第13話

2人の手合わせを見たことない私からしたらそれがどんなものか気になってしまう。

声をかけても気づいてもらえない可能性が高いため、彼のローブの裾を引っ張る。


「アヴィスさん」

「え、何ですか!?」


やはり近くに居ても歓声でかき消されてしまい、お互いの声が聞こえにくい。

仕方なく彼の耳元に口を寄せて声を張る。


「アヴィスさんって戦えるんですか?」

「魔法だけじゃなくて、近接も遠距離も訓練したから一応戦えますよ」

「見せて頂けませんか?」

「えー…」


突然の申し出に彼は困ったように苦笑いを浮かべた。

しかしすぐに断られなかったことで、押し切ればいいのではないかという悪知恵が働く。

とりあえず何か言おうと口を開いてみる。


「格好いいアヴィスさんが見たいです」

「よし、やりましょう」


あまりにも即決されて逆に私が驚いた。


「いいんですか!?」

「えぇ、だってナルミさんに格好いいって思われたいですし」


アヴィスさんは照れくさそうに頬を掻いた。

私とアヴィスさんのやり取りを見ていたラータさんが、堪らず吹き出す。


「お前チョロすぎだろ」

「うるさいなぁ、こういう時ぐらいじゃないとアピールできないだろ?」


不貞腐れた様にアヴィスさんはそう言った。




それからラータさんは皆に聞こえるように頭上で手を2回叩いた。


「静かに」


張ったわけでもないのにラータさんの声に水を打ったかの様に静まり返る。


「これから俺とアヴィスが手合わせをする。だが、アヴィスはまだ本調子ではないから少しだけだ。それでも見たいか?」


ラータさんの言葉に、先程まで騒いでいた人たちは目を輝かせて大きく返事をした。

どうやら闘技場があるらしく、兵士たちはラータさんの指示でぞろぞろと移動し始めた。


「えー…ナルミさん以外の観客入れるの?」

「その方が盛り上がるだろ」


不満げなアヴィスさんだが、結局諦めて大人しくついていくことにしたようだ。


2人に案内されて着いた闘技場の観客席には、大勢の人が詰めかけていた。

闘技場自体は、世界史の授業で見たローマ帝国のコロッセオのような構造をしており、中央のグラウンドを観客が見下げるような造りをしていた。


「危ないからナルミさんはあそこに座っていてください」


着いた先は闘技場内の中央のグラウンドだったため、通用口から観客席に上がり最前列に座るように言われる。

後から来たのに最前列に座って申し訳ないと思いつつ、少し空いていた長椅子の隅に座らせてもらう。

隣に座っている人も驚いたように私を見てきた。


「悪いが、もし戦いの被害が出そうだったらそのお嬢さんを守ってやってくれねぇか?アヴィスの大事な人なんだ」


ラータさんは私の近くに座っている人に頼んだ。

近くの人は笑顔で了承してくれ、守るように間に座らせてくれた。


「ありがとうございます」

「任せてください」


私はその男性に会釈をして、それから改めて周りを見渡す。

円形状の客席は、ほぼ満席状態で立ち見の人もいる。


「ナルミさん」


周囲を見回していれば、不機嫌そうな声で名前を呼ばれた。

慌てて呼ばれた方を向くとアヴィスさんが私に手を伸ばしていた。


グラウンドと観客席は高低差があるため手を伸ばしたところで届かない。

手を伸ばすのを躊躇していると、アヴィスさんは手を伸ばしたまま微笑んだ。


「僕、頑張りますね。だから応援してください」


私だけでなく、周囲の人も彼の笑顔に惹きつけられてしまったのか息を呑む声が聞こえた。


「は、い…」


きっと顔が真っ赤になっているだろう。

かろうじて返した返事も自分で分かるほど震えていた。

そんな私の反応に満足したのか、彼は嬉しそうに笑って踵を返しラータさんと向かい合う。

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