第12話
「ねぇ、もう逃げないから降ろしてくれない?すれ違う人に凄い見られてるんだけど」
「ん?降ろしたら逃げるだろ」
「何でそう決めつけるんだよ」
「前科あるだろ」
2人の言い合いを聞きながら歩いていれば、ルータさんは「ここだ」と言って足を止めた。
そこは城の奥に設けられたグラウンドだった。
中には屈強そうな男性が沢山おり、剣の稽古をしたり銃の練習をしたりと様々だ。
「今は偶然男しかいないが、女も混ざって訓練するからそんなに身構えなくていいぞ」
「女性もですか!?」
「あぁ、まだまだ母数は少ないが、今ではそんなに珍しいことではないだろう?」
ラータさんはそう言って不思議そうに首を傾げた。
私が言い淀んでいると、担がれたままのアヴィスさんが助け舟を出してくれた。
「ナルミさんはこことは別の世界から来たから、もっと丁寧に説明してあげて」
「別の世界?」
ラータさんはアヴィスさんを下ろしながら、私に詳しく話すように求めた。
もう何度目かになる説明だが、どのように説明すべきか迷ってしまう。
「えっと、私がいた世界では戦争は科学兵器が主な戦力でした。なので、こうやって剣を持って戦うのを見ると新鮮というか…上手く説明できなくてすみません」
「いや、不思議な部分は多いが面白そうな話だな。魔法使いはいたのか?」
「魔法は物語の世界のものだったので、現実世界にはありませんでした。魔法使いを名乗る人にも会ったことありません」
「魔法使いはいないのに魔法という概念はあったのか。なんか面白いな」
ラータさんは顎に手を当てて何かを考え込むような仕草を見せた。
すると、アヴィスさんは私の手を引いて歩き出した。
まだ話は終わっていないはずなのに…。
困惑しながらアヴィスさんを見上げれば、彼はラータさんに向かって口を開いた。
「そんな難しい話よりも折角見学に来たんだし、面白いことしてよ」
「無茶振りすんなって」
そんな話をしていれば、いつの間にか訓練をしていたはずの男性たちが何やらひそひそと小声で話し合っていた。
その視線は私達に注がれており、何とも居心地が悪い気分になってしまう。
「あの、アヴィスさん。さっきから皆さんこちらを見ていますけど……何か変なことでもしましたか?」
「しまった…」
アヴィスさんは表情を引き攣らせ、額に冷や汗を浮かべていた。
それからすぐにローブのフードを被った。
しかし特徴的な青色の刺繍が施されたローブが目立つのか、人はどんどん集まる一方だ。
女性も見られることから、きっとわざわざここに集まってきたのだろう。
そして気づけば私達は囲まれてしまっていた。
「アヴィス様!」
「アヴィス様、いつお戻りになられたんですか!?」
「アヴィス様!また稽古つけて頂きたいです!」
まるでアイドルの出待ちのような光景に、私は呆気に取られてしまった。
しかしラータさんは慣れているようで何でもない様子だ。
それどころか、限界を迎えかけているアヴィスさんをつついて遊んでいる。
「3年ぶりに顔を出したんだから手でも振ってやれ」
「僕は元々こういう場所に向いてないんだって!!」
叫ぶようなアヴィスさんの声は更なる歓声で綺麗にかき消されてしまった。
その様子を眺めていれば、数人の兵士がラータさんに近づいた。
「ラータ様!私たちはアヴィス様との手合わせはもう見ることは出来ないのですか?」
その中の1人の兵士が恐る恐るラータさんに尋ねた。
彼は考える間もなく首を横に振る。
「悪いが、アヴィスもまだ万全じゃないだろうからな」
「そう……ですよね。申し訳ありませんでした」
兵士は残念そうに俯いた。
周りで話を聞いていた兵士たちも明らかに残念そうな顔で落ち込んでいるようだった。
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