出会い

 柚希は浮かれていた。

「何ニヤニヤしてんのよ気持ち悪い。」

そう言ってきたのは、ユーフォニアムを担当する久美だった。

「ニヤけてなんかねえよ。それに、今日は俺たちに後輩ができるんだ。お前は嬉しくないのかよ。」

「さあ。どんな子が来るのかしら。チューバはみんなやりたがらないだろうけど。」

スキップ気味に去っていく久美を見て、こいつも浮かれてるなと思いつつも、柚希はこれ以上言わないことにした。

「ミーティング始めるよ〜」

部長の萌が声がけをする。四時四十五分。いつも通りの時間だ。

「今日は入部希望の後輩がたくさん体験しにきます。みんなそれぞれの持ち場で後輩たちを歓迎しましょう。そして、一人でも多くこの部に勧誘していこう!」

「はい!」

みんな元気よく返事をした。

 柚希は久美とともに自分のパートを体験しにくる後輩たちに軽く指導していた。しかしユーフォニアムはともかく、テューバはとても大きく、一年生たちは敬遠しているようだった。音は鳴らせても、体格的にそもそも構えることが難しい場合があるからだ。仕方ないと柚希は思いつつ、やることを淡々とこなしていた。

 「一人暇な子できちゃったからそっちで面倒みてあげて。私はクラリネットのとこへ戻るからそれじゃ。」

萌は柚希の返事も待たずに足早に去っていった。そして一人の女子生徒が入ってきた。

「よろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げるその子の姿は、まだ中学生になったばかりのあどけなさとなんとも言えないが、目を惹きつけられる何かがあった。久美の方はいつのまにか一人の後輩と仲良くなっているようだった。女同士は気楽に話せるからいいよなと思いつつ、放っておくわけにもいかないので、柚希はその子に話しかけた。

「この楽器の体験してみる?構えられなさそうなら支えるから心配しないで。」

柚希は言った。

「やってみます。」

その子はうつむきながら少し考えたのち、そう言った。

 ブオ〜という音が響いた。柚希の時は少しかすれた音がした程度だったからか、余計に驚いた。

「うまいね、君。名前を教えてもらってもいいかい。僕は柚希。」

「薫です。」

その子は、はにかみながら答えた。

 そうこうしているうちに、下校時刻が迫ってきた。後輩に関するレポートを顧問にみんな提出した。柚希もレポートを書き終え、生活指導の先生に怒鳴られる前に急いで門を出た。薫が後輩になってくれたらいいなと思い、ゆったりと帰路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

玉折 つばめメモ @boheemyan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ