第35話 姫の歌の中で
翌日、文化祭最終日。みんなが楽しむ中、俺とあかねは一緒に指定の病院に寄り、診察を受ける。結果、やはり何の異常もなく、午後から晴れて文化祭に参加となった。
だが正直、かなり怖い。
昨日のことは、どう受け止められているのだろうか。変なペンギン野郎が乱入し、説教をかましてきたかと思えば、アクシデントから王子とはやし立てる流れになり、何がなんだかわからない内に閉幕となった。まとめると、やはり意味がわからん。
「お、ペンギンズの片割れ」
登校するなり、右京と佐藤にからかわれる。「それはいいから」といなしつつ、探りを入れてみた。
「朝、北大路とマジョが真面目な様子でみんなに話があるって言ってさ」
そこから根掘り葉掘り聞くと、『プリンスが姫にアプローチをしていたが、姫本人はその気がなく対応に困っていた。陰キャだからこそ相談しやすかった、すなおうじと土屋さんを頼った結果、二人が汚れ役を引き受けてまで姫を助けた』とのストーリーでまとまったらしい。プリンスのファンの様子も、彼本人が潔く迷惑をかけていたことを認めたため、あかねにネガティブな感情を向ける様子もないようだ。
……なるほど、うまく繋がってるな。あかねと俺の関係も隠されているし、マジョと芽依ちゃんが頑張ってくれたことは想像に難くない。
……本当に、芽依ちゃんに頼るのはこれで最後にしよう。
「ところでよ!」
急にうやうやしく、佐藤が肩に腕を回してきた。
「一年B組の喫茶店行こうぜ? お茶、飲みたいだろ?」
右京がニヤついて、眼鏡に手をやっている。気持ち悪っ。
「飲みたいだろって決めつけられても。別にいいけどさ」
何か企んでんなと思いつつ、一年B組の教室へ。
まあ、こういうのは学生の喫茶店っていう雰囲気が大事で、クオリティは求めるもんじゃねえからな。ちょっと休むくらいで――
「……………………!」
「あら、塔司く……お帰りなさいませ、ご主人様。なんてね」
芽依ちゃんが! メイド服を着た芽依ちゃんの出迎えアアアア! 落ち着け!
紺を基調とした、スカート丈がしっかり膝下まであるワンピース。それに白いエプロンと、頭にはホワイトブリム。いかにもコスプレですという感じではない、本格的なメイド服。
は??
殺す気??
かわいすぎて俺を殺す気なの?? ねえ?? 俺殺すの楽しい?? やめて??
笑顔もかわい死ぬからやめて?? いややっぱり笑って??
「B組の子が一人、急に熱出しちゃって。助っ人に呼ばれたの。似合う?」
「似合うなんてもんじゃないよ! 穴という穴から脳漿が出る!」
「褒める表現が独特すぎるわ」
かわいすぎる! やばい、永久保存版じゃん! 俺にとって永久じゃなくて、この宇宙において永久って意味な! わかるか!?
「じゃ、ご主人様こちらへどうぞ」
「ご主人様お飲み物は何になさいますか?」
気持ち悪い笑みを浮かべる右京と佐藤とともに、アールグレイを楽しむ。
「……おいしい」
温度はちょうどよく、香りも豊か。丁寧に淹れられているのがわかる。
しかし……うーん、二人ともすまぬ。『実は俺、昨日芽依ちゃんにフラれてるんだよ』……とは、言い出せず。
瞬く間に時は過ぎ、後夜祭。
すっかり日が落ちた中庭のステージで、プリンス所属の軽音楽部の演奏が行なわれていた。興味のない右京と佐藤は教室で駄弁っていたが、俺一人だけ、昨日と同じ場所で窓から顔を出して見下ろしていた。
『――急遽、当日オファーにも関わらず、来てくださいました! プリンセス、どうぞー!』
「えっ」
大袈裟な身振りでマイクパフォーマンスするなぁと思ったら、呼ばれて飛び出てお姫様。
制服姿のいつものあかねが、歓声に迎えられていた。やはり手を振って笑顔で応えている。
「聞いて下さい、『銀河鉄道999』」
俺の好きな曲の一つ、あのゴダイゴの『銀河鉄道999』。そのイントロが聞こえ、あかねが歌い出す。
……うまっ! お前そんなに歌上手かったのか! 初めて知ったわ……。
あと、お前はやっぱ、制服が一番似合うよ。
「……歌、上手いんですね、氷室さん」
「うん……」
えっ!?
「芽依ちゃ……土屋さん?」
傍らに、芽依ちゃんが来ていた。もちろん、今日は二人ともペンギンズではなく、制服姿。
……間違いなく、俺フラれてるんだよな。昨日の乱入の時はあかねのことがあったから平気だったけど、その相手とどう話せばいいんだ? そもそも呼び方も芽依ちゃんのままでいいのか?
「……文化祭って、中学の時ちょっとあってね。いいイメージなかったんだ」
言いながら、隣のサッシの窓を開け、俺と同じように覗き込む。
「私が言っちゃダメなんだけど、正直言うとね、こういう楽しさ久しぶり」
ああ、微笑む顔かわいい……。
とっさに浮かんだのは、そんな言葉。
「全然、ダメじゃないよ。あの時、ハッキリ言ってくれて吹っ切れたんだ。ありがとう」
「うん、あれが素直な気持ち。
……でも、こうも言いましたよ私。今は……って」
サッシを隔てる框越しに、彼女は茶目っ気たっぷりに舌を出した。
――そっか。かわいいなら、かわいいでいいんだ。
そんなところに、ウソなんかつかなくていいんだ。
決めた。
もう一度が許される時が来たら。次こそはちゃんと、順番を守って俺から告白しよう。
★次回『新しい命!?』につづく。
面白かった!という方は★・コメント・フォローよろしくお願いいたします。
※残り2話、全37話となります。
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