第8話 結
草原ダンジョンのゲートをがっちり守っているガードマンを不意打ちでぶっ飛ばし、ゲートに鍵を差し込んで無事に不法侵入に成功。とはいえ、あくまで放浪者の自宅の鍵はダンジョンの中に入れるだけで、ダンジョン内の階層転移を可能にするものではない。なので1Fから16Fまで移動する必要があるわけだが、問題はその移動方法である。
ダンジョンは広い。しかも俺はこのダンジョンに初めて来た。なので階段の場所を知らない。急いでいたので階層地図もない。つまり階層中を駆け回って探す必要がある。それも15階層分。だがそんな事をしていればとてもじゃないが間に合わない。普通にやれば2階への階段を見つける前に余裕でゲームオーバーだろう。だが普通じゃない方法ならそれは可能となる。
今日はもう何も出来そうにないなぁ。ふぅ…さっさとやるか。
使うのは魔法。そう、みんな大好きなあの魔法である。何もない所から炎を出したり空を飛んだりワープしたりする、不可能を可能にすると専ら噂のあの魔法である。この世界にはダンジョンがある。そしてモンスターがいる。ならば当然それに対抗する為の力がある。魔法はその一つだ。
やんごとなき事情により、俺は幼少の頃から特殊な魔法が使えていた。幼少期はそれはもう大はしゃぎで、あれこれ魔法を使っていた。小さい頃は天才だ神童だとチヤホヤされて凄く調子に乗っていた。
だが比較的早い段階、7歳か8歳だったか。魔法に対する情熱が、俺の人生に対する興味が一気に失せた。魔法が使えなくなったわけではない。むしろその逆、魔法でなんでも出来すぎて、それがあまりにもつまらなくなって、全てが面倒になってしまったのである。
無双がしたかった。俺TUEEEがしたかった。何かをやっちゃいたかったし、沢山の女の子にモテたかった。だけどある時、ふと冷静になった。自分のしてきた事を振り返った。途端に虚しくなった。貰った力で好き勝手して、調子に乗って、俺は何をしているんだろう、それの何が楽しいんだろうと。
例えるなら、答えを教えてもらいながら解答用紙に丸写しして100点取って褒められて。チート使って対戦ゲーで無双して。それを自分の成果だと誇れるのか。喜ぶことが出来るのか。最初は楽しいかもしれない。でもきっとすぐに飽きる。そして俺は実際に飽きた。
色々とやる気のなくなった俺を周りは心配していたが、十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人的なものだと思ったのだろう。見切りを付けたのか距離を取っていった。だけどそんな中で一人だけ、ずっと俺の側で笑って一緒にいてくれる人がいた。天月ありす。俺の双子の姉である。その甲斐あってかどうかは知らないが、新しい目標を見つけた俺は、ある程度持ち直した。
自分の為に魔法を使うつもりはあまりない。全くないと言えない所が浅ましいが、生きる為には必要だからなぁ。むしろダラダラ生きていられる今の状況に俺はもの凄く満足している。先の事を気にせずに、好き勝手に食う寝る遊ぶ。これこそが真のスローライフ。選ばれし者のみが到達できる真理を俺はこの手に掴んだのだから。
だけどあーちゃんが絡む場合のみ、話は別になる。それがあーちゃんの努力で解決できることなら手助けは一切しないけど。それがどうにも出来ない事で、大切な事ならば―――俺はこの力を喜んで使おう。
俺の新たなる目標、あーちゃんさいかわさいつよ計画の為に。あーちゃんが笑って最強の頂に立つまでは、邪魔な障害は全て俺が取り除く。
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