第4話 実行

 俺は2階にある喫茶店から、斜め下の店を覗いていた。ここが奴らのターゲットの店だ。まだ計画が実行されるには時間はある。スピーカを最小にしたトランシーバーを隠すようにバック入れて、珈琲で一息ついた。俺の本日の業務は奴らの逃げた方向をトランシーバーで伝える。これだけで終われば楽なんだが、現場から速やかに撤退した上、指定された駅まで移動し、そこで対象を下車する駅まで尾行することだ。先輩に相談してから約2週間。目まぐるしい毎日だった。

 飛ばしのスマホから、闇バイトを見つけたサイトに移動すると、同じようなバイト情報があったが、前回とほぼ同じ文面で募集していた。先輩に指示された通りのキャラクターで応募して、用意された偽のマイナンバーと写真を送った。案の定、脅しのメールが来たが、こちらからはバイト代の支払いについてのみ質問し、払われない支払い条件を詰めていった。「馬鹿なやつだ」と思われているだろうが、バカを見るのはどちらだろうな。

 そう思っていると、店の前に白いバンが止まった。事前に連絡があった計画通り。他人の免許証を使って似たような年頃の人間に車を借りさせる。指定場所まで車を持って行き、キーを付けたまま去る。そのあと、運転手が車に乗り込み、移動して実行犯をピックアップして、現場に連れて実行犯を下ろして、そのまま走り去り適当場所で乗り捨てて逃げる。バンが動き出した。これまでは計画通りだ。

 恐れいていたのは、俺がブッチしたことで計画を修正、最悪中止になることだったが、大丈夫だった。まあ、失敗したところでこいつらは捨て駒なんだろう。俺も捨て駒にされるところだったと思うと怒りが湧いてくる。

 バンが去ると、白の作業着に目出し帽をかぶった男たちが店に入ることろだった。寄せ集めにしては手際よくショーケースを割り商品を奪っていく。ほんの数分で

盗み終えると店を出て散らばって逃げて行った。皆それぞれに袋を肩にかけているが商品を持っているのは一人。ここまでは計画書通りだが、誰が商品を持って、どこに逃げるかまでは分からない。全員を追いかける訳に行かないから、ここで商品を持っている奴を判断して、どこに逃げるかを見届けないといけない。だが、やはり素人というか、目撃者を混乱させるだけに散って逃げるんだろう。警察が来てもあらゆる方向に逃げたとしか言えないから。だが、数十キロの貴金属を入れた袋と緩衝材しか入っていない袋では持ち方が違う。もちろん、先輩からの示唆されたのだが、明らかに腰を落としている奴を見つけて、そいつの逃げる方向を確認した。そして袋の中のトランシーバーに「E1」とだけ伝え店を出る準備をした。

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