第50話 成果

 そこからの攻防は一瞬。極太の炎柱に向かい一筋の流星となって特攻する北条勢。冷ややかな眼差しでそれを見る万魔央。北条勢が炎柱に飲まれ燃え尽きた―――刹那、一人だけ炎柱を突き破って現れる。目を見開く万魔央、突破した一人はそのまま万魔央へと肉薄し――――――


〘極光〙


  万魔央を中心に、極大の光の柱が立ち昇った。



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 …これで終いか。光の柱の中、独りごちる。確かに中々の威力だが、それだけだったな。炎柱を突破したのは見事と言えば見事だが、後が続かなきゃ意味がない。もう少し捻りがあると思ったんだがなぁ。はあ…つまらん。もう北条の当主をさっさと始末して終わるか。


 光の柱がやがて収まっていき…あれ?ボロ雑巾のように打ち捨てられてた奴が一人足りないな?どこ行って…


 〘極光〙


 すぐ後ろから聞こえる呪文名。思わず振り向くと、そこには居なくなったであろう人物が、仮面を着けた状態で後ろに立っていた。超圧縮された光魔石の塊を持って。さっきの攻撃の正体はこれか…顔は仮面で見えないが。なぜか笑っている気がした。再度、俺を中心に極大の光の柱が立ち昇った。



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 極光。光魔石を極限まで圧縮して作られた極光魔石を核とした指向性爆弾を、魔力を直接注ぎ込んで起動、対象を消し飛ばす、本来は対真皇打倒の為に作られた使い捨ての魔法兵器である。起動後、即座に半径1Mを垂直に滅光が立ち昇る関係上、投擲等での運用は不可。最接近して使う必要がある以上、標的に近づけなければ意味がない上に、起動者は死ぬ。作ったは良いが使いどころが見つからなかった神風上等の欠陥特攻兵器である。



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 果たして極光一つで仕留めきれるか。それが最大の問題だった。我らが寄ってたかって、寝ている万に向けた1時間以上に及ぶ攻撃は、極光一つ分以上の威力は優にあったろう。にもかかわらず突破することは叶わなかった。一つでは不安が残る。だが二つ当てるだけの余裕はない。全員で掛かれば一人は突破できる。だが二人は無理だ。一人が密かに狙うにしても、人数が減っていれば流石に警戒されるだろう。万の意識外から狙う必要がある。モタモタしている暇はない。直ぐに決めなければ。


 …その時、後ろで動く気配がした。チラリと見ると、泰正様が仮面を取り出していた。道化師の仮面…確かに。万は戦闘開始時からずっと呆けていたこの三人を一切気にしていない。ならば泰正様が認識阻害で回り込んだとて気付きはしないだろう。ご丁寧にあちらは迎え撃つために周囲の炎柱を一纏めにしようとしている。回り込むだけならさほど難しくはない。


 光政に目線をやる。私と泰正様を見て何をやろうとしているかを即座に把握した。

この阿吽の呼吸は禁忌領域で長年共に戦い続けてきたが故。私の極光魔石を泰正様に渡す。震えながらもしっかりと受け取る泰正様。このような事がなければ、きっと兄上以上に立派な当主になっただろうに…さあ、やろう。始まりがお前達ならば、終わりもお前達で締めくくるがよかろう。



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【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《うおっ!眩しっ!!》

《画面真っ白で何も見えねえぞ!!》

《何が起こったんだ!?》

《北条が特攻してたからおそらく北条の何かしらの攻撃だろうけど…》


「うー、眩しかった…何の光だったんだろ」

「おそらく北条側の何らかの魔法なんでしょうが…」

「あんなの喰らって、れーくん無事?大丈夫?」

「大丈夫だと思うけど…」


《…光の柱が収まって来たな》

《あれ?何か一人突っ立ってね?》

《まじかよ…あんなの喰らってまだ立ってるとかまじ大魔王かよ》

《…?あれ?万さんの後ろに人影見えない?》

《光の屈折とかでそう見えてるだけじゃね?》

《ッッ!!!!》



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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―こ、これは!!北条一門の炎柱への特攻からの!!一人が突破して万王様へ肉薄した直後、極大の光の柱が天に向かって立ち昇り!!収まってきた所で再度、極大の光の柱が立ち昇りました!!!一体何が起こっているのでしょうか!!!


―おそらく北条側の乾坤一擲の攻撃なのでしょうが、詳しくは分かりませんね


『凄いの。帝級に近い威力が出ておったんじゃないか?しかもそれを2発続けて使うとは。北条の切り札なんじゃないかのぉ』


―北条の切り札ですか!?つまりは禁忌領域解放の為のジョーカーを切ったということですか?


『おそらくそうじゃな。ここで使うくらいなら真皇相手に使えと言いたい所じゃが…魔央が寝てるときに一度似たような物を使っておったが、それの強化版かの?あの時使った女子は気絶したままじゃし、それを今使うとなると…何かしら重大な欠陥があるんじゃろうな』


―北条の切り札を二連続でくらった万王様は無事なのでしょうか!?



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 極光が二条、天に向かって立ち昇るのを見届ける。昔より私をよく補佐してくれた弟の成孝、当主としての悩みや相談を親身になって聞いてくれた光政、そして何より…まさかあの状態から立ち直り、見事万に一矢報いるとは…流石私の息子、いや、北条の次期当主よ!!皆…大事な、大切な家族だった。北条を守る為に決死で挑み、そして見事に魔王を討ち果たしたのだ!!


 これで北条は救われるのか…否、今まで以上に、より精強に!より勇敢に!!必ず…必ずや真皇兵原羅将門を解放して見せる!!!お前たちの死が


「必死の特攻見事と言う他ないな。だけど犬死にだ。いや、流石にそれは失礼だな。自らを省みない献身的な自己犠牲、恐れ入ったよ。真に人を、未来を憂うのならば自らの命すら賭けられる。素晴らしい。ここまですればもう北条を穿った目で見るものもいないんじゃないかな」


 光の柱が消えた先、そこには無傷の万魔央が立っていた。



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 まさか二連発とは。しかも最後の締めがインテリ眼鏡、いや北条泰正とはな。他の二人と違って、自分から口を挟んできただけあって、あの時口を出してきたのは真に北条を思うが故、そして見事に立ち直って一矢報いたと。生きてりゃ将来は良い当主になったのかもな…さて、フィナーレだ。


「どうして…どうしてお前が生きている!!極光を、真皇を倒す為に作られた我らにとって虎の子である禁忌の魔法兵器を2発も喰らって!!直撃したはずだ!!なぜお前は無傷でいられるのだ!!」


「そんな物騒な兵器をなんで俺に使ってんだよ…馬鹿じゃねえの。頭北条かよ、北条だったわ。まあ確かに無傷と言えば無傷なんだが…おめでとう。先ほどの極光とやらで見事防御結界は破壊されたみたいだ。これでお前の攻撃が通るかもな。それとこれは単純な話だ。極光とやらを2発を喰らって俺が無事でいた理由」


俺が真皇より強いからに決まってるだろうが。

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