第5話 追跡

 俺は、店を出て東側に待機していた人たちと合流してから車で東に向かった。

助手席では知った顔の人間がトランシーバーを聞きながら行き先を指示していた。欲ターゲットは順調に追えている。途中、ターゲットは上着を脱ぎ棄てたがそれも見ていたので問題ない。一番の問題は引き渡したの時だ。ここで見失うともう追えない。その為に周辺に人を配置しながら動く必要がある。盗聴されても良いように決められたコードで指示を受ける。この人たちもすべてのコードを理解して動いているようだ。早速、想定引き渡しポイントの近くにやってきた。これからはあまり近づくことは出来ない。追跡者がいると分かれば、獲物を捨てて逃げるかもしれない。だから、そこから、少し離れたところに何人もさりげなく立たせるしかない。強盗犯が手ぶらで現れれば、ブツは引き渡されたと考えて良い。どこかに隠すのかもしれないが、余程、現場から離れないと回収のリスクが高まる。だから、強盗犯が手ぶらになった後で重い荷物を持って歩いている奴が回収係だ。周辺に目を配らせながら、さりげなく。

 ターゲットは予想通り、想定場所に入っていた。あっという間に着替えて手ぶらで去って行った。こいつは使い捨てかもしれないがほかの部隊が追跡することになっている。そして4,5分後、宅配のバックを持った自転車の男がそこから出てきた。間違いない。こいつが回収係だ。自転車の男の特徴と去った方向をトランシーバーで伝えた。男が向かったのは港湾の倉庫地区の方向だ。このパターンは別動隊が追跡担当だ。

 これで今日の俺の仕事はお仕舞い。大したことはしていないが、疲労感が半端ない。気が付くとパトカーが行き来しており、テレビ局のクルーらしき車も走っていた。体を引きずりながら、駅まで向かい何とか家に帰りついた。テレビを付けると白昼の強盗事件としてワイドショーが大々的に扱っていた。実行犯の数人はすでに捕まっているようで、数点の高級時計を所持していたようだ。だが大部分は不明で数千万円の被害になるらしい。現実感がないままテレビを見ていたが、下手するとテレビに出ている犯人の一人になっていたかもしれないと思うと背筋が冷えた。

 それから数週間後。ニュースではこの事件の現行犯はほぼ捕まったが、商品は見つからず、また違う事件に塗りつぶされるように、世間から忘れ去られていった。

 そして、先輩から例の喫茶店に来るように連絡があった。




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