第16話 争いは同じレベルの者同士でしか発生しない

※※緊急速報※※※※緊急速報※※※※緊急速報※※※※緊急速報※※※※緊急速報


 本日深夜未明、S級探索者であり、日本探索者協会終身名誉理事長であらせられる万魔様が治める万魔天獄郷において、万魔様のおわす天獄殿が何者かに襲撃される事件が発生しました。


 なお万魔様にお怪我はなく『わしの事は心配せずともよい、みなもそう騒がず落ち着いて行動せよ』と仰せになっていたとの事。


 天獄郷への被害は確認されていませんが、天獄殿の一部が破壊されており、万魔様を直接狙ったテロとして、現場では厳戒態勢を敷き警戒に当たっています。


 一部関係者の話によりますと、侵入者は黒いローブを着た仮面の人物との事で、一カ月前のワンダラーエンカウント時に目撃された、公称最強仮面との関係性が取り沙汰されており、至急探索本部を設立し――――


急速報※※※※緊急速報※※※※緊急速報※※※※緊急速報※※※※緊急速報※※※


「……な…な…れーくん!?一体どこで何やってんのぉぉぉ!!!!!」


天月ありすの絶叫は幸いな事に、しっかりした防音壁が吸収してくれた為、周囲に漏れる事はなかった。 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 とにかく走る、ただひたすらに走る。一部ダンジョン化しているお陰で放浪者の道標が使えたのは幸運だった。お陰で迷うことなく最上階を目指せる。


「いたぞ!殺しても構わん!!」


「天獄殿に侵入した罪、死をもって償わせろ!!」


 後ろから雨あられと飛んでくる魔法の嵐を、闇の衣で無効化してひたすら突き進む。つうかこいつら、俺より天獄殿壊してんじゃね?俺を捕まえる為だからって魔法ぼこすか使いすぎだろ。


「あの力、あの仮面…まさか最強仮面か!?」


「!?なんであいつが天獄殿に!!」


「まさか…万魔様の命を狙って!!?」


「万魔様の命を狙うなど…!!もしや半島のゴミ屑どもの残党か!!」

「何としても殺せ!!生かして返すな!!!」


 やばいめっちゃ怒ってる。これもう話通じそうにないな。さっさと万魔に会って逃げないと。


「この先は通さん!大人しく死ね!!」


 通路を曲がった先、一人の狂信者が道を塞いでいた。万生教の中でも特に武力と忠誠に溢れ、万魔を直接守護することを許された女性のみが選ばれる名誉神職、万魔神衛隊。その実力は最低でもBランク探索者相当。その証である真っ黒な巫女服を着た女性が、俺に殺意MAXで斬りかかってくる。


 前門の虎、後門の狼。まさに絶体絶命のピンチ―――になるのが普通だろうけど。残念な事に俺は普通じゃなかった。接近戦がまともに出来ない俺にとって、一番面倒なのは関節技なり捕縛術で拘束を狙ってくる奴である。斬ったり突いたりしてくる奴は―――


「ッな!?」


 そのままスピードを緩めず目の前の女性に向けて突っ込む。鋭く正確に俺の頭に振り下ろされた刃はしかし、頭に触れる直前そのまま弾かれる。生まれた隙に風魔法をぶつけて床に叩きつけ、倒れ込んだ女性を粘着魔法で床に張り付け、俺はそのまま通りすぎる。


「ムガッ!?モガムガウガァァ!!」


 何やら喚いているが何を言ってるか分からん。すまんが後続の足止めを俺の代わりにしてくれ。

 あまりに追手が多すぎるので、天井吹っ飛ばして道を塞いでみたが大して効果なし。叩いても出てくる出てくる。モグラ叩きかよ。他にも道があるだろうからそちらから回り込んだり、おそらくダンジョンの転移機能使って、上階に転移してから降りて来てるな。あぁくそ面倒くさい。やっぱ帝級で建物ごと潰すべきだったな。雲霞の如く群がってくる狂信者どもを吹っ飛ばしたり拘束したりしながら進むこと暫し。急に抵抗がなくなった。


 あれだけ沸いてたのに一体どういう風の吹き回しだ?まだ人数に余裕はあるだろ。警戒しても仕方ないのでそのまま突き進み―――通路の終着点、そこには巨大な門が鎮座していた。あぁそういう事ね。量じゃどうにもならないから、逃げ道塞いで質量で勝負って事か。良いね、俺もそっちの方が手っ取り早くて好みだわ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「来たか」


扉を開けた先。中には真っ黒な巫女服を着た女性が10人、それぞれの獲物を構えて俺を待ち構えていた。


「へぇ、これが噂の最強仮面ってやつ?なんか強そうには見えないね」


「ここまで来れるのですから、実力に関して疑う余地はないかと」


「お兄ちゃん凄いね!お兄ちゃんでいいんだよね?」


「さて、呼び名は最強仮面でいいのかな?なんせ君の名前を誰も知らなくてね。ああ済まない。私の名前は無常鏡花。畏れ多くも万魔様を守る神衛隊の隊長職を賜っている」


「私の名前は一条茜だよ!これでも副隊長やってるんだ♪」


「私は仁礼澄香と申します。お見知りおきを」


「アタシの名前は


『うるさい黙れ、貴様らの自己紹介などどうでもいい』


「なんだ話せるんじゃん。声音は機械音声っぽいけど、口調からしてやっぱ男か」


「話せるなら、良ければお名前を伺っても?」


『名前などどうでもいい、好きに呼べ』


「それじゃ最強仮面って呼ぶね!それで最強仮面さんは、一体何をしにここに来たのかな?」 


『天獄殿に来たのなら、用があるのは一人だけだろう』


「…万魔様に、会いに来たと?」


『それ以外に、こんな場所に用があるのか?』


「万魔様はね、すっごく忙しいの!会いたいなら事前にアポイント取らないと!確か半年待ちだっけ?」


「正確には8カ月と25日です」


「だって!今からアポイント受け付けるから、9か月後にまた来てね!」


『…馬鹿か貴様は?ここまで来て素直に帰るわけがないだろう』


「でもでも、約束って大事だと思わない?お互いの信頼関係は約束を守る事で生まれると私は思うんだけどな」


『約束が順守され、履行されるのは…対等な関係であるからこそだ』


「貴方と私たちは対等ではない、と?」


『俺と万魔が対等ではないと言っているのだ』


「……へぇ。随分下手に出る割には、態度が高圧的なのはいただけないね」


『言葉遊びに付き合う気はない。俺が上で、万魔が下だ。さっさと万魔を呼んで来い。こっちも暇じゃないんだ』


「貴様ァ…口を慎め!!下郎の分際で万魔様を呼び捨て…しかも言うに事欠いて下だと!?」


「最強仮面さんよぉ…アンタ、死にたいのか?」


「殿内では余程好き勝手されたようですけど、私たちは万魔様の最後の砦、万魔様の名を戴く、万魔十傑衆です。余り舐めない方がよろしいかと」


『…はぁ。主を呼ぶ程度の仕事も出来ない駄犬を10匹。しかも放し飼いとは。躾の一つも出来んとはな。外見を取り繕うのに忙しすぎてボケでもしたか』


「きさまぁあああああ!!そんなに万魔様に会いたいなら会わせてやる!!!今すぐその首跳ね飛ばして、万魔様の前で自らの行いを懺悔させてやろう!!!」


『ふん、弱い犬ほど良く吠える。キャンキャン喚く暇があるならさっさとかかってこい。安心しろ、俺は動物愛護精神に溢れてるからな。躾はしても殺しはしない』


 こっちは一人なのに10人掛かりで襲ってくるとか酷くない?さすがに殺しはしないけど、一人ずつ相手にするのも面倒くさいし、纏めて潰して問題ないよな?これが戦隊モノの悪役の気持ちかぁ。どっちが悪役だよ。とりあえず死ね。


『時を刻み、自らに克つべし。帝魔・雷帝鏖殺』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る