第43話 決闘前夜

 決闘前夜。この二週間、こちらから切り出さない限り、あーちゃん達は特に決闘の事に触れてこなかった。興味はあるんだろうが、すでに問題はあの三人の手から離れてしまっている為、考えないようにしているのだろう。レナちゃんはともかく、あーちゃんとなっちゃんは何も考えていないだけだと思うが。


 世間は決闘騒動一色になっている。俺と北条を擁護と非難する声で溢れている。正直、やりすぎたと思っている。北条当主と当事者達の公開土下座謝罪くらいで許してやればよかったなと思っている。北条と禁忌領域守護をあれだけボロクソに言っておいて何だが、俺は彼らに尊敬など欠片もないが頑張ってるなとは思っているのだ。


 禁忌領域、あそこは魔窟だ。探恊で管理してるダンジョンみたいにお行儀が良くない。出てくるモンスターは雑多で統一性がなく、階層がないから配置が滅茶苦茶だ。入った直後にA級モンスターとばったりなんて普通にある。


 そのくせ空から見た領域と内部の領域の広さが全く違う。つまり禁忌領域はオープンフィールド型のダンジョンなのだ。そして内部のモンスターをしっかり駆除していかないと徐々に広がっていく。広がった領域は解放しない限り取り戻すことは不可能。


 それを300年以上に渡って防いできたのだから素直に感心するほかない。ちなみに北条の奴らは真皇を倒せば解放されると思っているがそれは違う。あれはあくまで門番、中ボスにすぎない。なぜ羅将門という名がついているかあいつらは考えた事がないのだろうか。本命は羅将門というダンジョンなのである。


 門番だから動かない。当然だ。門を守るのが仕事なのだから。真皇という呼び名も本来は違うのだろうが、まあそれはいい。つまり北条は解放の前段階で躓いてるというわけだ。


 マジックバッグから一振りの刀を取り出す。宝刀・小烏丸。真皇を初めて倒した時に手に入れた刀である。その後何度か倒したが落とさなかったので、初回限定なのではないかと思っている。他の禁忌領域にもこれと似たレアアイテムがあると思うんだが、ダンジョンまで辿り着けたご褒美みたいなもんだろうし。俺が取ってしまうのも悪いだろう。アイテムコレクターじゃないしな。


 つまりこれが俺の手にあるという事は、北条が一度たりとも真皇を倒すことが出来ていない証明であり、真皇が居なかった時期があるという事であり、つまり真剣に禁忌領域に向き合い続けていれば、少なくとも異変に気付き、羅将門まで辿り着けたという事になる。羅将門を攻略しなければ解放できないと気付いた北条のモチベーションがどうなるかは知らないが、拡大阻止にだけ注力した結果、本来の目的を見失っているのは間違いない。


 何時現れるか分からない、真皇を倒せるだけの存在を待ち続けた後、またダンジョンを攻略する事を知るよりかは、早めに現実を知った方が良いという親切心もあって全軍玉砕を煽ったのだが。当然尻拭いはするつもりだった。北条が全滅してからしっかり解放する予定だったからこそ、真皇兵原の攻略をおねだりしたのだが。


 結果として、北条が全滅による解放より、決闘で力を示す事での生き残りを選んだのだからそれでいい。問題はこの結末をどうするかだ。俺がわざと負けるのは論外。引き分けでうやむやにするか?最後当主と一騎打ちして共倒れ、お互いの健闘を讃え合ってハッピーエンド。これが一番丸く収まる。だけどなんで俺が北条の為にそこまで譲歩しなければいけないのか。そもそも悪いのは向こうだしな。


 瞬殺するのはダメだな。視てる方もガッカリするし、わからん殺しは敗北の実感が薄い。嬲り殺しも絵面的にNGだろう。という事は俺が終始圧倒する中、北条が善戦するも力及ばず敗北。北条の健闘を讃えて、僕がこれだけ苦戦するほど強い北条さんでも、禁忌領域を解放するのは至難なのです。雑魚だの無能だと言ったことは訂正します。これからも日本の皆さんの為に領域守護頑張ってください!で〆るのがベターだな。


 …面倒くさいな。北条にそこまで配慮する必要があるか?したところで、その配慮が通じるのか?勘違いしてますます増長しそうなんだが…もういいや。最初に強く当たって、後はその場の流れで良いだろ。高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処すれば問題ない。ヨシッ!デイリークエスト消化しよ。

「……くん!…きて!れーくん起きて!!」


「…んだようっせぇな。誰だよ…こっちは寝てんだよ…ぁ?なんだあーちゃんか。何?どうしたの?俺寝てたんだけど」


「寝てる場合じゃないでしょ!今日は決闘する日でしょ!!後10分ないよ!?」


「……あ」


「もう!流石に今日は自分で起きる思ってたから、無理に起こさなかったのに!!」


「…すいませんでした」


「そんな事より急がないと!不戦敗で負けるなんて私嫌だよ?」


「場所はすぐそこでしょ?シマちゃんで行けば1分掛からないから。顔洗うのと歯磨きくらいは大丈夫でしょ」

 

 だるい体で起き上がる。頭がボケっとする。あぁ眠い…クソ北条が、俺の安眠邪魔しやがって…ただで済む思うなよ。

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