第10話 巣穴
翌日、いつもの喫茶店に出向いて、先輩と昼食を食べた。食後の珈琲を飲んでも出発する気配はなく、そのままドリンクを追加してデザートを食べた。そうしていると、先輩のスマホにメッセージが送られてきた。
「ようやく来たな。じゃあ行くか」
店を出るとタクシーを拾い、港に向かった。倉庫街の大分手前の幹線道路でタクシーを降りると、そこからはゆっくりと倉庫街に歩いて行った。
「どうやって、アジト見つけたんですか」
「うーん、説明するのも面倒だな。簡単に言うと奴の行動範囲と時間帯から移動手段と目撃情報を組み合わせて、アジトになりそうな場所に目星をつけたんだ。だが、俺たちが動いてから、奴は姿を現さなくなったからあとはしらみつぶしだ。相手に悟られたら行けないから、周辺のスーパーやコンビニなど張って、こんなところで定常的に喰い物を買うやつなんて少ないだろう。そいつを付けて行ったら、狐の巣穴だったわけだ」
「アジトが分かったとして、これからどうすんですか」
「狩りと言っただろう」
「二人でですか?向こうは人数居るんじゃないですか」
「うーん、大人数で隠れていたらすぐわかるだろう。まあ、奴の性格からしたら仲間とつるんで隠れるなんてしないだろうからな。まあ、助っ人も呼んでるから」
「誰ですか」
「お前の知らない人間だ。ほれ、そこにいるだろう」
紺のジャンバーを着た体格の良い男が倉庫の前に隠れていた。先輩と共に近づくと
「遅かったな」
「時間通りでしょ、あんたが早すぎるんじゃないか」
「そうか、で、お前たちは二人か」
「まあ、俺もこいつも戦闘要員じゃないから、そこんところよろしく」
「そっちは俺の分野だ、安心しろ」
「で、やつは」
「中にいる。ひとりでだ」
「ほかに出入りできるところは」
「窓ぐらいだな、しかも二階くらいの高さがある。たとえ逃げてもこの場所なら簡単に捕まえれる」
「じゃあ、行きますか」
静かに扉の鍵を開けて入ると、真っ黒な服の男がソファーに寝転がっていた。
「久しぶりだなカス、相変わらずくだらないことしやがって、また指の形変えられたいのか」
先輩の言葉に反応して、男が立ち上がった。痩身ではあるが背も高く、それ以上に異様な雰囲気をまとっている。銃は無くとも刃物くらいは持ってそうだ。先輩は護身術を極めているし、もう一人の人は明らかに修羅場になれてそうだが、俺が狙われたら終わるな、と思って、自然と一歩下がってしまった。
「そうだな、お前のせいでこの指もキャリアも全て壊されてしまったよ。久しぶりに会えてうれしいよ」
「馬鹿か、また痛い目に合うために待っていたとでも言うのか」
「そうだよ、でも痛い目に合うのはお前たちだが」
そういって手を振ると、ぞろぞろと物陰から男たちが出てきた。
「かくれんぼが得意なんだな」
「お前が俺を見つけたと思っているんだろう。俺がお前に見つけさせたのさ。お前が賢くて助かるよ。こちらの皆さん方も待機する時間が短くて済んだからな」
少なくとも十数名は居るだろう。しかも得物付。いくら先輩と助っ人でも無理だ。俺も覚悟を決めたが、先輩も助っ人も気負う様子も無い。いったいどういう事だろう。
「なるほど、この一連の闇バイトは俺をおびき出す罠だった訳か」
「そうだ、この数年間お前の事だけ考えてきた。こうなると愛だよ。愛。お前に俺の味わった苦痛や屈辱を味わせてやりとそれだけを考えてきた。逃げるようにこの町を出て、そこで一から人脈を作り、お前を苦しませるだけの準備を進めてきた」
「馬鹿な奴だ。でこちらのお上りさんは関西から来たのか。ご苦労様です」
「やけに余裕だな、強がっても無駄だぞ。この人たちはその道のプロだからな。素人のハングレでは相手にならんよ。しかし3人とは拍子外れだな。お前の仲間が手下連れてくると思ったがな。あと飛び道具とかも無駄だから。それも含め対策出来るプロだからな。得意の化学反応で煙幕とかもな。全部対策済みだ」
「こんなカスに付き合わされて大変だな。お前はもう一度痛い目に合わないと分からないようだな。今度は二度と歯向かえないようにしないとな」
「何を余裕ぶっているんだ。まあ、足掻いてみろ」
そういうと、男たちが包み込むように進んできた。ドアから逃げることは出来るか?いや後ろを向いた時点で襲われるだろう。下手に動けばやられる。絶体絶命か。
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