第6話

 最初は一人の少年が発病したのだった。夜中に突然、吐き気と頭痛を訴えた。それから間もなくして少年は嘔吐し、高熱と脱水によって寝込んでしまう。


 母親はすぐに医者に見せた。医者は、悪質な胃腸風邪であろうと診断した。薬を処方し、適当な処置をして、それだけで済ませることにした。


 しかし、少年の症状は一行に治らず、そればかりか悪化する一方であった。熱はどんどんと上がっていき、口に水を入れても、すぐに戻してしまうというありさまである。額に乗せた氷嚢はあっという間に溶けてしまうほどであり、少年は薬も口にできないほどに衰弱していた。


 そして奇妙なことに、少年の腹部には紫色の発疹ができていた。それは症状が悪化していく度に広がり、少年が体力の限界を迎えるその時には、上半身はほとんど発疹に埋め尽くされていたのである。


 少年は一週間と持たず亡くなった。


 少年を診断した医者は驚いた。ただの胃腸風邪の症状で人が死ぬことなどありえないと思っていたからだ。


 しかし、実際に人が亡くなっている。医者はクリミズイ王国中の医療界隈にそのことを報告し、その症状の原因と対処法を特定するよう要請した。


 国中の医療関係者が動いた。医療が発達しきり、技術の停滞を感じていた彼らにとって、この新しい病状は進歩へのきっかけとして十分であるものなのだった。少年の遺体の処遇を決めるために、あちこちの権力と金が飛び交ったほどである。


 だが、少年の解剖権を獲得した医者は驚愕することになった。


 少年の体内には何の異常もなかったのだ。


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