第17話 悲しいすれ違い

 なんだ…なんなんだこいつは…!万魔様の鉾であり、盾である私たちが一瞬で全滅だと…しかも、こいつは何と言った?…聞き間違いでなければ、帝魔…そう、確かに帝魔と言っていた。つまり、こいつは、万魔様と同じ、帝級魔法を――――

 やっぱ人間相手には帝級で充分だな。皇級は流石にオーバーキルだし。防具が上等そうだったから重ね使わなきゃ駄目かと思ったけど、問題なかったな。見た所誰も死んでないし良かった良かった。さて、さっさと万魔に会いに行こう。


「ま…待て…行かせん、行かせんぞ…万魔様は…わたしが…まも、る…」


 …おお、すげえな。帝級の直撃受けてまさか立ち上がるとは思わんかったわ。十傑衆の面目躍如だな。


「それ以上…すすむことは、ゆるさん…行きたいなら、私を斃してからいけ…」


『…駄犬と言ったのは訂正しよう。勘違いしているようだが、俺は万魔を殺しに来たわけではない。あくまで穏便に話をしに来ただけだ』


「ふ…っざけるな!!話し合いに…来た者が…深夜に天獄殿を強襲して…警護を蹴散らし…破壊し…ここまで来るわけないだろうがっ!!!」


 ―――――――あれ、俺なんかやっちゃいました?


『…深夜に訪問した事は謝罪しよう。何分急ぎだったものでな』


 …あかん、あかんぞこれ。完全に俺が悪者じゃん。よくよく考えてみれば、万魔が苦手だからって直接乗り込む必要はなかったのでは?というか、もうバレる前提で行動してたんだから、この恰好で用があると言ったらアポ待ちすっ飛ばして会えたのでは?なんなら街中にいた黒巫女さんに事情話せば取り次いでもらえたのでは……


『…受けたダメージは大きいだろう。死人に鞭打つ趣味は俺にはない。悪いようにはしない。大人しくしておけ』


 とにかく穏便に、穏便にだ。これ以上何かやらかすわけにはいかん。


「鏡花よ、そこまでにしておけ」


 最悪な空気の中、聞き覚えのある声が響く。


「れでぃー相手に深夜の訪問とは無礼千万じゃが、なんぞ急ぎの用があるんじゃろう?よい、話を聞いてやる」


「…しかし!もし万魔様に何かあれば…!」


「安心せい、こやつとは知り合いじゃ、のう?」


『…ふん、さっさと案内しろ』


 さすが万魔様!おれにできなかった事を平然とやってのける。そこにシビれる!あこがれるゥ!

「…で?何か言う事があるんじゃないかの?」


『…すいませんでした』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 天獄殿最頂、天国の間。万魔様が住んでる部屋である。天守閣丸々ぶち抜いた空間に、お風呂トイレキッチン等完備は当然として、日本庭園やプールすらも設置されていた。相変わらず色々とおかしい。


「久しいのぉ、何年ぶりじゃ?」


『…7、8年ぶりくらいじゃないか』


「いい加減その仮面を外せ。ここにはわし以外誰もおらん、誰も来させん。むさくるしくてかなわんわ」


『…分かった』


「…ふむ、少し見ん内に随分と男前になったのぉ」


「…そうか?自分じゃ良く分からん」


「ふふ、相変わらずじゃのう。で、なんと呼べばええんじゃ?最強仮面と呼べばええんかの?」


「…チッ、相変わらず趣味が悪い。覗き見してたんならさっさと出てくれば良かっただろ」


「まぁそういうでない。アレらにも稽古は必要じゃて。たまには刺激がなくばまんねり化してまうでの」


「…はぁ、死んだらどうすんだよ」


「そこはお主を信用しておるでの、実際問題なかったじゃろ」


「…ふん」


「で、わざわざわしに会いに来た要件はなんじゃ?大方の察しはつくがの」


「…あーちゃ…ありすが探索者になってさ。しかも配信者デビューして、さらには女の友達3人PTでダンジョン探索するって」


「わしもその配信は視たぞい。めんこくなっとったのぉ。それで心配になってわしの所にきたわけか」


「…まあ、ありすが配信に出た時点で、俺が表に出る事になるのは決まったようなもんだし、それなら近くで守った方が安心だし効率いいかなと」


「そうじゃの。あの面子が一緒に探索するのなら、今までのやり方じゃちときついかもしれんの」


「…そういうわけで、あんたの力を借りたくて来たんだけど」


「ふん、力を貸すことに否やはないが…いい加減わしの目をみて話せ!思う所があるのはお互い様じゃろ」


「…ああもう!あんたを見てると昔の事思い出して死にたくなるんだよ!!」


「なんじゃその言い方は!わしはあんたなんて名前ではないぞ!」


「はいはいすいませんでした万魔様。しっかり目を見てお話しさせて頂きますぅ」


「むがーっ!なんじゃその態度は!お主には二人きりの時は万魔と呼ぶなど言ったろうが!!」


「はぁ…呼び方なんて分かればどうでもいいじゃん」


「そうか、ならばお主をてんぷr」


「小雪ちゃんはいつ見ても可愛いなぁ。出会った時と同じ姿だからびっくりしちゃったよ」


「ふん、分かればよいのじゃ」

「ふむ、つまりお主はありすと同じ学校に入学したいと」


「そうそう。万…小雪の伝手で何とかならないかな?」


「出来る出来ないで言えば出来る。だがそれだけではないんじゃろ?」


「流石、良く分かってるね。同じ学校には行きたいけど授業とか面倒だから受けたくない。合法的にさぼりつつ在籍したいんだよね」


「相変わらずふざけた奴じゃのぉ。少しは勉強したらどうじゃ?」


「嫌だよ面倒くさい。人間はね、四則演算と読み書き出来ればそれだけで生きていけるの」


「ひねくれとるのぉ」


「そりゃ2度目の人生だからな。好きな事だけやって生きてもいいだろ」


「お主が良いならそれでいいがの」


「それでどうなん?やれそう?無理なら別の方法考えるけど」


「ちなみに別の方法を教えて貰ってもええか?」


「不埒な考えで近づきそうな奴等を皆殺しにして危険を排除する」


「街中から男が消えそうじゃの…いいじゃろ。何とかしてやる」


「流石小雪ちゃん!可愛いだけじゃなくて頼りになるね!」


「ふふん!褒めても何も出んぞ?ただお主にもある程度協力してもらう必要がある」


「任せて。あーちゃんの為なら何でもするよ。何する?協会内で小雪ちゃん軽んじてる奴等を殺す?それともどっか適当な禁忌領域解放する?」


「そんなことはせんでもえぇ。お主にしてもらう事は――――」

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