第7話 新たなる支配者

 広大な規模を誇っているだけあって、施設の入口もかなり大きい。警戒しつつジュマーミの中に入ると、さっそく〈ムスタ〉どもが待ち伏せの銃撃で俺を迎えた。奴らもここを守るのに必死なんだろう。

 悪いけどな、お前らの豆鉄砲じゃ今の俺には効かねぇんだよ。

 銃弾の雨で歓迎してくれたお礼に、こっちも銃弾を一人ひとりにお見舞いしてやった。

 奴らをってから気付いたのだが、銃弾が貫通したせいか、周辺に置いてあった物を色々と壊してしまったようだ。そういえば、ライアから中の物は壊すなと言われてたっけな。この中でレサイドを使うのはやめておくか。

 さっきここへ逃げていった〈ムスタ〉どもがいたな。どこに隠れやがったんだ? それに、逃げた奴以外にもまだ〈ムスタ〉はいるのだろう。全員見つけ出してやる。

 それにしても、マジででけぇなここ……奥にも横にも、売り場が延々と続いている。まるで倉庫みたいだ。今俺が立っている所から左の方には、陳列棚に缶詰や瓶、ボトル類の物が多く置かれている。こっちは食料品のコーナーだったのだろうか。逆に右の方の陳列棚には、様々な雑貨類が置かれていた。日々消費していく食料品を扱う左の方に比べて、右の方はいまだに物が多数置かれている。

 店内に奴らの気配がするものの、姿は見えない。陳列棚の物に紛れて隠れているのだろうか。


「さっさと出てきな、ゲスども! 俺から隠れられるなんて思うなよ!」


 俺はルーカムを手にしながら、まずは隠れている奴がいる可能性の高い、雑貨のコーナーの方へと向かった。

 ラジュラの連中はこういう状況において、気配を消すのにもけていた。おまけに使っていた武器は性能がいいものばかりときていたから、以前の俺も隠密戦では、結構奴らに対してビクビクしていたものである。

 だが、今は違う。恐れているのは奴らの方だ。

 通路を歩きながら神経を研ぎ澄ますと、三つ先の陳列棚の方で、誰かの気配を感じ取った。俺はすぐさまそこまで行って確かめてみる。しかし、誰もいない。

 気のせいか? いや、たぶん陳列棚の奥の側面に隠れているな。俺が通り過ぎたら、隣の陳列棚に移動してまた隠れるつもりだったのか? 甘いな! 

 俺は一気に陳列棚の奥の方へと走る。そして、隣の陳列棚を覗いてみると、やはり〈ムスタ〉の奴がいた。


「ひぇ! やめてくれ! 殺さないでくれ! 頼む!」


 ――それは無理な相談だな。


 問答無用でルーカムをそいつにブッ刺して始末する。

 すると、それを感じ取って動揺でもしたのだろうか、周りのあちこちから〝獲物〟の気配がした。


「一人ったぜ。次はどいつだ?」


 俺はあえて大声を出し、さらなる動揺を誘った。

 荒い呼吸音が聞こえる――さぁ、二人目の〝獲物〟だ。

 俺は再び走って追い込むと、二人目の〝獲物〟は慌てて通路の方へと逃げていった。


「面白れぇな、頑張って逃げてみろよ」


 二人目の〝獲物〟は悲鳴を上げながら、必死に走っていく。

 ふん、無駄なあがきを。そう思いながら、俺は一気に二人目の〝獲物〟との間合いを詰める。

 とその時、二人目の〝獲物〟が急に倒れた。

 なんだ? 入口の方に目をやる。


「アルフ、私たちも手伝うわ」


 ライアたちだ。俺一人でも十分なのだが、複数でやった方が効率はいいのかもしれない。


「分かった、気を付けろよ。〈ムスタ〉どもは商品の陳列棚とかに隠れてやがる。俺は店内を駆け回ってっていくが、お前らは慎重にな」

「俺たちを甘く見んなよデカブツ。お前と俺らとで、どっちが多くれるか競争だ」


 クレスが不敵な笑みを浮かべ、挑戦状を俺に突き付ける。


「ジョートーだ」


 それに応じた俺は、ひたすら店内を走り回った。もう気配を感じ取って、なんてのはやめだ。〝かくれんぼ〟から今度は〝鬼ごっこ〟だ。

 俺の動きに焦ったのか、隠れていた〈ムスタ〉どもが慌てて次々と通路へ飛び出していく。必死に俺から逃げようとするも、俺に追いつかれてられる奴もいれば、ライアたちに狙撃される奴もいた。中には必死に抵抗する奴もいたのだが、結果は同じであった。

 雑貨コーナーから衣料品、家具や家電のコーナー、食料品コーナーからフードコート、バックヤードの方に至るまで、店内の隅々を探し回って〈ムスタ〉どもを駆除していく。

 家具のコーナーの辺りでは、店の物を利用したのだろうか、災害時の避難所みたいに、各自の居住スペースがカーテンで仕切って設けられていた。奴らもここで暮らすために、色々工夫をしていたのだろう。


 ――だが、それも今日で終わりだ。


 初めのうちはクレスに言われた通り競争するつもりでいたが、次第に俺とライアたちの息の合った連係プレーへと発展していき、店内の〈ムスタ〉どもが、一人また一人と倒れていった。

 気が付くと、店内にいる〈ムスタ〉の気配は、完全になくなっていた。


「もうこの店内にはいないと思うぜ。奴らの気配が完全になくなった」


 俺がライアたちに状況を報告すると、


「やるじゃねぇか、デカブツ。期待以上の働きっぷりだったぜ」


 あのクレスから、思いがけない称賛を得た。


「アルフ、あんたマジで最高だよ」

「ホント。病院のブラスたちも、順調に事が進んでいるみたいよ。あんたのおかげで、だんだん希望が見えてきたわ」


 ロイスとメリアも、クレスに続くかのように俺を称える。


「そいつはどうも」


 ふと、ライアの言葉を思い出した。


 ――みんなに信用されたいのなら、町のためにまずは行動で示すことね。


 クレスが認めてくれたぐらいだ。このまま作戦を成功させれば、きっと町のみんなも俺を受け入れてくれるはず。

 今の俺は、まさに無敵の存在そのものである。人間だった時に比べれば、何もかも差は歴然。怖いもの知らずだ。なんだかずっと、このままの姿でもいいような気さえしてきた。


「あんたたち、まだ終わりじゃないわよ。農園や畜舎の方も確保しなきゃ。そこにもきっと隠れてる奴がいる。最後まで油断しちゃダメよ」


 セラームのリーダーであるライアが、緩みかけたチームの気を引き締め直す。確かに〈ムスタ〉を全滅させるまでは、終わりじゃない。


「あいよ。農園や畜舎は、食料品コーナーの方から行けるみたいだぜ」


 店内の〈ムスタ〉どもを駆除している時に見かけたのだが、店の入口とは反対側にある、食料品コーナーの出口を出ると、農園や畜舎に行けるようである。


「お前、マジでここに来たことないんだな」


 クレスが呆れたような口調で俺に言う。


「こんな凄い所だとは思わなかったぜ。食べ物さえしっかり確保できりゃ、ずっとここで暮らしていけるな。〈ムスタ〉のゲスどもには、ふさわしくない楽園だ」

「ああ、その通りだデカブツ。ここは俺たちにこそふさわしい場所さ」

「セラームの住民たちも喜ぶだろうな」

「そうだな。早くみんなを安心させてやりてぇな」


 農園や畜舎の方へと向かいながら、クレスとそんなやりとりをしていると、


「ねぇ、ブラスたちが病院を制圧して、抗生物質を手に入れたって。〈ムスタ〉のリーダーも確保したみたいよ」


 メリアから朗報が飛び込んできた。どうやらブラスのチームが、無事に作戦を成功させたようである。

〈ムスタ〉のリーダーね。どんな奴か知らんが、後でゆっくりとみにくいツラを拝んでやる。


「よくやったわ、ブラス。私たちも、あと一歩のところまで来ている。――ええ、何もかもアルフのおかげよ」


 ライアが無線機越しにブラスと俺を称える。


「チッ、先を越されちまったか」


 するとクレスが、わざと悔しがるような素振りを見せた。


「んじゃ、俺たちもさっさと害虫駆除を終わらせねぇとな。デカブツ、先に出て様子を見てくれ」


 そして、俺に指示を出す。


「あいよ。ちょっとそこで待ってろ」


 俺はライアたちを出口の前で待機させて、ゆっくりと農園や畜舎の方へ出てみた。

 その時だった。


「出ていけ化物! ここは俺たちの場所だ! うおおおおお!」


 突然、右の方からすさまじい怒声と銃声が響き渡った。

 これまで俺にビビったり、ひるんだりしていた〈ムスタ〉どもとは一味違う奴が出てきたようである。

 プロレスラーみたいな体格をした、鼻下から顎にかけて髭を蓄え、頭を丸めた男が軽機関銃の二丁撃ちで乱射してきた。しかも俺に向かって近づきながら、だ。

 随分と勇ましい奴だな。

 今までにない〈ムスタ〉の行動に思わず驚いてしまったが、俺は銃弾の雨へ飛び込み、そいつを頭から縦にルーカムで真っ二つにしてやった。

辺りが一気に静まり返る。


「ちょっと、大丈夫!? アルフ!?」


 ライアたちが慌てた様子で出てきた。


「ああ、大丈夫だ。急に捨て身の攻撃を仕掛けてきた奴が出てきてな」


 捨て身野郎の真っ二つになった死体を見下ろしながら、俺は自身の無事を伝える。


「追い詰められて自棄やけになったのかもしれないわね。みんな気を付けましょう」


 周囲を見回すと、板金のフェンスで囲まれた中に、右手には色んな野菜や果物を栽培している農園が、左手には牛や鶏に羊といった動物たちが飼育されている畜舎があった。奥の方には貯水池のようなものまで見える。


「よかった、やはりここはそのままみたいだ。これで食料の問題は解決できる」


 ロイスがほっと胸をなでおろす。


「二手に分かれましょう。私たちは農園の方を見てみる。アルフ、あなたは畜舎の方を頼むわ。くれぐれも動物たちを傷付けないようにね」

「へいへい、そっちも自分自身が傷付かないように気を付けろよ」


 ライアの指示で俺は畜舎の方へと向かった。本当は一緒に行動した方がいいのだろうが、ライアたちの戦闘能力を見た限りでは、もう心配する必要もなさそうである。

〈ムスタ〉の気配を探りながら、通路を歩いていく。畜舎の動物たちが、俺に向かって威嚇するかのようにうなり声を上げている。今までの騒ぎのせいで、目が覚めて興奮状態になっているのだろうか。


「悪い悪い。もう少しで終わるから我慢してくれ。〈ムスタ〉どもにこき使われてたんだろ? もうすぐ解放してやるから。もしこの辺に奴らが隠れているんだったら教えてくれ」


 俺は動物たちを落ち着かせようと話しかけた。畜舎は一つ一つの空間が広めに作られており、動物たちがゆったりと過ごせるようになっている。とはいえ、ここで派手に暴れるわけにはいかない。一人ひとり見つけ出し、動物たちを傷付けないよう慎重に奴らをる必要がある。

 ところが、奴らの気配が一向に感じられない。こっちにはいないのだろうか? 奴らもさすがにここで戦おうとは思わないか。

 とうとう畜舎の端の方まで辿り着いてしまった。

 戻ってライアたちを手伝うか。

 そう思って引き返そうとしたその時――俺はかすかな動物たち以外の気配を感じ取った。一番端の、生まれたばかりのような小さい子牛と一緒にいる、黒い牛の所からだ。


「テネス……? テネスよね……?」


 怯えた感じの声が聞こえてきたかと思うと、黒い牛の横から、一人の女が出てきた――。


「お前ら、無事か?」


 農園の方からライアたちがやってきて、食料品コーナーの出口の所で合流した。


「ええ、大丈夫よ。農園に奴らはいなかった。納屋があって、そこがなんだかジェスの〝武器工場〟みたいになっていたわ。そっちはどう? ちゃんと片付けた? 動物たちは無事よね?」

「――ああ、ちゃんと始末しておいたぜ。動物たちもみんな無事だ」

「よかった。何はともあれ、私たちの勝利よ。あなたのおかげだわ、アルフ。これでセラームのみんなに平穏が訪れる」


 ライアが笑顔を浮かべ、俺の功績を称える。

 ま、そりゃそうだろ。これだけの武装した連中をお前らだけで相手しようなんて無理がある。今の俺が味方にいたからこそ、成し遂げられたことだ。


「ブラスたち、〈ムスタ〉のリーダーを連れて駐車場の所にいるみたいよ。合流しましょう」


 メリアからの知らせを聞き、俺たちは駐車所に向かった。


「みんな大丈夫か? ケガはないか?」


 ジュマーミを出ると、病院での任務を終えたブラスのチームが待っていた。何やら左目に切り傷の入った男が、ブラスの前でひざまずいている。こいつが〈ムスタ〉のリーダーか。


「ええ、みんな無事よ。アルフが奴らの気を逸らしてくれたおかげでね。一応この中の奴は全員始末しておいたわ」


 ライアがブラスにジュマーミ制圧の報告をする。


「よくやった。俺たちも病院の中の〈ムスタ〉を排除して、抗生物質を手に入れた。作戦は成功だな。それと、こいつはザクス。〈ムスタ〉のリーダーだ」


 ブラスが跪いているザクスの後頭部に、銃を突きつける。

 すると、ライアがザクスの前に立った。


「腕や脚を切り落とした人たちをフェンスに括り付けるなんて、随分素敵なことをするのね、このゲス野郎」


 そして見下ろしながら、冷ややかに言い放つ。残虐な〈ムスタ〉を束ねているというだけあって、ザクスは威圧感のある強面こわもてな顔をしているが、こんな状況のせいか、すっかり怯え切っている様子だ。


「ゲス野郎はどっちだ! 俺たちはここで普通に暮らしていただけだろうが!」

「『普通に暮らしていただけ』? 腕や脚を切り落とした人たちをフェンスに括り付けて?」

「フェンスのあれはアブリの習性を利用して、奴らをジュマーミに近づけさせないためにやっていただけだ! 偶然見かけたんだよ、奴らが腕や脚の欠けた死体には手を付けずに、その場から去っていくところを。死体を変異させにくいからかなんなのかは知らないが……だからあれを利用して奴らを引き返させたり、駆除するのにおとりとして使わせてもらったんだよ。それに、ここを奪おうとする野蛮な連中を近づけさせない効果もあった。こんな世界だし、生き延びるためにはなんでもやるしかなかったんだ! なのに、仲間を皆殺しにするなんて……」


 ザクスが必死に自分たちには非がないかのように訴えかけ、俯く。


「アブリって、あの化物のことね?」

「ああ、そうだよ!」

「へぇ、そう。いいこと教えてもらったわ。じゃあ、あんたの腕と脚を切り落として、フェンスに括り付けておけば、奴らを追い払うのに使えるわけね」


 ライアがうっすらと笑みを浮かべる。


「そうだな。こんな世界だし、生き延びるためにはなんでもやるしかないしな」


 ブラスも、ザクスの言葉をなぞるように言いながらわらった。


「でも、それだけじゃ物足りないわね。あんたには、私たちの町のために働いてもらう。そうね、まずはここの〈ムスタ〉の死体を綺麗に片付けてもらおうかしら。その後は畑仕事や洗濯に掃除、あらゆる雑用をやってもらう。その身が干上がるまで、私たちに尽くしてもらうわ」

「ちくしょう! ふざけやがって! 俺は元ラジュラの隊長だぞ! この国のために戦ってきた男だぞ!」

「へぇ、そうなの。それはご立派なことね」


 ライアが「だから何?」といった感じで、大声でわめき散らすザクスを見下すように言う。

 こいつが元ラジュラの隊長!? やはり、〈ムスタ〉はラジュラに関係していたのか……。


「だいたいその化物、一体何なんだよ!? なんでお前らのことは襲わないんだ!?」


 跪きながら、ザクスが俺に向かって叫んだ。


「彼は私たちの仲間。こんな見た目だけど、元は人間なの。誰だと思う? あんたが知っているはずの人物の生まれ変わりよ」

「なんだって!?」


 ライアが俺のことを話すと、ザクスは怪訝そうな顔でこちらを見た。


「憧れのラジュラの隊長が、こんな奴とはね。アルフ、お前ホントにこんな奴の下にいたのか?」


 ブラスが呆れたような顔で俺に言う。


「アルフ?」

「そう、アルフ。元ラジュラの隊員。知ってるわよね?」


 ライアがザクスに問い詰める。


 ――まずい! 俺が元ラジュラの隊員などではないことがバレる!


「アルフ? そんな奴――」


 ザクスがそこまで言った時、俺は咄嗟に横から奴を斬りつけていた。

 奴は即死し、あっという間に辺り一面が血の海となる。ライアを始め、そこにいた全員が愕然とした。


「ちょっとアルフ! 何やってるのよ!?」


 ――危なかった。あれ以上こいつに何か言われてたら……。


「こんな奴の話なんか、もう聞かなくていい。昔から部下のことをただの駒にしか思ってない、最低のイカれ上官だったからな。どうせ俺のことなんか覚えてないだろう。せいせいしたぜ」


 これで〈ムスタ〉を全滅させたことにより、内から湧き上がる〝あれ〟が収まってきた俺は、例によってその場をなんとかごまかそうとした。


「なんで殺しちゃうのよ!? こいつには利用価値があったのに! こいつを捕虜として生かすことで、私たちの力を外部に見せつけることができたのに!」


 すると突然、ライアが狂ったように俺を責め立てた。その様子からは、狂気じみたものすら感じられる。


「もういいだろ。一旦引き揚げるぞ。抗生物質を病気の奴らに与えないといけないんだろう?その後でここを綺麗に片付けようぜ」


 そんなライアに驚きつつ、俺は今後の対応について提案した。


「リーダーはこの私。あんたは私の指示に従っていればいいの! 勝手な真似しないでちょうだい!」


 ところが、ライアが再び俺に食って掛かる。

 一体どうしたというのか……? こんなライアの姿を見るのは初めてだ。


「マルスにも見せるのか? その捕虜の姿とやらを? お前はリーダーである以前に、一人の母親だろ!?」


 俺はふとマルスのことを思い、冷静になるようライアに呼びかけた。


「余計なお世話よ!」


 ――どうも様子が変だ……まるで急にネジが外れてしまったかのように取り乱している。


「まぁまぁ、アルフの言う通りだ。抗生物質を早く届けてやらないと。話はそれからだ」


 俺たちを見かねてか、ブラスが間に入ってきた。

 ライアは一瞬ブラスを睨みつけたが、軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻す。


「それもそうね。仕方ないわ、一度セラームに引き揚げましょう」


 そして皆を手招きながら、ジュマーミから離れようとした。


「ちょっと待てよ、ライア。せっかく奪ったんだ。少しここに見張りを置いといた方がいいんじゃないか?」


 しかしクレスに引き留められると、再び苛立いらだちの表情を見せ始めた。


「俺が残って見張っておこう。お前らはセラームに戻れ。ここは俺一人で十分だ」


 そんなライアを見て、俺は見張り役を自ら申し出る。


「そいつはありがたい。ついでに奴らの片付けと、掃除もしておいてくれると助かるんだがな」


 クレスにそう言われて、そろそろ俺もこいつに楯突たてついてやろうかと思ったのだが、今のやや険悪なムードを考慮し、その頼みも素直に引き受けてやることにした。


「分かったよ。やっておくから、さっさと戻りな」


 俺は「あっちへ行け」という感じで皆にしっしと手を振る。


「悪いわね。掃除は戻ってきたら一緒にやるから、とにかく見張りの方を頼んだわよ」


 すると、ライアの表情が何事もなかったかのように素に戻った。

 そしてセラームの戦士たちは、


「お疲れ、よろしく頼んだぜ」


 だの、


「あたしらも手伝うからさ、少しの間だけ留守番お願いね」


 だのと俺に言い残し、ジュマーミから去っていった。

 俺はそれを見送ると、一人寂しく〈ムスタ〉どもの片付けから始めた。


「さてと、仕方ねぇ。ゴミ掃除でもするか」


 まぁ大半の奴を俺がったしな、どっちみち俺がやるべき作業のような気もする。

 俺はジュマーミにあった大きめのカゴ台車に〈ムスタ〉どもの死体を押し込み、できるだけ離れた所へ運んで、焼却することにした。

 ついでに、フェンスに括り付けられていた哀れな者たちのことは、別な場所に運んで、土の中に埋葬してやることにした。

 それにしても、あの時ライアに一体何が起きたのだろうか?

 俺はどうにもに落ちないまま、片付けと掃除を行い続けるのであった。

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