第46話 決闘?

【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《誰か万魔央が何をしてるのか教えてくれ》

《俺に聞くな、俺も意味が分からない》

《これって決闘だよな?生死賭けてるんだよな?》



「アリスは万さんが何をしているか分かりますか?」


「分かるよ。あれは二度寝だね」


「ニドネ?魔法か何かですか?」


「二度寝だよ二度寝。寝て起きた後にもう一度寝るやつ。無理に起こしたから眠かったんだよ」


「え!?今決闘中」


「よっぽど眠かったんだろうね。北条の人と話してた時に言ってたでしょ?二度寝しに帰っていいですかって。シャワー浴びてないし、浴びる場所もないし、断られたから今寝てるんじゃないかな」


《草》

《意味が分かんねぇwww》

《ここまでの舐めプが現実で拝めるとは》

《実況席も唖然としてるぞ》

《なお万魔様だけ平常運転》


「でも油断はしてないんじゃないかな。シマちゃんいるし」


「シマちゃん!凄く可愛い。ドローンカメラはシマちゃんの近くに寄って欲しい」


《おお、めっちゃ可愛くない?この子》

《シマエナガだな》

《シマエナガって北海道に居る雪の妖精とまで言われるあのシマエナガか!!》

《詳しい奴いて草》

《カメラ目線で首傾げてるのすこ》


「シマちゃんはれーくんのペットみたいな子だよ」


「そうなんですか。このままだと決闘に巻き込まれますけど大丈夫でしょうか」


「シマちゃんもね、すっごく強いんだよ!!」


「強くて可愛い。シマちゃん最強。それはそれとしてナデナデしたい」


「フワフワしてて、撫でると凄く気持ちいいんだよね~」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 当初の予定通り、全員が無事に合流できた。先に万魔央にダンジョンに入られたら魔法による罠の警戒をしなければならなかった為、懸念が一つ晴れた事になる。どちらが先に入るか聞いた時、お先にどうぞと言ってきたのは余裕の表れか、それとも我々を舐め切っているのか。どちらにせよその増上慢を叩き潰すときは近い。


 草原を速やかに、しかし警戒しつつ移動していく。真皇平原羅将門で鍛えられてきた我々にとっては、開けた草原を警戒しながら全力で移動するのは造作もない事。たまに見かけるEランクモンスターなど邪魔にすらならない。おそらく万魔央は拠点を構築して我々を迎え撃つ腹だろう。発見が遅れればそれだけ相手の脅威が増すことになる。たかが10分、されど10分。我々に先手を譲ったツケは存分に払わせなければ。

 移動開始して20分後、遠方に見慣れない物が見えた。足を止める。草原エリアに階段以外に目印になるようなものはない。万魔央はおそらくあそこにいるだろう。

速度を落とし、より慎重に行動する。ここからは罠の警戒もしなければいけない。相手は万魔の後継者、どのような悪辣な罠が張り巡らされているか分かったものではない。神経を張り巡らし近づき、そして――――――目の前の光景に絶句した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―おっと、北条一門が魔央様を発見したようですね。罠を警戒しててでしょうか。慎重に近づいていきます


―慎重になるのは当然ですが、万さんの行動も見ている私たちからすると少し可哀そうに思えてしまうのは、失礼でしょうか


『こ、こんなもの、部外者から見れば質の悪いこんとじゃ!笑って当然じゃろ。あっはっはっはっは!』


―実況をしている身としては問題でしょうが、申し訳ありません。私も笑うのを堪えています。


―これは、万さんがどんな常態か把握した時、北条の皆さんがどうなってしまうか心配ですね



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《くっそ笑えるんだがwwww》

《こんなん笑うしかないわwww》

《笑ってはいけない決闘24時。全員、アウト~!!》

《お、お腹が痛いwww誰か助けてくれwwww》

《北条一門が万魔央を目視した時の顔やばすぎるわwww》

《AA職人早すぎる。もうAA作られてる》

《あの場面も切り取られてコメント付きで貼られてる。仕事早すぎる》

《この決闘、映像化して販売してくれないか。絶対買うわ》



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ――――こいつは一体何をしているんだ?我らが万魔央を発見した時、あろうことか万魔央はベッドで寝ていた。一瞬頭が真っ白になった。きっと全員が同じだろう。

気が付いた瞬間、とにかく全力で身を投げ出す。予想だにしない光景で我らの意識に空白を産み、その隙に攻撃をしてくるとは…小賢しい真似を!!


 一瞬、されど致命的な一瞬。誰がやられた!?素早く見渡し被害の確認をする。泰正、満、教員、最も戦い慣れてない者達は無事、他も…無傷?どういうことだ?あの生まれた致命的な隙を放置するだと?ありえない…ありない!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《止めろ北条wwww俺たちを殺す気かwwwww》

《このままだとマジで笑い死ぬんだがwwww》

《あっけに取られた後に全力で地面にダイブww腹いてぇww》

《もう駄目だwww俺を殺してくれwww》

《アカデミー賞コメディ部門受賞決定!!》

《主演男優賞:北条一門、助演男優賞:万魔央(寝てるだけ)ですね》



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「万魔央!貴様一体どういうつもりだ!!」

「貴様ぁ!この決闘をなんだと思っている!!」

「我らに情けを掛けたつもりか!?どこまでも…どこまでもふざけた真似を!!」

「今すぐそのベッドから降りて来い!お望み通り永遠の眠りにつかせてくれるわ!」


 油断などしていたつもりは微塵もない。最大限に警戒をしていた。それゆえに、ありえない光景を見た事による思考停止、生まれた致命的な隙、そしてそれすら見逃されたという屈辱。武士として…これほどまでにコケにされた事などない。ここまで…

北条が生まれてより数百年、此処まで我らを愚弄し、貶めた存在はいないだろう。


 全員が口々に万を非難する。だが万は一向に起きてこない。反応を示さない。皆次第に落ち着きを取り戻し、辺りを沈黙が支配する。ふと気づく。ベッドの上に一羽の小鳥が止まっている。草原ダンジョンのモンスターではない。万が連れてきたモンスター、召喚獣?こちらを眺めて微動だにしない。ベッドの上でずっとこちらを見つめるのみ。脅威だとは思えない。そもそもこんな小さな小鳥、何の役に立つのか。やはりこいつは馬鹿にしている。


「いい加減に起きろ、万魔央。茶番は終わりだ。ここまで我々をコケにすればもう十分に気が晴れたろう」

「さっさと起きて武器を取れ。こんな茶番に儂らを付き合わせて楽しいか?」


 ―――反応がない。まさか…こいつは万の偽物?ならばどこかで我らの隙を!!


「こいつは万の偽物だ!全員周囲を警戒しろ!!」


 全員が八方に飛び散り、攻撃に備える。どこだ…どこから来る… 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《笑いすぎてッゥ咳しかッ出ないんだがッッッ》

《こいつは万の偽物だ!全員周囲を警戒しろ!!》

《やwwwめwwwろwww》

《でも反応速度凄いよ、流石歴戦の勇士。だから余計に笑えるんだが》

《あーやば、笑った笑った。もう駄目だわ。1年分笑った気がする》

《これがシュールな笑いの最高峰ってやつだな》

《全員真剣で必死だからなぁ。そこが最上質な笑いに繋がってる》

《なんせ生死不問だからなぁ。相手が寝てるだけなんて思わないわな》

《この決闘で負けても、こいつらコメディアンで食っていけるよ》

《北条が哀れすぎる。せめて決闘に勝利してくれなきゃ帳尻合わないわ》

《これ後から当人たちが見たらマジで憤死するだろうな。勝っても死ぬ、負けても死ぬって酷すぎない?》

《こいつらの顔見るたびにこの事思い出して笑う自信がある》

《禁忌領域守護領の奴らもこれ見てるんだろ?どんな気持ちで見てるんだろうな》

《腹抱えて笑ってるに決まってんだろwwww守るべきものにも笑われて、哀れすぎるわ》

《真剣なのは北条の決闘参加者のみ、か》



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 攻撃は来ない。…こいつはまさか…本当に…寝ているのか?これが決闘だと、生死を賭けた決闘だと分かっているのか?この決闘に我らがどれだけの物を掛けていると…どれだけの想いで挑んでいると…それを貴様は…貴様はァァァ!!!!


「万…万魔央…ヨロズァァァアアアア!!!!!」


 魂からの叫び。血の一滴までも振り絞るが如き絶叫。それを放ったのは―――北条泰正。今まで抱え込んでいたものが、抑え込んでいたものが、決壊したのだろう。腰に佩いていた刀を抜き放ち、叫びながら万へと駆け奔る。防御など微塵も考えていない、全ての力をその一振りに籠めた全身全霊、魂身の一振り。


「おおぉぉァァアアアアア!!!チイェエエエエストォォオオオオッッッ!!!!」


 真皇とてあの一撃をくらえば只ではすむまい。そう思える程の一撃を、まさか泰正が繰り出すとは。この場、この時でしか起こりえない奇跡かもしれぬ。しかしその一刀がまさに今振るわれている。いかに防御しようとも、あれは防げぬ。それほどまでに鬼気迫り、怨嗟に包まれた渾身の、大上段からの一刀が万に振り下ろされ――――


 澄んだ音色と共に、刀身が砕け散った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る