第7話 転

 特に問題もなく、第3探索者協会に辿り着く。が…なんだこの人ゴミ…そこには予想外の光景が広がっていた。探協の外は溢れんばかりの人だかり。たまたま居合わせた探索者達が、警備員まがいの事をして協会の中に人を入れないように警備していた。


 何かしらのイベントもないのにこの人だかりは正直異常だ。いや…イベントなら今絶賛開催中か。押しかけている人達は誰もがスマホを見ている。つまりは例のレナちゃんねるを見て、野次馬根性でやってきたのだろう。さっさと中に入れろとか、早くレナちゃんを助けろなんて叫んでる馬鹿どももいるが、ワンダラーなんて都市伝説的な扱いだからな。知らない奴が多くて当然か。今回の件で多少は認識も改まるだろうけど。とりあえずレナちゃんはまだ死んでないみたいで良かった良かった。


 ごちゃごちゃしている野次馬をかき分けながら協会に近づく。押してんじゃねえよ!とか、どこ触ってんのよ痴漢!なんて声も聞こえるが当然無視。お前らは面白半分で来てるんだろうが、こっちは一応人命救助のつもりだからな。大抵の事は些事だ。そのまま探索者の横を通り過ぎて、俺は探協の中に入った。


 ちなみに顔パスというわけじゃない。俺の存在を探索者も周囲の野次馬達も認識していない。これは放浪者の仮面と闇の衣の効力の一つ。認識無効である。放浪者の仮面と闇の衣には認識阻害の効果が付与されている為、どちらかを装備していれば、普通にしている分にはその辺の石ころ扱いだが、両者を装備する事によって効果は阻害から無効へと変化する。俺を認識することが出来なくなる。セットボーナスみたいなもんだな。この状態だと多少接触した程度では一般人は俺の存在に気付けない。探索者でもこれだけ人が多ければ接触でもしない限りは無理だろう。


 探協内に入ると、外とはうって変わって張り詰めた空気が場を支配していた。ものっそいピリピリしている。まあ気持ちは分かるが。なんせワンダラーエンカウント発生だ。しかもそれを絶賛生配信中。探協内で処理する事もできないからあちこちからせっつかれてるんだろう。


「ったく、久々の休暇だってのによぉ、俺に恨みでもあんのか?」

「そういうな、協会からの緊急指名依頼だ。余程のことがなければ断れん」

「俺の休暇は余程の事だと思うんだが?A級探索者様の休暇だぞ?」

「仕方あるまい。C級ダンジョンでのワンダラーエンカウント。対処するにはB級で

は荷が重い」

「で?それに遭遇したラッキーボーイ達はどうなってんの?」

「どうやら配信中に遭遇したらしくてな。見て見ろ、現在絶賛逃走中だ」

「へぇ、ダンジョン配信中に遭遇するなんてこの子持ってんじゃん。視聴者数は60

万?すげぇな。一躍有名人の仲間入りだな」

「それで死んだら意味はないがな」

「ハッ違いねぇ。ま、ソロで潜ってるような勘違い野郎にはお似合いの結末じゃねえの?」

「運が悪いと言えばそれまでだがな。もし他の探索者が居れば少しは抵抗もできるのだろうが」


 配信を見て笑いながらレナちゃんをボロクソに言うA級探索者、しかし周りの探索者達は特に反応しない。皆多かれ少なかれそう思っているからだろう。探索者はダンジョン内で何があっても自己責任。だからこそ不測の事態に備えて、生き残る可能性を少しでも上げる為にPTを組む。もしレナちゃんがPTを組んでいたら、ただひたすら逃げ続ける事もなかったかもしれない。ワンダラーエンカウントも発生していなかったかもしれない。だがそれは可能性の話だ。既に賽は投げられている。


「私たちに出来るのは、せめてこの娘が無事に逃げ切るのを祈る事くらいだな」

「仇は俺たちがとってやるからよぉ、安心して成仏するんだなぁ。ハハッ」


 まあ、レナちゃんが悪いわけじゃないけど、悪く言われるのも仕方ないかな。このせいでダンジョンに入れずに待機してる人たちもいるし。該当ダンジョン以外なら普通に入れるとはいえ、この状況でダンジョン入る度胸のある奴なんていないよね。協会員の人たちも慌ただしくて依頼とかそれどころじゃないっぽいし。


 そんじゃ、さっさと俺の用事を済ませちゃいますか。C級の草原ダンジョンは…あそこか。不測の事態に備えてか、がっちりガードされてんな。仕方ない、強行突破だな。中に入りさえすればどうとでもなる。


 ローブのポケットからボロボロの錆びた鍵を取り出す。取り出したのはワンダラーを討伐した際のドロップ品、放浪者の自宅の鍵。


 その効果は―――ワンダラーが出現しているダンジョンへの侵入である。

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