第2話 メルカリで悪魔を買った。十円で。
男は金に困っていた。
正確に言うと学費に困っていた。交友関係に困っていた。
道でカツアゲされるため通学に困っていた。だから交際費に困っていた。
付き合いが悪いから交友関係に困りきっていた。合コンも呼んでもらえなくなったから女にも困っていた。
金に困っていたからバイトを探して困っていたし、カツアゲに抵抗して殴られるたびに治療費に困っていたし
車があれば女にモテると吹き込まれたから車にも困っていた。
そんなので勉強に割ける時間もない。大学の単位にも困っていた。
本当は金以外で直すべきところ手にいれるべきものがあると周りの人間は思っていたが男は言い訳にも困っていた。
そんな時金がないは便利だった。
だから男は総じて金に困っているといつも零していた。
そんな人間を相手にするものもまあいない。
だから男は金に困っていることを言う相手もいなくなって、スマホだけが友達だった。
金がないのを友達に相談した。もちろん人間の友達はいないからこの場合スマホだ。
スマホはオークションサイトのアプリを男に見せた。人工知能は便利だ。
こんなつまらん男でも慰めてくれる。
金がないから売れそうなものは何も持っていなかった。
もうプライドも売っぱらっちまったから靴を舐めるみたいなことは一通りやった。
どうして金がないのかわからなくなってどうして金がいるのかももうわからなくなってきた。
とりあえず頭の隅にこびりついた「金さえあれば」といういつか自分が漏らした声だけが
ずーっとずーっと響いて響いて大きくなってそれに支配されていた。
男は自分でも買えるものを探した。
金に変えれそうで、自分でも買えるくらい安価なもの。
ネットオークションは誰かが売ったものなら何でも買える。
違法な注射器や出所のわからない映画の違法DVDでも。
男は金が欲しかったからそんなものは求めなかったが。
金が欲しいのに金で買えるものを探すと言うのはどう言うことだろう?男はもうよくわからない。
男の中で金と金塊と経世済民が茹で上がってゲシュタルト崩壊して混ざって固まってキャラメリゼされた頃、
不思議なページをスマホが映し出していた。
画面の中のリスト、10件程度、全て小さな虫籠だった。
よく見るとその奥に黒いカミキリムシのようなもの。
だが足は2本、腕も2本、昆虫というよりは人のような影。
触覚があった。
オークションなのだから値札はまばら。ただしどれも10円前後。中には0円でも引き取って欲しいという記事もあった。
品名はどれも同じ。悪魔。
売った悪魔はどれもすぐに買われていた。そして誰もが買って一週間程度で再度売り払っていた。
どうしてこんなものを自分が検索しているのかわからないが、
今は悪魔に魂を売ったって金が欲しい。
安いから自分の寒い懐でも買える。役に立たなければこのリストのやつらと同じように売っ払えば良い。
冷静に考えれば、単なる虫ケラであれば10円程度の儲けにしかならず、もしも本・物・の・悪・魔・で・あ・れ・ば・魂をとられる羽目になるはずなのだが最早彼には正常な判断能力は残っていなかった。10円であろうが0円であろうが持ち主が売りたがると言う事も十分考慮すべきだったが、それも気付かなかった。
リストの中からまだ売買可能なもの、15円で売られている悪魔の購入ボタンを押した。
すぐに落札。そのまま決済される。
三日後、小さな包みが届く。男は焦る辿々しい手つきで包みを開ける。
小さな虫籠。その中にいる小さな虫のような生き物。
それはきいきいと鳴いた。
姿はよく見えない。
男はよく覗き込む。だがどこか影になって姿はよくわからなかった。
男は言った。
「さあ悪魔よ、願いを叶えてくれ。ともかくたくさん金がいるんだ。条件は何だ、死後の魂を売ればいいのか?」
悪魔はきいきいと鳴くのをやめた。その代わり何か小さな声で一言発した。
「うん?どうした。早く叶えてくれ」
男がそういうと、悪魔はまたもボソボソと何か言った。
「何だ?聞こえるように言え」
悪魔はまだボソボソと話し続けている。
あまりに聞こえないので男は虫籠の戸を開けて耳を近づけた。
途端、とてつもなく素早い動きで悪魔は耳に入ると男の脳髄を全て食い荒らした。
男は手足をビクビク痙攣させながらおごっとかあがっとか叫んだ。
自身の意志というよりそれは生理的な反射だった。
そして悪魔は反対側の耳から出ると男のスマホを掴んだ。
死んだ男の指を持ち上げて指紋認証させ、ネットオークションサイトを開いた。
そして買った悪魔をすぐに販売、10円程度で、と入力。実行される。
「安値で売れば、金に困って自堕落でこの際悪魔を買ってもいいような、そして悪魔が食い殺しても誰も探さないような人間がすぐに見つかる。便利な世の中になったものだ」
悪魔はそういうともう一度きいきいと鳴いた。
男は金を手に入れられなかったが、もう困ったと思うことはなかった。
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