第3話 企て

 翌日、先輩の家に行くと、待ってたかのように二階の窓が開き

「早く上がってこい」

 と声をかけられた。

 家の中には山の様な大男が背を向けて座っており、

「お邪魔します」

 と言うと、大男は振り向いて厳つい容姿とは裏腹に優しい声で

「久しぶりだねカズヤ君。ゆっくりしておいで」

 と、声をかけてくれた。

 先輩の親父さんだ。先輩も長身だが、親父さんはその上横もデカい。まるでプロレスラーの様な体形と言えばいいだろう。その体をかがめて、小さいノートパソコンを使って何かをしているようだ。先輩の話だと仕事はフリーランスのITエンジニアらしい。

 二階に上がって先輩の部屋に入ると、きれいに整頓されており、真ん中に工作用の机が用意されていた。現在は、大学近くで一人暮らしだが、出ていく際に、大部分の荷物を整理している。

「座れ」

 目の前に座り、紙袋から昨日購入した物を広げた。

「電光堂さんがサービスしてくれたので」

 と言って、領収書とサービス分のお金5万円を差し出した。

 先輩は興味なさげに、領収書を一瞥してゴミ箱に投げ捨てた。

「これは電光堂からお前へのサービスだろ、よかったな」

 おつかいで15万円。こんなうまい話は無い。絶対に無い。

「で、つぎに何やるか分かっただろう」

 先輩は試すように俺の顔を眺めた。

「タタキのタタキですよね」

「残念!惜しいが、ちょっと違う。盗品を強奪しても、その商品を返さないと強盗として捕まるだろう。まあ、あいつらを捕まえて店や警察から謝礼とか感謝状とかもらいたいなら別だが。店も傷物が帰ってくるより、盗品保険使ったほうが良いから、あまり感謝されんだろうな」

どういうことだろう。強盗の強奪であれば、買ってきたものは全て説明つくし、そうでないなら何のための道具だろう。俺の疑問を見透かしたように

「買ってきたものの使い方は分かっているだろう」

 と言って、買ってきたスマホを指さした。

「これはダークサイトに入るようですね。これで闇バイトの強盗の計画とか盗み見るんですよね」

「まあ、そうだ。だから足がつかない様に飛ばしを用意した」

「トランシーバーは強盗を追跡する為ですよね」

「その通り」

「で、最後に襲うとしか思えないんですけど」

「そんな野蛮ことはしない。だが、追跡するまではあっている」

「よく分からないですが、まず、追跡するにしても、俺が引っかかった闇バイトの計画は先輩のウイルスで潰したじゃないですか。そのまま決行するとは思えないんですが」

「よく気が付いたな。もう少し考えろ。首の上に有るのは飾りじゃないんだろう」

「また新しくバイト集めて実行する。それはリスキーじゃないですか」

「そうだリスキーだ。だが相手はアホだし、自分で手は汚さないから。それに奴らこのままじゃ足がでるだろう」

「バイト代も後払いですよ。金はかかってないんじゃ・・・」

「なんで、この店を襲うことにしたと思う。自分で見つけて下見でもしたと思うか」

「適当に選んだとか」

「例えば、店を襲っても、商品が少なかったり、高級品はサンプルだけ、ショーケースが破壊できない、警察が良く巡回しているとか色々な不安要素があるわけだ。使い捨てのバイトと言えど上手く行かないと金は入ってこないし、末端が捕まることで自分たちにまで手が回る可能性も無くはない」

「う、そうか、情報屋ですね。情報を買って計画を立てたと。だから情報屋に支払った分は赤字だと」

「そうだ、お前が引っかかったやつは素人に毛が生えたようなものだから、損切できずに、再度襲う計画をするだろう。まあ、そうでなくとも情報屋がタイミングずらして、ほかの客に売るだろう。まあ、(強盗するという意味では)良い店だからな」

「そこまでは分かりました。でもあいつらつけてどうするんですか。あ!アジトまで追うんですか」

「正解。引き渡し場所に受け取り役がいるはず。こいつは実行犯と違って、仲間か仲間に近い位置にいる。逃げればほぼ労力を使わずに高額商品をゲットできる立場だから、信用できる奴になるだろう」

「でも、どこに行くか分からないから追うの大変じゃないですか」

「そうだな、だが受け取ってしまえば自分が追われるとか思ってないから案外容易につけれるぞ。それにヤバいブツ持っているから車やタクシーは使わない。公共機関も」

「近場に保管して、ほとぼりが冷めてから取りに来る」

「そうだ。少なくとも、箱詰めとかして運びやすいようにする場所を確保しているだろう」

「さらに、そこに出入りする人間をつけて、主犯までたどり着ける。そして商品はルートが無いと売りさばけないから、買取屋に引き取らせる。そしてその売却した金を横取りする。」

「正解。場所さえわかれば、後は盗聴器仕掛けて奴らのスケジュール抑えれば十分。で取引を終えたところで、ありがたく戴くというわけだ。現金だから足も付かない、被害届も出されない。しかも人気のないところだから目撃者もいない。奪うときに奴らをケガさせたり殺したりしなければ警察に追われることは無い」

なるほど、確かに犯罪だが、捕まることはない。だが、俺は何をさせられるのだろうか。自慢じゃないが腕っぷしは弱いし、頭も悪い。

「お前はまた闇バイトを探せ。多分同じサイトで同じ条件で出していたらそいつらだ。あとダミー用のマイナンバーと写真用意しているからそれ使って入り込め。で、連絡はその電話からこの番号にしろ。暗号化アプリいれておくから」

 それだけであれば安全だ。

「あと、実行日は店の前で奴ら動きを張っておけ。司令塔になって奴らを追跡しろ」

 なんてこった。そんな近くにいるとか危なくないか。

「顔ばれしているし、ヤバくないですか」

「大丈夫だ、お前の顔とか覚えてないよ。あと奴らが動きだした後は野次馬に紛れておけ」

 まあ、そうだよな。お使いで15万円なんてうまい話は無いよな。そんな表情を呼んだのか。

「今回は成功報酬。うまく行けば日当10万円だ」

魅力的な誘いだが、恐怖を感じる。犯罪者から金を奪うなんて。だが、もう断ることは出来ない。先輩のほうが見知らぬ犯罪者より怖いから。





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