第48話 おままごと
ひたすらに、ただひたすらに、斬り、突き、叩き、殴り、撃ち、貫き、穿ち、燃やし、凍らし続けた。あらゆる攻撃を試した。全てが無駄だった。絶望が体を支配する。何をやっても通らない、何度やっても通じない。ベッドの上でこちらを見ていた小鳥は、何時の間にか万の腹の上に蹲って寝ていた。無力。これほどまでに無力を感じた事はない。
こんな…こんな筈ではなかった…これではまるで…あの時、万魔央の言った言葉が脳を過る。
『ちなみに僕なら一人で解放出来ますけどね』
何を。
『僕なら一人で真皇兵原羅将門を解放出来ますので、貴方達が全滅した後は任せて貰って結構です。それでも駄目ですか?』
つまり、こいつは我らを試していたという事か?あの時頷いていれば、我らが真皇兵原羅将門に攻め入っていれば、この力を振るっていたという事か?確かにこれなら真皇兵の攻撃など通さないだろう。一人でも、真皇の元にたどり着けるだろう…
…泰正が言っていた、大量の一級の光魔石。それはつまり、此奴は真皇の元に、既に辿り着いているのでは?つまり単騎で真皇とやり合い、真皇兵を蹴散らし、生きて生還できるだけの実力を兼ねそろえている――――
絶望がよぎる。敗北の未来がちらつく。だが…負けるわけには、諦めるわけには…いかない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
うーん。こっからどうすっかな。土下座してくれりゃ話は早いんだが。わざわざ逃げ道提示してやったんだから選んでくれねえかなぁ。
「謝罪は…しない」
え、まじで。全滅エンドをご所望か?
「謝罪した所で、その謝罪は信用できないとでも言われるのがオチだからな。そもそそもここで敗北を受け入れてしまえば、北条に未来などない」
なるほど…煽りまくった弊害か。人の上に立つ奴ってのは大変だな。責任感がないどこぞの政治屋連中に爪の赤を煎じて飲ませてやりたいくらいだわ。だけどなぁ…
「うーん、この状況でそんな反抗的な発言が出てくるって事は、絶望が足りないのかな?もしかして防御しか出来ないサンドバッグとか思ってる?」
あり得るな。防御特化で攻撃手段がないなら、この決闘は千日手。ならばひたすら戦い続ければ勝てなくとも負けはないと。
「言ったと思うんだけどな。雑魚相手に手加減出来ないって。見てなかった?俺の会見」
見てなかったのかもな。俺だったら嫌いな奴の会見なんて絶対見ないわ。声も聞きたくないもん。
「見てないなら仕方ないな。見せしめが必要か…誰でも良いけど」
なんかよさげな奴いないかな…ああ、あいつでいいや。屑の父親。お前が真っ当に育てなかったから、巡り巡ってこんなことになってんだよ。
「お前に決めた。精々藻掻け。死ぬなよ?」
標的に向けて、手のひらを広げ右手を突き出す。屑の父親の体を地水火風雷氷光闇八種の輪が全身を拘束する。必殺!八つ裂きフラフープってな!
「それじゃまず一人目だな」
手のひらを握り込む。八種の輪が体に食い込み締め付ける。
「ぎがぁぁああァァァアアアッッ!!!!」
屑の父親の絶叫。バラバラにはしないが、全身ズタボロにはなっただろ。同時に左右から斬撃。
「甘ぇよ」
攻撃中は防御が解かれるとでも?右手側のおっさんを圧縮風弾で吹っ飛ばし、左手側のおっさんにそのまま雷撃を叩きこむ。硬直するも崩れ落ちない。まじか…なら仕方ない、もう一発だ。硬直して動けないおっさん二号の鎧に触れる。
「時を刻め、王魔・雷王灰燼」
おっさんの体から眩い白光が迸り、体中から煙を出して崩れ落ちる。焦げ臭い匂いなど嗅ぎたくないので思い切り蹴り飛ばす。まあ運が良かったら生きてるだろ。この世界には回復魔法あるしな。
「考えも少しは変わったか?このまま戦っても無意味だと理解できたと思うんだが」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】
―あまりに一方的な展開になってしまいましたね。この光景を見て唖然としている人も多いのではないでしょうか。
―万さんは防御に特化しているのでは?と考えていたのですが…もしそうならば、北条側にも救いがあったのですが
―そうですね、お互いに矛盾を突き合わせる形での千日手。北条はそこに勝機を見出していたのかもしれません
―万魔様の後継者としての面目躍如といった所でしょうか。しかしこれ程とは…
―どうでしょうか万魔様、ここから北条に逆転の目はあると思われますか?
『まず無理じゃろ。御覧の有様じゃ、こちらの攻撃は通らず、あちらの攻撃は通る。それではどうしようもあるまい。せめて防御を引っぺがさねば話にならん』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
こうやって遊んでると戦略シミュレーションゲーム思い出すな。最後の最後。残り一国を一番端の城一つに閉じ込め、その城を囲う様に兵力数十万と名将達を配置。攻めて兵力を削ぎまくった上で降伏勧告。しかしそれに応じない。何をやっても、金を積んでも答えはノー。敵対心が100だからそうなるってのは分かってるんだが。現実だったらとっくに折れてるのにと思った事がある。
だが実際はどうだ。こいつらは折れてない。なぜ折れないのか。どこまで折れないのか。俄然興味が沸いてきた。この世界がゲームじゃないのは分かってるつもりなんだが。足掻いて藻掻け。手加減はしてやるが容赦はしてやらない。これじゃ本当にラスボスみたいだな。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
化物。そう例えるほかあるまい。この決闘に挑む前の我らのなんと愚かで滑稽な事よ。増長していたのは、自惚れていたのは、身の程知らずだったのは儂らの方だったわけか。禁忌領域に特攻した方がマシだったかの…過ぎた事を悔やんでも仕方あるまいて。
今更許しを請うて助かった所で、北条に先はなし。せめて希望の一つも見せねばこの先300年、生き延びる事は出来まい。此奴なら真皇兵原羅将門を解放出来るやもしれんが…北条に対して配慮をすることはあるまい。むしろ迫害して弾圧しかねん。せめて一太刀、此奴の目を見張らせる必要があるの。この化物に一矢報いる事が出来れば、北条の面目も立つじゃろう。
「御屋形様、後は頼みまする」
元より決死で挑んだこの決闘。死んだところで悔いなどないわ。
「光政…」
「お前等、決死で此奴の動きを止めよ!!満臣が墜ちたのは業腹だが、儂が残っているのは天啓よ!!」
「応ッ!魔王の防御さえ引っぺがせば、後は御屋形様にお任せすればよい!!覚悟を決めよ!ここが死に場所!見事に散って見せよ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんか急に生き生きとしてきたな。腹を括ったか。つか魔王って何だよ…
「戦意が潰えない限り、勝ち目はあると思っているのか?子供じゃあるまいし…月に向かって石を投げ続ければ、いつかは届くと思っているのか?」
「我らは元よりここを死に場所と定めた身、たとえ一人になろうとも、決して貴様なぞに屈しはせんわ!!」
「応よ!!我らの肩には関東守護領、いや日本全ての者の命運が懸かっているのだ。なれば届かずとも、石を投げ続けようぞ!そもそも届くかは、やってみなくば分かるまい!!」
「そうか、残念だ」
「お主が化物なのはようわかった。このままでは勝てん事もな。だが勝てないからと言って勝負を投げるような奴は、北条にはおらん!そんな生半可な覚悟で禁忌領域から人々を守る事など出来んわ!!」
「そこまでの気概があるなら真皇兵原に特攻すりゃ良かったじゃねえか」
「ふん、今の貴様を知っていれば、喜んでその選択を取ったろうよ。それとも今からそちらを選べばこの場を収めると?」
「まさか。俺の言葉を妄言と断じて決闘を選んだのはお前らの選択だ。俺は北条の尻拭いをする趣味はねえよ。良いだろう。お前たちはここで死ね」
「元よりそのつもり。行くぞ魔王」
「お前らが何を狙って何をしようと構わないが、俺がそれに付き合う義理はないが。それでも成し遂げたいなら…そうだな、試練の一つや二つ、越えて見せろ」
さあ見せろ。お前たちの意地を、矜持を。全てが終わったその後に、まだ立っていられたらの話だがな。
「時を刻み、自らに克つべし。帝魔・炎帝獄葬」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます