第40話 言いたい放題

「ご当主様。万魔様より至急の連絡が入っております。何があっても今すぐ出ろと仰っておりますが、いかがなされますか?」

「万魔が?…いいだろう。今すぐ出よう」

『泰隆か。急に電話してすまんの』


「構わない。一体何の用だ?例の件なら、もう万魔央には一切関わらないと約束したはずだが」


『お主、それを当事者に伝えたのか?お主の倅と、もう一人に』


「…いや、だが泰正には事前に余計な事はするなと釘を刺しておいたから大丈夫のはずだ。大道寺を含めた全当主、家臣全てには万魔央とその周辺には一切関与するなと伝えた。家族までには直接伝えてはおらんが」


『はぁ…これはお主の失態じゃぞ。言ったはずじゃ。金輪際関わらせるなと。北条がどうなっても知らんぞと』


「……なにかあったのか?」


『大ありじゃ馬鹿者!大道寺と言ったか?そこの倅が今日、性懲りもなく接触してきたそうじゃ』


「……馬鹿な」


『本人は謝罪をしたいと言っておったそうじゃがな。普通に考えれば当主からの謝罪を受けなんだのに、部下の謝罪など受けるわけがなかろう。しかもその謝罪先が最悪じゃ。魔央にならまだしも、寄りにもよってありすにしようとしおった。本人からすれば直接謝罪をという事なのじゃろうが…』


 何故だ!満臣みつおみは息子に何も言わなかったのか?


『なぜ、当事者に直接言わなんだ?事が大きくならぬよう、あやつが直接お主の所に乗り込もうとしたのを止めて、お主に直接忠告してやったんじゃがの。当主が下っ端に会うのは面子に関わるか?序列がどうこう口うるさく言う輩がおるか?万魔央など所詮は虎の威を借る狐と侮ったか?なあ泰隆よ…お主はわしの忠告をどう受け取ったのじゃ?教えてくれんかの?』


「……軽く受け取ったわけではない。家族に必ず伝えるよう厳命もした。内容が内容だけに口頭でだが。当事者に直接告げるのを怠ったのは…私の怠慢だ」


『ふん…まあよい、もう終わってしまった事じゃ。わしがお主に告げた内容、忘れたとは言わせんぞ?』


「…覚えている。一言一句な」


『そうか。ならばわしからは何も言うまい。後は本人と話せ。とりあえずそうじゃの。お主から学校に今すぐ電話を入れるんじゃな』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ノックの音がした。無常さんが扉を開ける。そこからヒョコっと事務員さんが顔を出し、部屋の中の様子を見てビクッとする。そりゃこれだけ校長室に人が居れば何事かって思うよね。


「どうしました?見ての通り現在少し立て込んでいまして」


「あの…嘘か本当か分からないのですが、北条家の当主を名乗る方からお電話が入っております…どうしましょうか」


「ありがとうございます。後はこちらで対処しますので。ご苦労様でした」


「い、いえ。それでは失礼します…」

 

「北条家の当主はフットワーク軽いですね。あ、スピーカーにしてもらっていいですか?みんなに聞こえた方がいいでしょ」


 校長先生が電話を机の中央に置く。


「もしもし、聞こえますか?どうもー、初めまして、万魔央です」


『北条家当主、北条泰隆だ。今回の件、


「ああ、良いんですよ貴方の謝罪なんて。ただこれだけ確認させてください。約束、守ってくれるんですよね?」 


『…その約束と言うのは、君に金輪際関わらないという事かな?であれば


「そういうの良いんで。腹の探り合いとか面倒くさいので。当然、北条が俺に謝罪する際の条件の事です」


「覚えてますよね?忘れちゃいましたか?そんなすぐ忘れるなんてボケちゃってます?もう一度万魔に連絡とりましょうか」


『その必要はない。覚えているとも。一言一句違わずな』


「そうですか。なら安心ですね。じゃ、お願いしますね。北条全軍で真皇兵原に特攻。なるべく早くお願いします。夏休みは用事あるんでそれまでに頼みますね。もう準備は出来てるんでしょう?」


『…それは出来かねる』


「え?何か言いました?聞こえなかったんでもう一度言ってもらっていいですか?」


『此度の件、心から謝罪する。今後一切君たちに北条が一切関わらない事を約束しよう。望むなら公の場において謝罪もするし宣言もする。だが…北条総出による禁忌領域への進軍は、出来かねる』


「それはつまり、万魔との約束を破るという事ですか?」


『違う!そうではない。だが我々全員が禁忌領域に突撃したとして、その後はどうする?禁忌領域は解放して終わりではない。万魔がそうであろう。再び現界しないよう、維持管理していく必要がある。その為にも北条が失われる様な事があってはならない』


「なるほど。つまり特権の上に胡坐を掻いて甘い蜜だけ吸い続けたいので、真皇兵原を攻略しないって事でいいですか?」


『…どう取ってもらっても構わない。だが我々北条の悲願は禁忌領域を解放する事だ。その為に心血を注いできた。それは今も変わらない』


「僕の見立てだと、北条の戦力全部つぎ込めば、1割程度は攻略出来る見込みあるんですよね。全滅と言っても全員死ぬわけじゃない。攻略に失敗してもそこまですれば真皇兵原内のモンスターも結構な数いなくなるでしょう。運よく生き残った奴がその後を引き継げばいい。ね?十分な勝算でしょう?」


『貴様は、真皇兵原羅将門の恐ろしさを知らないから、そんな見当違いな事が言えるのだ!』


「知ってますよ?真皇兵原で命を落とした者は、真皇の兵として蘇る。生前の力そのままにね。そして真皇兵は真皇が死なない限り不死身だ。殺しても時間経過で蘇える。だから貴方達は人死にが出ないように、慎重に慎重に立ち回って戦ってるんですよね?」


『そこまで分かっているのなら、貴様が言っていることが矛盾していることが分かるだろう!!』


「はぁ…何言ってるんですか?真皇兵原の攻略は簡単です。真皇を先に殺せばいいだけでしょう」


『真皇の元にたどり着くまでにどれだけの真皇兵がいると思っている!しかも敵は真皇兵だけではない!!』


「だから。北条の雑兵にそいつらの足止めをさせて、精鋭で真皇を打ち取ればいいだけでしょう?」


『それは机上の空論だ!それが出来るならとっくの昔に解放している!!貴様の言う通りなら9割の確率で失敗するのだ!!そして失敗したらどうなる!?それこそ手の

打ちようがなくなる!!』


「攻略に成功すればいいだけじゃないですか。1割も勝算あるんですよ?全員が死力を尽くせばその程度の劣勢、覆せますよ。300年特権に胡坐を掻いてそろそろ座り心地にも飽きてきたでしょう?たまには運動したらどうですか?」


『…なんと言われようと、兵は出せん。償いは別の形でさせてもらう』


「ちなみに僕なら一人で解放出来ますけどね」


『……なんだと?』


「僕なら一人で真皇兵原羅将門を解放出来ますので、貴方達が全滅した後は任せて貰って結構です。それでも駄目ですか?」


『実績のない輩のいう事など信用ならん。そもそも口で言うなら誰でも出来るわ』


「そうですか、残念です。でもどうしましょうねぇ。約束は平気で破って守らない。そんな輩と口約束したこちらにも落ち度はありますが、破った方に何のペナルティもないのはねぇ」


『…償いは、別の形でさせてもらうと


「まあ、北条にも一応使い道はありますからね。蓋をし続けるという使い道が。解放する気もないくせに。それを誇りだなんだと言い繕って、口だけなのはどっちなんですかね?滑稽で笑えますね」


「貴方の言う事は信用に値しない。貴方は信頼出来ない。ここで何かを取り付けたとしても、また屁理屈をこねて誤魔化すでしょう。恥はあっても誇りがない、プライドだけが300年積みあがっただけの、口だけの能無し。それが北条ですから」


「う~ん、どうしましょうかね…ちなみに聞きますけど、死を恐れているわけではないんですよね?」


『当たり前だ。我々は死を恐れない。だがそれは、死んでしまっては真皇兵原羅将門がより脅威となるからだ』


「貴方が言ったように口だけなら何とでも言えますからね…なら真皇兵原羅将門で死ななければ良いんですよね?ではこうしましょう。貴方と、ここにいる三人。それと僕で決闘しましょう」


『…どういうことだ』


「貴方達四人と僕一人で決闘ですよ。場所はそうですね。探学のE級ダンジョンでいいでしょう。そこで僕と決闘してもらいます」


『その決闘を受けたとして、私たちに何の得がある?』


「え?貴方達に得なんてありませんよ?しいて言えば約束を破った事が無かったことになる位ですかね。いえ、禁忌領域に特攻する必要がなくなるんですから十分なメリットですか。むしろ得がないのは僕ですね。貴方達と戦っても何も得る物がないですから」


『ならば何故。決闘などする必要はないだろう』


「その方が面白いからですが。あとは単純に北条がどれだけ弱いか全国に晒して、大恥かいてもらう為ですね。この決闘は配信します。事の経緯も公開します。その上で貴方達四人と僕一人で戦います。当然生死は不問です。勝敗はどちらかの全滅のみ」


「逃げてもいいですよ?どの道この件が公開されたら北条は終わりでしょう。禁忌領域を解放する気もなく、4対1の決闘すら避ける臆病者。そんな奴ら禁忌領域守護をしてきたなんてバレたら、北条のみならず他の禁忌領域守護も疑ってしまいますね?


 実は禁忌領域は大したことはなくて、私腹を肥やす為に、長年かけてそう思い込ませてきたんじゃないかって。そんな状況で、貴方は今まで通り、禁忌領域守護職であり続ける事が出来ると思いますか?なんの成果も示さずに、ただ黙って金だけ出し続けろと?バレた翌日には北条領全域で略奪や暴行が横行するんじゃないですかね。当然その時は僕も参加しますが」


「貴方たちに出来る事は、万魔の後継者である万魔央を倒し、その実力でもって証を打ち立てるしかないんですよ。万魔の後継者を倒せるだけの実力があっても、禁忌領域を解放するのは至難なのだと。我々は日本国民を欺いていないのだと。禁忌領域・真皇兵原羅将門から日本を守護出来るのは、北条のみ、北条だからこそであると」


「で、どうします?やります?やめます?どっちでもいいですよ。断る場合は、今すぐ遺書の用意をお勧めします。北条領全員分のね」

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