがあって、それ全部不意にしたのはお前らなんだから」


 小烏丸をマジックバッグにしまう。もうこれは必要ないな。


「ああそうだ。これを視ている他の領域守護ども、自分たちが無能だからって俺を頼ろうとするなよ。でもそうだな…国営放送で、素っ裸で一族全員三回回ってワンと鳴いてから腹を見せて懇願しろ。そうしたら話だけは聞いてやるよ」


 ここまで言っておけば面倒くさい奴等は絡んで来ないだろ。むしろ絡んできた時が楽しみでもあるが。いや、やっぱ面倒だから絡んでくるな。


「ま、全てが悪い方に噛み合ったって事だな。で、どうする?これまでの戦いで北条の本気も視てる奴らには伝わったと思うんだが。俺が言っといてなんだが、少なくとも酒色に耽る能無しみたいな印象は払拭出来たと思うぞ。別の意味で間抜けは露呈したと思うが。まだ続けるならもうサクッと終わらせるぞ。どうする?ここであんたが死んだ場合、頭を失った北条が、羅将門の存在を知った奴らの今後を誰が面倒見るかは知らないけどな」

「もういいか?考える時間は十分に与えた。はぁ…じゃ、これでさよならだな。あの世で北条の末路を見届けろ」


「ッ……この決闘、私の負けだ…北条の敗北を宣言する」

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