第18話 そして始まる物語
4月。それは出会いの季節。まだ見ぬ誰かと。いつか見た誰かと。そして会いたかった誰かとの。
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「はぁ…」
ため息を付いたら、その分幸せが逃げていくと聞いた事があるけど。
「はぁ…」
すでに不幸のどん底なら、逆に幸せが寄ってきたりはしないだろうか。
「ありす、ため息ばかりつかないでください。今日は入学式ですよ?」
「いい加減元気出して、ありすらしくない」
「だってぇ…れーくんが帰ってこないんだもん…」
今日は探索者協会が運営する高等学校、探学の入学式である。そして入学する者を祝福するかのような日本晴れであった。しかし天月ありすの心は土砂降りだった。なんなら増水して氾濫していた。理由は明快、書置きを残して旅に出た双子の弟、天月隷人が帰ってこないからである。連絡を取ろうにも彼は連絡手段を持ち歩かない。ありすの電話番号を覚えてないから電話を掛けてこない。天獄郷をなぜか襲撃したのはニュースで知っていたが、その後の足取りが全く分からない。八方塞がりであった。
「ありすの弟さん、レイトさんでしたね。普段からしょっちゅう家を空けてるんでしょう?」
「そうだけど。そーなんだけどー!イベントある時は絶対見に来てくれてたの!!」
「わたし、見たことないけど」
「私もないですね」
「れーくんは隠れるのとっても上手いからね、誰にも見つからずに陰から私を見守ってくれてるの!」
「ありす、それストーカー」
「は?奈月ってば喧嘩売ってる?言い値で買うよ?むしろ押し売りしようか?」
「ほらほら二人とも落ち着いて。でもレイトさんに一度くらい会ってみたいですね。ありすを疑うわけではないですが、本当に実在の人物ですよね?」
「…イマジナリーフレンドでも、わたしはありすを見捨てない。友達」
「違うから。ちゃんと実在してるから!ただ出不精なくせにフラッといなくなる困った子なだけだから」
「連絡取れないの?」
「電話は人類の三大害悪発明の一つだ!って言い張って携帯してくれないんだよね」
「それは…なんというか、変わった人ですね」
「…疑問に思ったんだけど、学校どうしてるの?同じ中学にいなかったよね?」
「学校はね、人は四則演算と読み書きができれば生きていける、が人生訓らしくて行ってなかったよ」
「…中学行ってないの?」
「行ってないよ。というか小学校もろくに行ってないんじゃないかな」
「……中学までは義務教育」
「そのくらい知ってるけど」
「義務教育なのに…小学校中退?」
「そう言われたらそうかも。でも人生なんて人それぞれだし。立派に一人暮らししてるから問題ないよ」
「ありすの弟にすごく興味が湧いて来たんだけど」
「そう?機会があったら紹介しよっか!…でも帰ってこないしな…帰ってくるのかな…帰ってきてよ…うぅ…」
「これは重症」
「こんなありすは今まで見た事ないですね。流石に心配です」
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「ッ!君は!天月ありすくん!!」
「…」
「…誰?」
「あの、失礼ですがどちら様でしょうか?私たちはこれから入学式なのですが」
「!?貴様はあの時の!!…ふん、まあいい、貴様たちはさっさと会場へ行くと良い。ありすくんは私が責任をもって案内しよう、さぁ、ありすくん、こちらへ」
「失礼ですが。見ず知らずの方に友達を預けようとは思えません。ありすは私たちが連れていきますので」
「貴様はまた私の邪魔をするのか!中学の入学式の時もそうだった!!私とありすくんの運命の出会いを邪魔したばかりか、奇跡の再会をも邪魔するとは!!」
「中学の入学式……?あぁ、思い出しました。恥も外聞もなく入学式で受付中のアリスをしつこくナンパしていた方ですか」
「何を言う!貴様がいなければありすくんと私はすでに結ばれていたものを!貴様が邪魔をしたせいで…!」
「レナ、この人気持ち悪い。先生呼んでくる」
「そうですね、お願いします。警察にも通報して貰えますか?しつこく交際を迫るストーカーが現れて困っていると」
「分かった」
「なっ…くそっ!貴様ら、覚えてろよ!ありすくん、君を必ず悪魔どもの手から救い出して見せるからな!!」
「怖い…なんなのあの人」
「厄介な人に目を付けられてしまいましたね。私たちもですが、ありす、十分に注意してくださいね?」
「れーくん…れーくんどこ…」
「レナ、ありすが死んでる」
「重症ですねぇ」
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「ほらありす動いて、教室行くよ」
「結局元に戻りませんでしたね」
「このままじゃ生活に支障をきたす。困った」
「困りましたね。はやくレイトさんが帰ってきてくだされば良いのですけど」
「れーくん…れーくん…どこなの?…早く会いたいよぉ…どこにいるのぉ…」
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「ほらお前ら席につけ!入学初日のオリエンテーション始めるぞ!」
「と言いたいところだが…色々やる前に一つ、お前らに説明しなきゃいけない事がある」
「話くらいは聞いた事がある奴もいるだろう。超特特待生についてだ」
「超法規的措置特別待遇特待生。今回これに該当する生徒が一人、この学校、そしてこのクラスに配属する事となった」
「簡単に説明すると、超特特待生ってのは未来のS級だ。S級一人の推薦、及び推薦者以外のS級二人の承認によってのみ認められる、準S級探索者扱いの生徒だ」
「超特特待生においては、推薦及び承認したS級の責任において、重犯罪行為以外のあらゆる行為が全国の探学内で認められる」
「この場合の重犯罪行為とは恣意的な殺人、強姦だ」
「急にこんなことを言われて混乱するだろうが、この枠で受かった奴なんて今まで一人もいなかったからな、正直私も混乱している」
「この生徒の推薦者はS級探索者の万魔様、承認者はS級探索者の剣魔様、聖母様だ」
「みな、その事を踏まえた上でこの生徒に対応して欲しい。我々教師等より上の権限を持っている為、私としてもどう扱うかは思案中だが…推薦者の万魔様曰く、『下手にちょっかいを出さない限りは無害な奴だから安心せよ』との事だ。…待たせたな、入ってくれ」
教室のドアが開く。皆の視線がその人物に注がれる。なんら気負った風もなく、歩き、教壇の前で、止まる。
「皆さん初めまして。S級探索者・万魔の秘蔵っ子、
「あ…え…れ…れーくん!?」
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