第44話 決闘10分前~

【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―さあ、大変な事になってまいりました!場内は騒然としております!!決闘開始時刻まであと10分を切っていますが、一向に万魔央様が姿を現しません!!


『あやつの事じゃ、寝とるんじゃないか?』


―決闘があるのにですか!?何という余裕!さすが万魔様の後継者です!!ですが、このまま現れなければ魔央様の不戦敗となってしまいます!


―私が思うに、巌流島の決闘を模しているのではないでしょうか?わざと時間ギリギリに登場する事で、相手の動揺を誘う戦法なのでは?


―なるほど確かに!今回の決闘は1vs12です。少しでも状況を有利にしようという深慮遠謀というわけですね!


―その辺の探索者なら通用したのでしょうが…相手は北条の精鋭です。残念ながらその程度では微塵も動揺しないでしょう


『単なる寝坊だと思うんじゃがのう』



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【万魔央vs北条一門決闘会場・北条サイド】


「現れませんな」


「怖気づいて尻尾を巻いて逃げたのでは?」


「決闘当日にようやく実感したのではないか?いかに無謀な事をしでかしてしまったか、相手にする我らの恐ろしさをな」


「なんにせよ、あと10分で我らの不戦勝ですな」


「何を言っている。不戦敗などで終わらせるわけがないだろう。必ず決闘はする。奴が現れるまで何時までも待とう。そのようなうやむやな勝利で納得する者など、どこにもおらんわ」



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【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


「えー、今、万さんを迎えに行ったアリスから連絡がありました」

「魔央くん、寝てたらしい」


《馬鹿じゃねえのwwww》

《決闘当日に寝坊wwwありえねえwww》

《自分から吹っ掛けておいて、すっぽかそうとしてんじゃねえよwww》

《万魔様の予想、見事的中か。流石は師匠》


「顔を洗って、歯を磨いてから来るそうです」

「シャワーを浴びるのは流石にアリスが止めた」


《余裕過ぎない?大丈夫?これから12人相手にガチの決闘だよ?》

《シャワーとかww間に合わせる気0じゃねえか》

《つっても後10分ないぞ。間に合うのか?》

《ダンジョンセンターの近くに住んでるんだろ?走ればギリギリ間に合うんじゃね》

《これには北条も顔真っ赤ですわ》



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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―なんと!どうやら魔央様はご自宅で寝ていたようです。流石は万魔様、見事的中されました!


『じゃろうな。こんな時間に外出するとも思えんからの』


―しかしこれは流石に北条の皆さんも開いた口が塞がらないようですね


―遅滞戦法かと思いきや、まさかの寝坊とは…北条側からは遅刻したとしても決闘は行うとの連絡が来ておりますが。遅刻に何らかのペナルティは課されるでしょうね


『大丈夫じゃろ。10時までに来れば問題ないからの』


―その10時まで、あと2分を切ッッ!!!!な、なんだぁぁああ!!!??凄まじい轟音と共に空から何かが降って来たぁぁぁあああ!!


―粉塵でなにも見えません!!一体何が起こったのでしょうか!!場内は騒然としております!!


『本日の主役の登場じゃな』


―ようやく収まってきまし…な、なんと!!粉塵が晴れたその先に、万魔央様がご降臨されております!!姉のありす様を抱きかかえてのド派手な登場です!!!



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【万魔央vs北条一門決闘会場・アレナちゃんねる】


《は?おい今解説何て言った!!??》

《俺の聞き間違いじゃなければ、姉のアリス様って言ってたぞ!!》

《まじで!?幼馴染じゃなくて姉だったのか!?!?》

《うおおおおおおおお!!!アリスちゃん最強!!アリスちゃん最高!!》

《何が何だか分からんが、とにかく勝鬨を上げろおおおお!!!》

《俺はアリスちゃんを信じてたぞ!神はいたんだ!!》

《ガチ恋勢の復活か。死んだり生き返ったり忙しすぎだろ》



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「ふぅ、ギリギリ間に合ったな。シマちゃんありがと。あ、決闘終わるまでは俺と一緒に居てね」

「しま!!」

「それじゃあーちゃん、決闘してくるから」

「いってらっしゃい!気を付けてね」

「いやぁ、すいませんね。時間ギリギリになっちゃって。ま、遅刻はしてないから問題ないって事でお願いします」


「構わん。遅刻した所で問題ない。決闘は必ず受けてもらわねばならないからな」


「まじで!?じゃあ起きなくても良かったのか…二度寝しに帰っていいですか?それかシャワー浴びる時間あります?」


「…貴様!さっきから何だその態度は!!今日がどういう日かわかっているのか!?」


「五月蠅いな…寝起きにおっさんの怒鳴り声はウザいんだわ。お前誰よ」


「私は大道寺家当主、大道寺満臣だ!この私を知らんとは…」


「お前みたいなロートル知るわけねえだろ。つうか大道寺ってあの屑の父親か?お前な、もう少しまともな教育しろや。お前の頭がアッパラパーなせいで屑が問題起こしてこうなったんだぞ?少しは反省しろよ。鳥以下の脳みそしかない奴には無理かもしれないが」


「ッ貴様ぁ!!」


「つうかさ。俺と北条当主の話に割り込んでんじゃねえよ。お前は当主より偉いのか?万魔の後継者より立場が上なのか?はぁ…おい、お前らは一体領内でどういう教育してるんだよ。躾って知ってるか?犬でも教えたらトイレで用を足すぞ?発情期の猿しか北条にはいないのか?」


「…満臣、下がっていろ」


「ハッ、失礼いたしました」


「全く…ゴミが人様に迷惑かけるなよ。それじゃさっさと決闘するか。とっとこ終わらせて二度寝しなきゃな」


―えー、魔央様。恐縮ですが、皆さん揃いましたので、ルール説明と両サイドの同意を取りたいと思いますので、もうしばらくお待ちください。


「そうなの?じゃお願いします」



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【万魔央vs北条一門決闘会場・実況解説席】


―それでは、両陣営揃いましたので、これより万魔央と北条一門による決闘を行いたいと思います。司会進行役を務めますのは関東探索者養成高等学校校長・佐々木洋子と


―私、魔央様のクラスメイトである矢車風音がお送りいたします。なお実況解説には天国の間より万魔様がリモート出演して下さっています


『万魔じゃ、よろしく頼むぞ』


―それではまず、決闘のルール確認です。決闘者は万魔央様vs北条一門から12人の変則決闘です。生死は不問。使用装備、アイテム等、全て制限なしのバーリトゥードゥ。決着はどちらかが全滅するまでとなります。ここまでで異論はあるでしょうか?


「問題ない」

「ないね」


―それでは続いて勝者への報酬の確認です。魔央様が勝利した際は、北条がこれより300年間、無償で禁忌領域が解放されるまで守護し続ける。北条が勝った場合は、万魔様と魔央様が北条からの要求をすべて飲む。こちらも異論はないでしょうか。


「…問題ない」

「ないよ」


―それでは双方、この決闘に異論はなく、勝敗が決した暁には定められた事を粛々と履行することを宣言していただきます。証人は、今この配信を視ている全ての国民、現時点での視聴者数は一千万人を超えております。職場や、家族友人で集まって見ている方達も多いでしょう。全ての日本人が視ているといっても過言ではありません。


―それでは神誓に移ります。ご存じの方もいらっしゃると思います。国の重大事にのみ用いられる神霊誓約書。誓約締結後の不履行は、即神罰が下される霊験あらたかな誓約書です。今回なんと!国生みの神の末裔たる我が国の象徴、鎮守の巫女姫・守城凪かみしろなぎ様より直接下賜していただきました。両者にはこれに神誓して頂きます。よろしいでしょうか?証人は今、この配信を視聴している方々、一千万人です。


「問題ない」

「おっけー」


―では、魔央様から神誓をお願いいたします。


「万魔の後継者・万魔央が神誓する。この決闘で敗れた暁には、俺の生死を問わず、万魔及び万魔の後継者・万魔央が北条からのあらゆる要求を承諾し、実現に尽力する事を誓う」

『うむ。わしもそこの万魔央が負けた暁には、北条からのあらゆる要求を承諾し、実現に尽力する事を誓おう』


―有難うございます。北条家当主様は何か異論はございましたでしょうか?


「問題ない」


―それでは次に、北条家当主、北条泰隆様、神誓をお願いいたします。


「北条家当主、北条泰隆が神誓する。この決闘で敗れた暁には、我ら北条一門、この時より300年間、禁忌領域真皇兵原羅将門が解放される時まで、全てをなげうってでも守護を全うすることを誓う」


―有難うございます。魔央様は何か異論はございましたでしょうか?


「その北条一門っていうのは、この騒動。ダンジョン実習が始まる直前まで北条と関わりのあった全員という認識で良いな?」


「…どういう意味だ?」


「この騒動で逃げ出した奴もいるかと思ってな。体よく逃げ出して御咎めなしなんて都合の良い事は許されない。そうだな…北条領に籍を置いている奴らでいいか。多少の取りこぼしは、こちらで探して対処しよう」


「何の力もない民まで対象にするつもりか?」


「特別待遇で恩恵を受けてるのは、お前ら戦う力を持ってる奴だけか?違うだろう。そもそもそいつらが居なきゃ食事はどうする?武具の手入れは?インフラ整備は?戦争ってのは武人だけでやるもんじゃない、それを支える農工商があってこそ初めて可能なんだ。全部まとめて北条一門なんだよ」


「……」


「条件的にはお前ら凄く得してるんだぞ?万魔が言いなりになれば天獄郷を犠牲にして真皇兵原羅将門を解放する事だって出来るだろう。万魔の身を案じなければ、死ぬまで両方維持する事も可能かもな。300年の悲願もあっという間に達成だ。なぁ、お前は北条が300年後に禁忌領域を解放していると信じられるか?300年経ってるのに出来てない奴らが出来ると思うのか?俺には出来るとは思えない。それにどの道お前らには勝つ以外の選択肢はないんだ。負けたらその時点で全てが終わる。この決闘はそういう類の決闘なんだよ」


「ほら、さっさと決めろ。北条が負けたら北条領に住んでる奴らは全員まとめて子々孫々、300年間奴隷でボランティアだ。当然各種特権や優遇措置は全て撤廃、全て自力で賄い、余剰分は全て国に返納しろ。大丈夫だって。勝てばいいんだよ勝てば。勝てると思ったから決闘受けたんだろ?それともなんだ?まだハンデが欲しいのか?国民全員が視てる中でよくもまぁ、どこまでも恥知らずな事だな」


「当主様!!我ら北条最精鋭、このような口だけの餓鬼に後れなどとりませぬ!」

「我ら北条領に住まう一同総て、想いは一つでございます!!」

「ご決断を!!」

「――――いいだろう」


―それではそれぞれの神誓を纏めますので、暫しお時間を頂戴いたします。

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