第9話 マイン交換作戦
で、午後は化学やら体育やら教室戻って数学やらと教室移動コンボが続き、芽依ちゃんと話せるタイミングはなく、放課後。
「うるさくして、ごめんなさいね」
あかねが、俺と芽依ちゃんの間に立っていた。姫のあかねは、当然昨日をはじめ芽依ちゃんと何度か話している。俺も目撃しているし、見ていないところではもっと話しているのかもしれない。
だが、あかねが午前のことを蒸し返してまで話そうとするのは、変だ。そんな深い仲ではないし、何度も謝ることでもない。
「ううん、別に。もう気にしないで」
帰り支度の手を止め、あかねの向かい側、姫の側近の橋本さんにも微笑みを返す。
「話変わるんだけど、土屋さんって埼玉方面から来てるでしょ? 今度、埼玉方面の光武東上線ユーザーを集めて、遅延情報とかを共有するグループを作ろうって企画があってね。よかったら、マインアカウント交換しない?」
なるほど、本題はそっちか。
「もちろん、構いませんよ」
芽依ちゃんがスマホを手に取る。
と、突如あかねがお姫様スマイルを俺に向けてきた。
「そういえば、確か砂岡くんも埼玉方面から通ってたよね!」
そして、スマホをちらつかせて軽くウインクまでする。
え、急に何……?
[一対一だと身構えさせちゃうから、何人かで交換し合う機会作って、その時流れに乗ってお願いすればいいんじゃない?]
――なるほど、そういうことか!
俺は、あかねと学校で接点を作らないようにしている。俺が徒歩通学していることも知らない設定になっているワケだ。だから、埼玉方面通学の事実だけで自然と俺を巻き込めるって算段か。やるじゃねーか!
「埼玉方面だよ!」
一瞬の空白の後、強く同意。よし、この機会に、芽依ちゃんとアカウント交換しよう! 努めて自然に、自然にだぞ!
席を立とうと足に力を込める。すると、芽依ちゃんがあかねの脇から顔を出した。
「あれ砂岡くん、一学期の時、歩きで来てるって言ってませんでした?」
「うん、そう!」
……あ。
待て待て待て違う違う違う。今の勢いで言っちゃったけど違う。違わないけど違う。落ち着け、俺は、芽依ちゃんとアカウント交換したいだけなんだ。その気持ちには素直でいいが、必ずしも事実に忠実でなくてもいいんだ! 言いようはある。まだ巻き返せる!
「今は違うんですか?」
「今も歩きで来てるよ」
いやいやいやなんでなんで! だから事実には素直で必ずしも気持ちに忠実、あーもう!
「じゃーすなおうじは入れなくて大丈夫だね」
橋本さんのダメ押し。
「……アカウント、うん、交換できた。ありがと……」
アカウント交換なんて慣れた人ならすぐに済む。あかねは、手を振って芽依ちゃんの席を後にした。
すぐにスマホが震え、SMSメッセージが到着。
『素直か?』
立て続けに、
『あのさ、【天気の悪い日は電車利用してるんだ】とか言えばいいよね?』
「ああっ、そうだ!」
確かに何度か電車使う日もあった! そしたら、あかねが助け船出してくれれば……いや、そうなるとあからさまに俺を巻き込もうとしてて不自然か……。
すぐに『ごめん! お前やっぱり賢いな!』と返信したが、何も返っては来ず。
「はーあ……」
なんでこんな頭の回転が悪いんだろう。今日は、もうダメだ。明日に期待しよう。
やっと席を立とうとすると、視界の端に茶髪が揺れた。
「お二人さん、今の流れじゃないけど」
「ん、マジョ?」
「【便所前】の縁ってことで、三人でグループ作らない? せっかくご近所になれたんだし」
「へっ!?」
思わぬ助け船! 落ち着いて乗船しろぉ、さっきみたいに踏み外して海に落ちるワケにはいかないぞ!
「お、俺は全然、いいよ」
言ったそばからちょっと噛んでるし……。
「ええ、かまいませんよ」
対して、微笑んで答える芽依ちゃん。
うおったぁー! やった! マジョありがとう!
「あ、えー、どうするんだっけ?」
「はあ? 貸してみー」
モタついている俺からスマホを半ば奪い取ると、慣れた手つきで操作。さすがギャル、慣れとる! 芽依ちゃんとマジョはすでに友だちだったから、俺が二人のQRコードを読み取ることとなった。芽依ちゃんはもうQRコードすらカワイイ! いやそれはないわ、なにその発想気持ち悪っ。
「へえ、砂岡くんのアイコンは特撮ヒーロー物ですか?」
「あ、うん! リアルタイムで見てた作品じゃないんだけどね」
「そういえば特撮大好きって言ってましたもんねえ」
「それでね! これは一九九三年のスーパー戦隊シリーズの……」
「そこまで聞いてねーから」
マジョのブロック。まあいいや。作られたグループから、二人に友だち申請。俺のホームに【あさがみ(マジョ)】と【メイド屋】の二つが新たに追加された。
「……メイド屋?」
「ああ、私、土屋芽依でしょ? 英語の表記にしたら芽依土屋。土をどにして、メイド屋」
「な、なるほど」
「それに漢字にしたら、冥土屋になって縁起悪いですからね」
冗談にフフフと笑う芽依ちゃん。芽依ちゃんがメイドだったら……コスプレな感じじゃなく、スカートの丈が長い、由緒正しきメイドの格好がいいな。
「…………」
……似合いすぎるしかわいすぎる……!
イカン、本人の前でこれ以上の妄想は危険だ。
◆ ◆ ◆
『よろしく!』
『すぐに返せない時もあるかと思いますが、よろしくお願いしますね』
立て続けにスタンプ。鎌を背負ったイタチ、鎌鼬のファンシーなスタンプだった。よく鎌鼬のスタンプなんかあるな。どこで買えるんだろう。
俺も河童で、しかもファンシーとは程遠い妖怪画風のスタンプしかなかったが、妖怪合わせで返しておく。
「お前、顔の筋肉が断裂したのか?」
右京の声にスマホから顔を上げると、佐藤ともども引いた目で俺を見ていた。
「さっきから半笑いで、きーもちーわるーい」
「キショい……キ庶民」
「すなおうじではまがいなりにも王子だったのに、ずいぶん階層下がったな」
ディスられても今日は全然平気。
例によって、帰り道にはマルスエに。今日は朝おばさんに教えられた卵とヨーグルト、それと鮭・ハム・じゃがいもでも買って帰るか、と考えて歩いていると、スマホがまた振動。
芽依ちゃんかな!? ……会話の切ったタイミングから多分違うだろうけども、期待してしまう。
「げっ」
アイコンの形で、マインじゃなくSMSメッセージだとすぐわかった。あかねだ。
『遅い。いつ帰ってくるの?』
『今マルスエの前だから、十五分くらいしたら帰るよ』
遅いと言われても、いつもと大して変わらない時間だけどなア。
あかねがわざわざメッセージをよこしてくるとなると、何か、面倒な事が起きている気がする。気持ち早めに、買い物を済ませよう……。
★次回『Gが出た!』につづく。
面白かった!という方は★・コメント・フォローよろしくお願いいたします。
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