第14話 過去の話 3

 扉を開ける前に、いくつかの事をを耳打ちされた。今回のプロデュースはこいつだから従おう。というか、どういう状態かすら分かってない。言われた通りに勢いよく扉を開けた。

 そこには、紫の煙の中、20人以上の人間がたむろしている。奥の方のソファーで座っているのがマサキか、見覚えはある。周りの取り巻きも大体見た顔だ。そう思っていると、ガタイの良い用心棒の様なのが近づいてきた。

「何の用だ」

「マサキさんに呼ばれてきたんですけど」

こんなやつ相手に、こいつも面の皮が厚いな。用心棒は、後ろを向いてマサキにアイコンタクトを取った。まあ、当然、こうなるよな。

「マサキは知らないってよ。何のつもりだ」

デカいからだで威嚇してきた。そして俺はシナリオ通りに前に出て、

「吻」

鳩尾に一発くれて、男は跪くところ顔面に蹴りを入れて失神させた。マサキは問いかけるように後ろを見た。ここまでは奴のシナリオ通りだ。振り返ったマサキは

「誰だお前ら、舐めているのか」

「こんなところでお山の大将か、良い身分だな。落ちこぼれ」

「手前!こんなところまできて喧嘩売ってんのか」

「別に弱いもの虐めしに来たわけじゃないぞ」

「何だと!馬鹿なのか。この人数に勝てる気か。やっちまいな」

警棒やナイフを持った奴らが威嚇しながら近づいてきた。さすがにこの人数は無理だ。

「いまだ!」

奴の合図に、耳を抑えて目をつむった。激しい光と音。そして焦げた匂い。しばらくして目を開けっると,のたうちまわる人、人、人。俺はマサキが目で問いかけた男を確保した。軽く落として、抱えて出口に向かった。奴も入り口で逃げようとするやつを蹴り飛ばしていた。扉を出ると幼いが雰囲気あるガキが立っていた。

「終わったか」

「ああ、扉閉じといて」

「分かった。あとは任せてくれ」

「黄色の服の坊主と、赤服のパーマ、縞々の金髪ピアス、こいつらは家まで行って」

「陳さん連れて行くよ」

「よろしく、俺はこいつの家に行く。あと、あいつに来るように言っといて」

といて、男から財布を抜き取り身分証明書を渡した。

 階段を上がると、ガラの悪い大人たちが、ガキどもを小突き回している。目の前に留まった車のドアを開けて

「入って」

と言った。男を押し込んで、俺は後部座席、奴は助手席に座った。運転席の男に住所を言うと、車は発進した。しばらくすると男が唸り、目を覚まそうとしていた。

「これで両手縛って」

といってPPバンドを渡された。手を縛ってから、暴れない様に、また、落とした。

目的地は、閑静な住宅街。奴は降りると、反対のドアを開けて男の頬を叩いて起こした。

「お前の家だね。中に入れて」

そういって、男のポケットから鍵を奪って、家に入った。土足で入り込むと家探しを始めた。しばらくして

「こっちに連れて来て」

と呼ばれた。そこはこの男の部屋だろう。なるほど、パソコンがかなりハイスペックであるのを除けば普通の高校生の部屋だ。今まで気が付かなかったが、こいつは成績が良いが目立たない隣のクラスの男。普段はメガネだか今は裸眼。伊達眼鏡だったようだ。

「どこ?」

男は下を向いて答えない。奴は机の上にあった鉛筆を折って、

「顔押さえておいて」

と言った。何をするのか分かったが、それはやりすぎだろう。とりあえず顔を上げさせた。

「どこにあるの?」

男はパソコンのほうに顔を向けた。

「ハードは無いの?」

大人しく頷く。

「嘘ついてもダメだからね。家探しするから。もう一度聞くけどハードはどこ?」

男は立ち上がろうとした。

「放していいよ」

放すとのろのろと机に向かい棚の裏から鍵を出して、鍵付きの引き出しを開けた。そこには、ビデオのメモリーカードなどがきれいに並べられていた。

「几帳面だな。持っているのはあんだだけ?」

男は頷く

「コピーとか無いよね。持ってたら酷いことになるけど」

男は震えながら横に首を振った。

「まあ、そうだろう。脅しのネタが広がれば脅しのネタじゃ無くなるからね。しかも几帳面に撮影者の名前まで書いて整理しているから、こいつらがコピーしてないか確認すればよいか」

「多分大丈夫だろう。マサキと言うやつは弱いやつには強いし、命令には忠実だ。こいつに従っているのなら、見せしめにリンチでもして掟を守らせるんじゃないかな」

「そうだね。まあ、万が一があるから調べるけど」

俺が引き出しの中を見ようすると、男が急にぶつかって逃げようとした。

「ありゃりゃ、追って」

くそ、油断した。飛ぶように階段を下りて、玄関のドアを出たところで捕まえた。外には、車が止まっており、中学生くらいのやつが立っていた。

「お、捕まえたね。ちょうどいいや役者が揃ったね。こいつは庭に転がしといて」

庭に引き出し、軽く腹に蹴りをいれて転がしておいた。先ほどの中学生くらいの少年がついてきたが、その眼には尋常ならざる怒りが満ちていた。しばらくすると

「おまたせ」

「何をしていたんだ」

「うーん、多分大丈夫と思うけど、こいつのパソコンにウイルス入れてきた」

「なんでだ」

「万が一、画像が流出していたら困るだろう。感染すると全てのファイルが壊れ、開けようとすると、ウイルスに汚染されるプログラムを入れて、過去の履歴を遡って、アクセスのあったアカウントすべてに送り付けておいた」

「この短時間にか」

「まさか、元々組んでいたやつを入れただけだよ。これで、もう大丈夫だ。で、こいつがお前の大好きなお姉ちゃんを自殺に追い込んだ黒幕だ。どうする」

といって先ほどの少年に話しかけた。

「殺してやりたい」

「そうか、うん、良いじゃない。ほれ」

といってナイフを足元に突き刺した。少年はナイフを取り奴に向かった。先ほどの蹴りが聞いたのか、男は十分に動けていない。これなら、少年でも刺せるだろうが、さすがに止めたほうが良いのかもしれない。その考えを呼んだのか、奴は俺の服を引いて、首を振った。

 そして少年は、ナイフを振りかざし、雄たけびを上げた。

 だが、ナイフは降りることは無かった。そして、いつの間にか奴は少年のナイフを取り上げて

「まあ、これぐらいにしときな」

と言って警棒を取り出した。少年はそれを受け取ると男の肩や背中に叩きつけた。男も致命傷にならない様に丸くなっているし、少年は貧弱だったので、あまりダメージは無いようだ。息を切らせた少年にむかって

「気が済んだか。もう忘れろ。刺せなかった時点でお前はもう関わるべきでは無い」

そう言うと、車のほうに合図して、少年を引き取らせた。そして倒れている男に近寄り

「なかなか、面白いことやってんじゃん。でもはしゃぎ過ぎちゃったね。俺は優しいからこれで終わるけど、次に同じ事したら酷いことになるよ。まあ、忘れない様に約束しよう」

と言って、男の左手を取ると、小指を掴んで、

「指切った」

といって、ヤバい方向に指を折った。多分人間の構造上、再生が最もし難い方向だ。


 それから、しばらくして、男は家族と共に逃げるようにこの町から去って行った。















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