これからを考えよう
次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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夜中の二時に起こされたからといって「はい、今日も元気に頑張りましょー!」なんてことにはならず、久しぶりに帰ってきた妹とセットで二度寝をかましたチシャは起床後、再び己の部屋へと戻ってきていた───
「王家が抱える魔術師団に所属している妹よ。此度は約一年もの遠征活動、ご苦労であった」
自室でチシャは不遜にも足を組み、ベッドへ腰をかける。
見下ろす先には正座をしている可愛らしい
彼女は今回、約一年もの間王家直轄の魔術師団に所属する者として遠征活動を行っていた。
行く先々で困っている人を助けては悪党を退治する。大体の遠征は簡単に言うと見回り程度で終わるのだが、アリスはその範疇を越える働きをしたという。
熟練の魔術師でもほんのひと握りしか入ることが許されない王家の魔術師団───その中でも大きな功績を残すことは、十五歳の女の子としては偉業。
だからこそ英雄と呼ばれて戻ってきたのだろうが───チシャは何故かお怒り気味だ。
「お前のしたことは俺の
〜以下、アリスの『おにいさまの素晴らしい部分!』より抜粋〜
・おにいさまは超かっこいい!
・私が強いのも、全部おにいさまの教育の賜物!
・おにいさまは私よりも強い!
・おにいさまはこの世の男の中でも頂点に君臨する男!
・おにいさまにかかればなんでもちょちょいのちょい!
「……何か弁明は?」
「私にもっと語彙力があれば、まだまだおにいさまの素晴らしい部分を……ッ!」
「そうじゃねぇよ」
その語彙力が壊滅的であってほしかったと思ったチシャであった。
「あのなぁー、俺は別に噂をどうにかしたいとかこれから活躍したいとは思ってないわけよ、分かるあんだーすたん?」
とはいえ、過ぎてしまったことは仕方がない。
そう己に納得させ、チシャは頬杖をつきながら口にする。
「妹は理解できません。おにいさまの実力と魅力が世に広まれば、いいこと沢山だよ!?」
「たとえば?」
「私との結婚!」
「おーけー、メリットを挙げる前に関係性から見つめ直した方がいいな」
「義理だからおーるおっけー!」
「なっしんぐだよ馬鹿野郎!?」
義理とはいえ家族。
法律上はできるかもしれないが、世間様の風評やら家庭内崩壊誘発やら問題はたくさんだ。
そもそも、妹を異性としては見ていない兄貴である。
「でもね、おにいさまは将来家督を継ぐことになるんだから、悪評は取り除いておかないとあとあと面倒だよ?」
「おっと、いきなり正論なんてズルいぞ」
「そりゃ、私はおにいさまと末永くお供する将来の伴侶的なポジショニングしてるからある程度カバーはするつもりだけど、アリスちゃんにだってどうにもできないことはあるのです」
アリスは王家の魔術師団所属。
それだけである程度の名声も地位も手にしており、おまけに今回の遠征で民から多くの支持を集めた。
早く兄の下から離れた方がいい、結婚して家を出るんだ等様々言われているが、家にいればある程度手出しできないよう抑止力を生ませられる。
しかし、それでもどうにもならないことが起こるのが貴族社会だ。
政治、権力、圧力、それだけで家が簡単に潰れてしまうなど、歴史が悲しいことに物語っている。
故に嫌われず、敵を作らない方がいいのは間違いない。
だが───
「安心しろ、何かあれば力付くでねじ伏せる」
「やだ、おにいさまかっこいい……♡」
この二人は少々、どこか心配になってくる。
「というわけで、過ぎたことへの対処法を考えよう。神に祈ればなんでも解決してくれるっていう頭の悪い宗教集団じゃないんだ、現実逃避の前に現実を見るぞ」
「おー! おにいさまのために頑張るー!」
「お前が元凶なんだが、その気概は買おうじゃないか」
とはいえ、実際に民がアリスの話をどこまで聞いたのかは分からない。
もしかしたら取り越し苦労になっているかもしれないし、手遅れかもしれない。
アリスの人気っぷりを実際に街へ遊びに行った時に耳にしているチシャは後者だと考えるが、己の気持ち的に前者であることを切に願う。
さながら、現実逃避か藁にもすがる思いか。
なので、作戦会議よりもまずは現状確認が先決だろう。
「いい感じに噂を確認したいな……こう、お隣のおばあちゃんの悪口を聞く世間話的な感じで今の状況を色んな人から聞いておきたい」
使用人に任せるか? などと一瞬考えたが、チシャを毛嫌いしていそうな人間が間に入ることで正しい情報が穢れてしまう可能性もある。
正確な対処をしたいチシャとしては、なるべく自分の耳で確認したかった。特にアリスに行かせるのはダメ。絶対脚色してくる。
「ふっ……おにいさまがそう言うと思って、できる子アリスちゃんは事前に仕込みをしてきました!」
「おぉ!」
まさかの即案。
あまりの有能っぷりに、チシャは感心した声を上げる。
「今度ね、遠征お疲れ様会的なパーティーをするんだけど……ここにおにいさまの参加も決めておきました!」
「なるほど!」
パーティーともなれば、色んな貴族が集まる。
貴族は領民をまとめ上げるトップだ。領民の声も聞いているだろうし、アリスの話も耳に届いているはず。
今がどんな状況か確認するには、正にもってこいの場所である。
「流石はマイシスター! 君の有能っぷりにお兄ちゃんは舌を巻かずにはいられません!」
「えへへっ……照れるよ、おにいさまー」
感極まり、チシャはアリスの頭を乱雑に撫で始める。
これがなんとも嬉しかったのか、アリスは年相応のだらしなくも可愛らしい笑みを浮かべた。
というわけで、目指すは魔術師団のパーティー。
悪評を維持するための第一段階は、現状確認をするところから始まったのであった。
「ところで妹よ……お前が広めた噂なのに、何故もう準備ができてるんだ?」
「…………」
「まさか、実際に俺を見せて自慢しようとしてたわけじゃねぇよな?」
「……ソンナコトナイヨ」
「コラ、こっちを向けこっちを」
「別におにいさまを自慢したいとかあわよくば魔術師団に入ってほしいとかそしたらおにいさまと一緒にいられるとか……ソンナコトハナイヨ」
「なんだその不穏な前振りは……っておい、逃げるなちゃんと訂正しろ怖いんだけどッッッ!!!」
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