第49話 俺たちの戦い

 E級草原ダンジョン。足首までの丈の草が生い茂った、見渡す限り平坦な何ら特徴のないフィールドは、そこかしこに出現した天をも焦がす炎柱によってこの世の地獄と化していた。


「ふははははは!ほらほらどうした!避けなきゃ死ぬぞ!当たれば死ぬぞ!必死に踊って望んだ未来を掴み取れ!あははははは!」



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【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


「れーくん楽しそうだね」

「何か凄い事になってる」

「これが…帝級魔法、なのでしょうか?」


《もういいよ北条、お前らはよくやったよ…》

《お前らの熱意は伝わったよ》

《万さんは、なんでこれだけの力持ってて家に引き籠ってんだよ》

《むしろこれだけの力があるから引き籠ってんだよ》

《万さんがその辺ウロチョロしてるの想像してみ?みんな神経すり減らしてまともな生活出来ねぇよ》

《何が暴発のトリガーになるかわかんねえからな。自分の失態で街一つ消し飛んでみろ。お前は正気を保てるか?万さんが引き籠ってくれてるのは平和の為なんだよ!》

《急な万さん呼び草。お前らの呼び方は万魔央じゃなかったのか?俺は以前から万様って言ってたけどね》



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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―これが魔央様の帝級魔法ですか。何とも凄まじいですね


―一抱え程もある炎の柱が、ダンジョンを焦がすかのように無数に立ち昇ってます。それらが縦横無尽に動き回り、衝突して更に太い炎の柱になり、また離散して…まさに焦熱地獄といった在り様でしょうか


『手加減はしておるようじゃし、運が良ければ死にはせんじゃろ。北条のお手並み拝見じゃの』


―手加減、ですか?とてもそうは見えませんが


『必死に避けとる北条は気付かんだろうがの。よう見てみい、戦闘不能で案山子になっとる奴らを炎柱が避けとるじゃろ。少なくとも目に見える範囲の炎柱をある程度操作しとる』


―はぁ…そこまでされる余裕があるとは。流石は魔央様。万魔様の後継者…いえ、最早後継者ではありえません。万魔様の隣に立つ唯一の王様。万王まおう様とでもお呼びするべきでしょうか!!



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 もういやだよぉ…なんでこんな目に遭ってるのぉ…ここまでされるほど、私は酷い事をしたの?…したんだろうな…だからこんな目に遭っている…私はきっと、神の逆鱗に触れたんだ…お家に帰りたい…結婚したかった…お父さん、お母さん…教師になんてなるんじゃなかった…もういっそ、ひと思いに殺してよぉ…


 私は…一体何に手を出してしまったのだ…あれは一体何なのだ…なぜあんな奴が存在している…あらゆる攻撃を跳ね返し、嗤いながら我らを蹂躙する。今この場に顕現している地獄絵図。奴の姿、あれこそが…魔王だ。私は…取り返しのつかない事をしてしまった。己の欲望のみを優先し、それを悪い事だとも思わず、そしてその結果がこれか。自分のみならず北条全てを巻き込んで…父上の、奴の言う通りだ。私など、生まれて来なければよかったのだ…


 炎柱が傍を通り過ぎる。先ほどからずっとこうだ。直撃すると思った矢先、軌道が逸れる。この炎柱は明らかに操作されている。しているのは当然万魔央だろう。何時でも殺せる余裕か、それとも先の件の意趣返しか。おそらくその両方か。何時でも殺せるから今は殺さないだけ。奴の気まぐれですぐにでも私は殺される。なるほど…止めるべき所で止めず、ただ傍観していた奴にはお似合いの仕打ちというわけか。



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 踊れ踊れ。死に物狂いで踊り続けろ!せっかく帝級を使ったんだ。必死になって、決死になって一矢報いてみせろよ。現状戦闘不能な奴らはりあえず避けとくけど、盾にする素ぶりの一つも見せたら直撃させてやる。おっと?一人直撃食らったな。まあこの状況で避け続けるのは大変だろう。避け続けてもいずれは食らう。時間が経つほど追いつめられる。そうなる前に状況を打開しなきゃいけないわけだが…お手並み拝見だな。


 

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 ぬぅ…銀次郎がやられたか。こちらは後6人。このままいけば何も出来ずに終わるだろう。後を託す泰隆様には最後まで残ってもらわねばならん。ならばもう一刻の猶予もなし。今切り札を持つのは泰隆様、成孝様、儂の三人のみ。本来は真皇対策に用いるはずだった物だが…なんとも本末転倒な事よ。使うべき者に使わず、こんな所で使うとは。人生とは儘ならぬ。だがどれだけそしられようとも、北条の未来のために、この我儘は通させてもらう!!

 


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 ん?一ヶ所に集まろうとしてるのか?何する気…成程、面白い。サクッと潰しても良いんだが…それじゃ面白くないな。お前らのやり方を通させてやる分、難易度アップといこうか。さあ、意地を見せて見ろ。


 …ああそうか。大魔王様や傲慢王が上から目線で大仰に振る舞う理由はこれか。敵うべくもない雑多な存在が必死になって牙を剝くのが楽しくて嬉しいんだろうな。対等な者がいないからこそ、反抗する奴がいるのが嬉しいのだろう。まあ実際手を嚙まれたり窮地になれば手のひら引っ繰り返すんだが。さて、俺はどうなんだろうな。



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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―おっと!?何やら北条側で動きが!どうやら一ヶ所に集まろうとしていますね。何が狙いなのでしょうか


―この状況で一ヶ所に集まるのは、自殺行為だと思われますが


『逃げ続けてもいずれ炎柱に捉えられて脱落するだけ、ならば余力のあるうちに一点突破で攻撃を通すつもりじゃないかの』


―なるほど!つまり北条にはまだ万王様に一矢報いるだけの秘策があるというわけですね!!


―意外とすんなり合流できましたね。これは万さんも万魔様のおっしゃっていた事が分かった上での行動なんでしょうか


―さすがは万王様!やはり上に立つ者は違う!!格下相手を嬲り殺しにするのではなく、その全力を出させた上で捻り潰す選択を取られるとは!!まさに絶対王者!!


『お主は後で魔央に謝っておけよ』



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【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《北条何する気?》

《もしかして固まって突っ込むつもりじゃねえの?》

《仲間を犠牲にしての特攻か》

《お前ら万さんにそれやるくらいなら最初から禁忌領域に特攻しとけよ》

《それは言っちゃダメな奴だから》

《なんか炎柱太くなってない?》

《太くなってる、周囲の炎柱が合流してる》

《とはいえ後から後から新規の炎柱さんが参戦してきてるから、手をこまねいていたらジリ貧だぞ》

《相手の力を出し切らせた上で蹂躙する、これこそ正しい魔王像だぜ》

《おおおおお!!》

《おおおおおおお!!!》

《北条逝ったあああああああ!!!!》

《逝けえええええええ!!!》

《骨は拾ってやるぞ!!!跡形もなく燃え尽きるだろうけど》

《北条の戦いはこれからだ!!!》

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