第38話 スズメ目エナガ科エナガ属亜種

 シマちゃんが反応するくらいだから、滅茶苦茶やばい事になっていると思ったら全然そんな事なかった。安心したけど。


 シマちゃん。ペット枠兼癒し枠兼もふもふ枠の、10年来の相棒である。普段は傍であーちゃんを見守っていて、あーちゃんが滅茶苦茶ピンチになった時だけ反応するように頼んでたんだが。

 

 あーちゃんを半放置している理由はシマちゃんが傍にいるからで、そんなシマちゃんが反応したからどれだけヤバいかと思って急いできたのだが…あーちゃんの感情が振り切れて、それでシマちゃんが反応したっぽいな。可愛い我が子を泣かす奴は絶許みたいな。流石にこうなった以上、放置は悪手。穏便に済まそうと思ったらこれか。

北条め…もうどうなろうと知らんぞ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「はい。関係者全員が仲良く集まった所で、話し合いをしたいと思います」


 校長室に集まったのは、俺、あーちゃん、レナちゃん、なっちゃん、矢車さん、屑、インテリ眼鏡、糞教師、校長先生、後何でかしらんが無常さんがいる。


「無常さんがなんでいるかは知りませんが…万魔も無関係じゃないから良いのかな?校長先生はどうします?今なら知らぬ存ぜぬで通せますけど」


「万さんたちの話に口を挟むことはしませんが、この学校の責任者として事の成り行きを見守らせてもらいたいと思います」


「分かりました。自己紹介とかいらないよね。俺は知りたくなかったけど。ああ、無常さんだけいいかな?」


「畏まりました。万生教万魔神衛隊十傑衆筆頭、無常鏡花だ。この場には万魔様の全権代理として参加している。とはいえ私が口を挟むことはないから安心しろ」


 俺とあーちゃん以外の全員から息を飲む音が聞こえる。万魔の全権代理とか言われりゃそうもなるか。


「それじゃ今回の発端、ダンジョン実習で何があったか、から話しましょうか。ああ、そこの北条側の奴ら。屑、インテリ眼鏡、糞教師、お前ら三人だよ。俺が話している間は一切口を挟むな。挟んだ時点でこの楽しいお茶会は終わりだからな。お前らの言い分は俺の話が終わった後聞いてやるよ」

「――――以上が、ダンジョン実習であった事だとこちらは認識しています。ほら、お前ら何か言いたい事があるなら言え」


「言い方が偏見に満ちているのはひとまず置いておこう。そもそも、ここは探索者の養成を旨とする教育機関だ。探索者同士で問題が起きたとして、上位者が逐一口を出して仲裁するか?それでは赤子の御守りと変わらないだろう。探索者は何があろうと自己責任、他人に頼らなければ解決できないのであれば、探索者になるべきではない」


「だから放置したと?」


「無論、ダンジョンへ強引に連れていくようなそぶりがあれば、介入はするつもりでいた。だがあの場で起こったのはあくまで口論まで。問題はないと判断した」


「なるほどね。あれだけ拒絶したにも関わらず、それでもしつこく言い寄るような奴を放置するのが問題ないと。そこの糞教師も同じ考えで良いんだな?」


「私が最初に口論を止めなかったのは、今後、天月の様な少女が探索者になった場合、似たような輩に絶対に絡まれると思ったからだ。それに対する免疫や対応を身に着けさせる為、あえて静観した」


「なるほど。教育者の観点からあえて放置したと」


「ああそうだ。私はそれが間違った事だとは思っていない」


「まあ、ぶっちゃけた話、俺はその辺についてはあんたらに対して何とも思ってなかったんだよ。最初はね」


「なに?」


「意見が合わなくて口論になる事なんて普通でしょ?別に俺はそこの屑があーちゃんに言い寄ったから怒ってるわけでもないんだよね。恋愛なんて個人の裁量だし」


「なら一体お前は何を問題にしていると?」


「それを聞いてくる時点で舐め腐ってるんだが…凄く単純な話でね。話を聞かない、話が通じない、自分の事を押し付けるだけの屑を、そんな奴を野放しにして問題ないと考えているお前らの立場と存在そのものを問題視してるんだよ」


「言ってる意味が分かるか?静観すると言ってもな、限度があると思わないか?周りに誰もいないならともかく、お前は教師だろ?あーちゃん嫌がってたろ?怖がってたろ?レナちゃんが止めに入ってもこの屑は止まらなかったよな?お前のいう免疫やら対応は、すぐに身につくものなのか?身に付けなきゃいけないものなのか?それだけ探索者ってのは他人に無関心なのか?探恊内で揉め事が起きても、誰も見て見ぬ振りして助けてくれないのか?」


「多少の口論ならいざ知らず、今回の様な言い争いになれば職員は介入するでしょう。…失礼しました」


「いえいえ。そもそもの話、これがダンジョン内で起きた事なら問題なかったんだよね。話が通じないと分かった時点で、そこの屑を殺して終了だ。探索者は何があろうと自己責任、そうだろ?」


 視線をやった屑が息を飲み、インテリ眼鏡が何か言おうとしたが口を噤む。


「だが起こったのは探学内のダンジョン実習の説明中。そんな状況で揉め事を起こせるか?穏便に済まそうと思って会話しても話が通じないどころかますます増長する。そんな状況を静観し続けるのか?教育者が?」


 糞教師を見るもだんまり。


「トドメは貴様だ。北条の当主にしっかり忠告したはずなんだが、よりにもよってあーちゃんに直接接触しやがって…」


「わ、私は何も聞いていないぞ!ご当主様とも会ってはおらん!!」


「知るかよ。結果としてお前らは許容範囲を逸脱したってわけだ。関わるのが面倒だからって丸投げしたのが仇になったな。ま、めでたくお前ら三人は有罪だ。俺の中で今回の一連の発端はそこの屑だが、元凶は糞教師、お前だ」


「わ、私はそんなつもりではなかった!!単に良かれと思ってしたことが、お前の…万が入った事によってこじれてしまっただけだ…」


「そんな気がなくても、良かれと思ってした事でも、裏目に出る事なんてしょっちゅうあるだろ?そもそもあれだけ騒がしかったんだぞ?まともな教師ならさっさと介入して終わらせてるだろ。しかもお前、あーちゃんに対応丸投げして実習続けようとしてたろ」


「私は教師だ!そんな事はしない」


「いやしてたじゃん。俺見てたからね。お前がさっさと実習始めるぞって言ってる所。ま、全部自業自得だよ。上手くいった時だけ自分の手柄、失敗したら他人のせい、そんな理屈は通らねえよ」


 俺があの場に居なかったとしても、この話はあーちゃん達から聞いただろうし、その場合でもお前を元凶認定していただろう。というかそのまま放置してたらシマちゃん出て来てたんだろうな。

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