第8話
元の世界にいた時からの睡眠不足や栄養失調が祟り、私は1週間経っても退院できなかった。
ルクスさん曰く、なぜあの状態で平気な顔をしていられたのか疑問でしかないらしく、1週間かけて睡眠や食事の大事さを語られている。
ここまで来ると最早お説教だ。
今日も話を聞いていれば、聞き慣れたノックが響いた。
「どうぞー」
「ナルミさん、体調はどうですか?」
「だいぶ良くなりましたよ」
入ってきたアヴィスさんは私の言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
彼は飽きもせず、毎日お見舞いに来てくれている。
いつもは楽しそうに色んな話をしてくれるのだが今日は定位置になりつつある椅子に腰かけると、珍しくため息をついた。
「どうかされましたか?」
「あー…苦手な人に絡まれたっていうか」
ごにょごにょと口籠もりながら話すアヴィスさんを見て首を傾げる。
すると、前触れなくカーテンが開かれた。
そこには腕を組んだルクスさんがいた。
「他の代表者を苦手って言わないの」
ルクスさんの言葉にアヴィスさんは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「代表者?」
「アヴィスは水の魔法使いだけれど、ラティウム国には他にも4人の魔法使いがいるの」
ルクスさんの言葉にアヴィスさんは小さく呻き声をあげる。
どうやらこの手の話は苦手なのだろう。
「魔法には炎、水、植物、土、風という5つの属性があって、ラティウム国はそれぞれの属性に代表者を決めているの。アヴィスはその中の水の代表者」
指を指されたアヴィスさんは恨めしそうにルクスさんを睨む。
しかし、彼女は全く気にしていないようだ。
「代表者なんて言われるけど、みんな好き勝手やってるだけだろ」
「協調性ないのはあんただけよ。他の代表者は気にしてたわよ」
「だって、僕協調とかそういうの嫌いだし」
拗ねるように唇を突き出すアヴィスさんに、ルクスさんは呆れたように大きなため息をつく。
「で、今日の代表者会議で何か言われたの?」
「会議中じゃなくて、会議が終わってからすぐに退室しようとしたら絡まれた」
「そりゃ3年ぶりに顔出した仲間に声かけないわけないでしょ」
「3年ぶり?」
「コイツ色々あって、会議をサボり続けてたの。そんな奴が急に会議に顔出したら皆呼び止めようとするでしょうよ」
ルクスさんの言葉に同意するように頷けば、アヴィスさんは気まずそうに口を開いた。
「ナルミさんのお見舞いに来ただけだったんだけど、入り口で偶然他の代表者に会っちゃってそのまま連行された」
「連行て」
「拘束されて担がれた僕の気持ちを考えてほしいよね」
遠い目をするアヴィスさんに、お疲れ様でした、としか言えなかった。
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