第39話 有言実行
「とりあえずそこの糞教師は置いといて、問題はお前らだよインテリ眼鏡と屑」
「それよりも一つ聞きたい。北条の当主に忠告したと先ほど言っていたが、一体何のことだ?」
「は?お前も聞いてないのか?金輪際俺に関わるなって忠告聞いてねえの?」
「…お前が当主様に何を言ったかは知らんが、私は余計なことはするなと言われている。故にお前に対しては当面の間は静観する事を決めていた」
「おいおいマジかよ…当事者に直接言わないなんてことあるのか?…まあいいや。連休中に万魔から俺に連絡があったんだよ。今回の騒動で息子が迷惑かけましたって、ついでに俺に直接会って謝罪したいって当主からの手紙が来たってな」
「それは…当主様自らが、万魔殿に手紙をしたためたという事は知っている」
「俺としてはさ。揉めたのはお前らとだし、事実を言っただけだけど、流石にちょっと言い過ぎたかなって。関係ない北条の当主に謝罪されて話が大きくなっても困るからさ。謝罪はいらないと伝えてって万魔に頼んだんだよね」
そうなのか?万魔も万魔央も問題を大きくしたくないという事か?ならば…
「でもさ。その時思ったんだわ。お前らあの時めっちゃ俺を睨んでたし。だから放っておいたらまたしつこく絡んでくるんじゃないかってな。実際そうだっただろ?」
満を見やる万。確かに、満が行動を起こしてしまった以上、言い逃れは出来ない。ならば落としどころは…
「だからさ。北条の当主にこう伝えるよう頼んだんだよ。謝罪をする気持ちが本当にあるなら、北条の総力を結集して禁忌領域に特攻してからお願いします。それが出来ないなら、金輪際俺達に接触してこないで下さい。ってね」
――――は?こいつは何を言ってるんだ?北条総出で禁忌領域に特攻?なんで謝罪と禁忌領域が関係する?そんな事に何の意味が?……意味が分からない。こいつが何を考えているのか理解できない。
「まあ意味が分からないよな。だけどこれは万魔が直接北条当主に伝えた事だからな。単なる口約束でしたでは済まされないし済まさない」
いくら万魔との約束だからと言って、そんな事出来るわけが…だからか。不可能事を条件に持ち出す事で、こちらの行動を縛る。そもそも万と関係者に接触しないだけならば、どんな条件だろうと大した問題ではない。
「だから、今回の事が起きて俺は思ったわけ。嗚呼、北条は本気で謝罪するつもりなんだって。心の底から悪いと思ってるから、北条総出で禁忌領域に特攻する準備をして、せめて最後にあーちゃんに一目会わせようとそこの屑を接触させてきたんだと」
そんなわけあるか!封鎖は成功しているが、攻めに転じるだけの余力などない!そんなバカな真似をしたら全てが水の泡ではないか!
「え?なにそんな驚いた顔してるの?だってそこの屑は北条の分家みたいなもんだろ?ああ、仮にお前やそいつが勘当なりされてても関係ないよ。この問題が起こるまで、お前らが北条の庇護下にいたのは間違いない事実だから。そしてその状態でお前らは俺に、万魔の後継者に、北条の名前を出して喧嘩売って来たからね。最後通告だと、不問にするといったにも関わらず。それでいてなお水に流そうとしたのに、だ」
確かに万は言っていた。ここで下がれば不問にすると。だがなぜ満は下がらなかったのか、私は止めなかったのか…万魔央を軽視していた、取るに足らないと思っていたからだ。
「そんな状況で、そこの屑があーちゃんに接触して来たんだ。当然、俺に謝罪する為に禁忌領域に全軍突撃する用意が出来たと解釈する。無常さん、万魔はちゃんと北条に連絡してくれたのかな?まあしてなくても関係ないんだけどさ」
「はい。万魔様より、北条の当主に確実に伝えたと伺っております」
「そう、なら問題ないね。分かってると思うけど。口約束だから反故にしたって問題ないとは考えない方が良いぞ。相手が一般人ならともかく、万魔だからな。そしてこの件は、お前らが知らなくても北条の当主は知っている。お前らが知らないのは北条の当主の失態だ」
満の顔が死人のように青い。私の顔は…どうなっているだろうか。
「俺たちに金輪際関わらない。その程度の事を守れない北条じゃないだろう?だってたったの4人だぜ?しかも学生、活動範囲はこの街だ。道端でばったり会っても無視すればいい。それだけで丸く収まるんだ。それを連休明けすぐ接触するなんて、偶々なわけがない。明確な意図がなければ出来ない行為だ」
満からしたら、謝罪は早い方が良いと思っただけなのだろうが、完全に裏目に出たという事か…当主様の謝罪が断られたにも関わらず、こちらが勝手に謝罪をしたのも不味い。当主を軽視していると捉えられかねん。
「というわけで、今ここで、北条の当主に伝える。貴方の謝罪を受け入れます。しっかり禁忌領域に全軍突撃してくださいってね」
「待て!待ってくれ!!謝罪する!!この通りだ!!私たちに出来ることなら何でもする!!だから許してくれ!!!」
「だからもう遅いんだよ。それで許されたのは、そこの屑があーちゃんに接触する前までなの。もうこれは決まった話なの。あ、そこの他人事の様な顔してボケッと話聞いてる糞教師、お前もこの件にガッツリ噛んでるからな?そもそもお前がさっさと止めてりゃ、ここまで大事になってなかったんだから。発端はそこの屑、元凶はお前、話を大きくしたのはインテリ眼鏡。三人仲良く責任負わなきゃな!」
何か言うべきなのだろう、だが何を言えばいいのか。この男は本気だ。本気で今言ったことを実行に移すだろう。どうにかしてこの男を…っ!!
瞬間、凄まじい殺気が俺に向けられる。もし席を立とうものなら即座に斬られるだろう鮮烈なイメージ。下手に動けない。ダメだ…打つ手がない…
「無常さん、万魔に連絡取れる?俺電話番号覚えてないんだよね」
「大丈夫です。今すぐ万魔様にお繋ぎいたします」
先ほどの殺気が嘘であったかのように、朗らかな声で受け答えする女。
「万魔様でございますか。鏡花でございます。…はい。ご推察の通り、ありす様に大道寺満が接触しました。…はい、魔央様にお繋ぎします」
「もしもし万魔ちゃん?俺俺俺だよ!…え、面白くない?だよねー。で、急なんだけどさ。北条の当主の電話番号教えてくんない?それかこの学校に今すぐ掛けるように言ってくれないかな?」
万魔にちゃん付けだと…万生教の女を見ても表情一つ変えていない。それ所か微笑まし気に万を見つめている。あの時、当主に、父親に言われた言葉が頭をよぎる。
『お前は万魔の後継者を甘く見すぎている』
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