第41話 吐いた言葉は飲み込めない
『で、どうします?やります?やめます?どっちでもいいですよ。断る場合は、今すぐ遺書の用意をお勧めします。北条領全員分のね』
なぜだ。なぜこんなことになっている?此奴のいう事は全部張ったりだ。一人で真皇兵原羅将門を解放するだと?そんな事は出来ない。それはたとえ万魔であったとしてもだ。無限に蘇る真皇兵。真皇兵原羅将門にて散った、北条の武士の成れの果て。いずれも一騎当千の手練れだ。それに加えて無数のモンスター。それらを相手に一人でどうにかすると?出来るわけがない。
確かに真皇を倒せば事は解決するだろう。だがそれを我々が考えなかったと?試したとも。試した結果失敗した。1度ではない。永きに渡る北条の歴史において、4度試され、4度失敗した。その度に真皇兵原羅将門は脅威を増した。
出された結論は完全封鎖。これ以上脅威を増やさない為に、散っていった者達の死を無駄にしない為に。この判断は間違っていない。いずれ来るだろう、解放の為に。今は耐える時なのだ。
今回の一件。此奴の言う通り、公開されれば北条の面子は潰れるだろう。万魔との約束を破ったのは事実。そして禁忌領域を解放する為に挑みすらしない。北条の名は地に堕ち、そしてそれを止める術はない。
だが、力を示せばまだ這い上がる余地はある。相手は万魔ではない。その後継者だ。加えてこちらは4人。何より北条当主である私がいる。万魔央が大した力を持たぬならそれでいい。そこでこの話は終いだ。むしろここまで事を大きくした万魔へと非難は集中するだろう。決闘で力を示した上で我らが上回れば、それは此奴の言う通り、我らの力を示したことになる。万魔の名は、それほどに大きい。ならばとるべき選択肢は一つ――――
「良いだろう。決闘を受諾する」
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「そうですか。でもそれも嘘だと困るんですよね。貴方口約束なら幾ら破ってもいいと思っているでしょう?万魔との口約束破ってるんだから、誰との約束も破り放題ですもんねぇ」
「……貴様!!さっきからどこまで我らが当主を!!父上を愚弄すれば気が済むのだ!!」
『泰正!お前は黙っていろ!!』
「いいえ、黙りません!さっきから黙って聞いていれば北条を貶す発言の数々!!我ら先祖の、我々の誇りをどこまで愚弄するか!!」
「はぁ…だったらさ。さっさと解放して来いよ。そうすりゃ公衆の面前で土下座して謝ってやるよ。万魔と一緒にな。出来ないだろ?なら黙ってろよ。誇りがなくて口だけなのはお前らの方だっつうの」
「貴様の方こそ…一人で解放出来るなど大口を!!」
「ん?証拠の一つも見せればいいか?なら見せてやるよ。ほら」
マジックバックから証拠を取り出す。これが取れるのは真皇兵原羅将門だけだからな。十分だろ。
「……な…これは…ありえない…」
「でかいだろ?お前ら北条なら絶対に流さないよな?この大きさの光魔石はさ」
「ふざけるな…!万魔の伝手を使って汚い手を使って手に入れたのだろう!」
「まだ信じらんない?もっとあるよ?ほら、ほら、ほらほらほら」
ぽんぽこ取り出す光魔石。禁忌領域観光ツアーの成果は伊達じゃないのだ。
「あ…ああぁ……」
インテリ眼鏡はゴロゴロ転がる光魔石を見て、絶句してしまったようだ。
「これだけ数があれば少しは分かるか?お前らでこの大きさの光魔石を、しかも一人で集められるか?無理だろう?」
『なんだ、そこで一体何をしている!?』
「お前には関係ないよ。インテリ眼鏡を黙らせただけだ。で、どうなの?決闘の約束は破るの?破らないの?これも口約束だけどさ」
『決闘は受ける。元より我らにそれ以外の選択肢はない』
「信じられないけど、まあ仕方ないか。万魔の名前使って公表するから、お前らが嘘つこうがどうしようもないのは間違いないしな。ただ、冷静に考えたら、この決闘はフェアじゃなさすぎるんだよな。あまりに不利すぎる」
『こちらは私一人でも構わん』
「違う違う。お前らが弱すぎて話にならないって言ってんの。お前とそこの三人は参加確定、それは変わらない。でもそれだと弱すぎて配信映えしない。かといってゴミが増えても面倒なだけだしな…そうだな。後2PT、8人好きに選んで連れて来い。誰でもいいぞ。S級探索者でもいい、呼べるなら万魔でも良いぞ。でも出来るなら他の領域守護の奴ら、それも当主が良いな。特権に胡坐を掻いて座ってるような雑魚どもなら、始末しても影響はないだろ」
『…フゥ…万魔が後ろ盾だからといって…その後継者だからといって…舐めるのも大概にしろぉおお!!!!』
「そんなに怒るなよ。血圧上がって憤死するぞ?禁忌領域を解放出来ない雑魚の扱いなんてこんなもんだよ。扱いを不当だと思うなら、是非とも決闘で目にもの見せてくれ」
『……良いだろう。お前の望み通りにしてやる。後悔するなよ』
「後悔ならもうしてるよ。さっさとこの馬鹿二人、殺しとけばよかったってな。それじゃ決闘の詳細を決めようか。装備は自由、制限なし。後はそうだな…」
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「じゃ、そういう事で。時間を空けるとお前ら、北条領見捨てて逃げそうだからなぁ。決闘は2週間後の日曜日、良いな?」
『……構わん』
「とりあえず大々的に告知しないとな。配信ちゃんねるも作らないといけないし」
「ちゃんねるでしたら、私たちのちゃんねるを使いますか?万さんとも無関係ではありませんし」
「そう?じゃあそうしよっかな。登録者数なんていくら増えても良いだろうしさ。アレナちゃんねる独占配信、万魔の後継者vs北条軍団ってな。良いかな?当主さん」
『好きにしろ』
「そう?じゃそういう事で。ま、そっちはそっちで世間に頑張って言い訳しなよ。こっちはこっちで好きにやらせて貰うからさ」
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「ま、こんなとこかな」
北条当主との通話を切った後。ふぅ…どうでもいいおっさんと長々話すのは疲れるな。一生分話した気分になるわ。
「とりあえず、なるべく早く決闘の話を全国に広めないとな。2週間でいけると思う?」
「魔央様。その件に関してですが、我々にお任せ頂けないでしょうか?日本全国津々浦々、遍く全てに広げて御覧にいれましょう」
「まじで?ありがとう無常さん!じゃ、お願いするね。俺もやる事あったら協力する
から」
「ッお任せくださいっ!!」
「それじゃ帰ろっか。もうやる事ないしね」
席を立つ。三人娘もスクッと立ち上がる。今回の件は夕食の時にでも説明すればいいかな?レナちゃんは聞いてたけど、なっちゃんはずっとシマちゃん見てたし、あーちゃんはずっとしがみ付いてたからなぁ。話聞いてないでしょこの二人。
「それじゃ、残り二週間の命、悔いを残さないようにね」
椅子に座って微動だにしない三人に声を掛けて校長室を出る。校長先生も微動だにしなかったけど…話を聞くのを選んだのは本人だから問題ないな。
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