第33話 王冠を奪え
「これにて、すべての発表が終わりとなります」
マイク越しにあかねの声が聞こえた。これまた作った声だ。舞台の上では、水色のパーティードレスと、ティアラをつけておめかししたあかねが立っていた。左隣には、どこで手に入れたんだか、白スーツの出で立ちのプリンス……もとい北大路。頭には上に突起が伸びたタイプの王冠を被っている。
「……実は、姫、この場を借りていいたいことが」
アッこのやろう、手ぇ出しにきやがったな!
俺の内心とは裏腹に、その途端、観衆から「おおっ!」とわざとらしく声が上がった。
……お前ら、それでいいのか。『自分が納得できるストーリー』がありゃ、それでいいのかよ。
完全アウェー。ハッタリでもいい、ビビったら飲まれる!
力いっぱい叫べ!
――おーいコラーーーーー!!
「「「…………………………………………」」」
ポカンとする観衆。当然だ。その隙を突いて、俺と芽依ちゃんは中央の花道を駆け、勢いのまま跳ぶ。二人の前に、二人で着地。北大路とあかねの間を遮って、立ち上がる。
あかねはギョッと目を丸くしていた。姫のあだ名も形無しの顔だぜ。
壇上で体を翻すと、空気はまだ凍りついているのをありありと感じる。
先手を打て! なんでもいいからこの場をかき回せ!
「俺たち一年A組、ペンギンズです!」
今はじめて公にしたコンビ名と、自分でもわからない左腕と左足を突き出した謎ポーズ。
「でーす!」
完全アドリブなのに、瞬時に合わせてくれる芽依ちゃん。正式にペンギンズの誕生だ!
「……な、なんなんだ?」
声を上げる北大路。怒りより困惑の色が強いな。当たり前か。スッと鼻の通ったイケメンぶりも、口をポカンとあけてちゃ台無しだ。
北大路、お前さんには確かに悪いと思ってる。本来、俺に君の恋路を邪魔する権利なんてない。
でも、あかねが困ってるなら話は別だ。俺は、たとえお前さんに恨まれても、あかねの味方をするよ。人間って、そういうもんだろ?
俺はボサッとしてる北大路の右手から、マイクを奪った。ハウリングの後――
「うるせープリンス! 二回も氷室さんに告っといて、二回ともフラれてるらしいじゃねえかお前!」
言ってやった。
やや遅れて、
「――ええ~~~!!」
どよめきが広がる。
いいぞいいぞ、どよめけどよめけ! カオスを作れ!
「氷室さん、あなたも、ムリならムリってもっとハッキリ拒絶しなきゃダメよ。相手はチャンスが少しでもあると思うから引かないのよ」
芽依ちゃんもあかねからマイクを借り、訴えた。あかねは「えっ、はっ、はあ」とぼんやりした返事。
芽依ちゃんがここまで合わせてくれてんだからな、感謝しろ――と、視線を送る。
「…………」
涙ぐんでいた。
なんだ、わかってんじゃねえか。
「ちょ、おい! ホントになんなんだ!」
狼狽えた北大路の隙を突いて今度は頭の王冠を奪い、俺の頭に載せる。
直感、完全にノリだ。お前に王冠は似合わねーよ。
「プリンス、いや北大路! 二回も告白するのは、すごいことだと思う! フラれるのも辛いよな! しかも二回も!でも俺なんかな、告白する前にフラれたんだぞ! その辛さわかるか!? おっとそれは置いといて! いいか!? だからってな、断れない状況に追い込むのは、許されないだろ! 第一オーケーもらったって、破綻することは自分でもわかってるハズだ! それは自己中な気持ちの押しつけだ!」
きっと、観客側は何を言っているのかわからないだろう。まだ演出の一環なのかと勘違いしているのかもしれない。
でも、俺が期待していたストーリーを妨害していることはわかる。
だから――
「……誰? いい加減引っ込みなよ」
どこからか上がった声に、同調する。
「ブーーーー! ブーーーー!」
ブーイングが上がった。
声だけで、態度だけで、誰も舞台に上がろうとはしないくせに。
いいぜ、その声とサムズダウンに、正対してやろうじゃねえかこのやろう!
「お前らもだよ! 諦めを誰かのせいにして、それでいいのか! その諦めを押しつけられた相手が、どんな気持ちか考えたことあんのか!? お前らが姫とかプリンスとか言っている相手はな、同じ人間なんだよ! イヤなこともムカツクことも弱いところもバカなところもある、人間なんだよ! 負けを認めるなら、捻くれんな、素直に負けを認めろ!」
………………………………。
沈黙。
よし、この空気にまでなったら、北大路も今は告白を諦めるだろう。
「……うるせえな。もういいよ!」
案の定、北大路は踵を返し、舞台袖へ。
しかしまだ頭は混乱していたのか、足取りがおぼつかない。左半身を思い切り背後のセットにぶつけた。
「クソッ!」
怒りにまかせてそのセットを蹴る。
するとセットはぐわんぐわんと大きく揺れ――
「……え」
――判断は一瞬。
芽依ちゃんを思い切り突き飛ばし、壇上から落とす。
そして、あかねを腕を取って引き寄せる。
ドガンッ! と、セットの倒れるけたたましい音が、会場に響き渡った。
★次回『本物の王子』につづく。
面白かった!という方は★・コメント・フォローよろしくお願いいたします。
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